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二人が買い物を楽しんでいる頃、モネが訪ねた宿に一人の男が到着していた。渋みのある緑の大きな羽織物で覆われ、整えられた髭には品の良さを醸し出しているその男は、いつも扉を開いたら鳴る音に直ぐに姿を見せるあの宿の主が、ほんの十数秒遅れて出てきただけのことに違和感を感じた。
「あらあらソム様、いつもありがとうございます。ようこそ。さあ、いつものお部屋へどうぞ」
「他の客でも、宿泊になるのかね」
「ああ、本日では無いのですが。
珍しくね、街に来たばかりと言う可愛らしいお嬢さんがお泊まりに。
それで、お部屋を整えておりました」
「街に来たばかり?それは珍しいね。
それならば私も、手伝おう」
「そのような事は、させられませんよ。
顔馴染みとはいえ、お客様ですから。
さあ、行きましょう」
陽が陰り始めた頃、買い物を終えた二人は食事の支度をしていた。モネは捌いてもらった魚をまた切り分けて、ワイスは果実を煮込んでいた。味身をしたモネはもう一口とねだり、ワイスは魚をつまんでいた。食卓に並ぶ頃には、二人のお腹は膨れていた。葡萄酒や果汁と共に食事は楽しいものとなった。
「そう言えば、この街の人は下の街には降りないの?」
「降りるわけないじゃない。仕事で降りる人は居ても、好き好んで降りる人は居ないわね、私の知る限りでは。私も嫌よ、下へ行くなんて。お祖父さんの事があったから、たまに降りていたけれども。その事で私もこの辺じゃ変な目で見られていたし、幼い頃から」
「そんな、星の降り注ぐ町は良い所なのに」
「みんな知らないと思うわよ?私も知らなかったし。学校では教えてくれなかったもの、そんな町があるなんて。下の町から上がってくる人も少ないけれど、似たようなものなんじゃない?」
「そうなんですかね。
まあ私も、上に行きたいって言ったらあんまり良い顔されなかったし、笑われましたね。
多くの人は、上には興味無いって感じでしたけれど」
「だからね、あんまり下から来たなんて言わない方が良いかもね。もしかしたら、泊めて貰えなくなるかもよ?」
「でも、それならワイスさんは良い人ね。
下から来たって言った私に、こんなにも良くしてくれた。私、そんな常識?があるなんて知らなかったから、もし他の人に初めて会っていたら、この街も嫌いになっていたかも知れない」
「あなたがあまりにも不憫だったから、色んな意味でね」
「どういう意味ですか」
「内緒よ」




