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樹。大きな樹。それはとても、とても大きな樹。その根元に広がる町、そこには上からふわりと散った葉や、ぽつりと落ちてきた木の実。根に生える茸に小川の魚など、実りに溢れている。木漏れ日からの木漏れ日に、光る蟲や明かるくなる花と、色とりどりに色づく夜。
「この樹は、美しかった」
いつの時か、赤く光るトゲトゲとした樹の実と共に、一人の男が町へ降り注ぎ、今際に彼はそう言った。そして男が実と共に降り注ぐ光景に、町は星の降り注ぐ町、と言われるようになった。
「へえー。
それならあたしも見てみたい!」
「見上げてごらん。
夜空の星を眺めるように」
「そうじゃなくて、樹を全部見てみたいのよ!」
古ぼけたお爺さんから、星の降り注ぐ町の話を聞いて、飛び跳ねて喜ぶ女の子。その様子をなだめようにも、彼女はくるりと踊りながら、花唄を口ずさんでいる。
「モネ、落ち着きなさい。
上へは簡単には登れないのだよ」
そんなお爺さんの言うことをつまみながらも、くるりとんとんとモネは外へ出て行った。そしてお爺さんの言った通り、眺めるように上を見上げた。少女に見えたのは、根の隙間から暗がりに薄らと掛かる雲と、それぞれに明るい花や蟲に照らされる、木の幹だった。それ等をしばらく眺めた彼女は深く息をして、また部屋へ戻って行った。
それから十数年後、モネはまた古ぼけたお爺さんの所へ来ていた。そしてこれまでにも、散々聞いていたであろう星の降り注ぐ町の話を聞いていた。
「はいはい、わかったわよ。
でもね、私は見てみたいの」
「どうしても、上へ行くのかい」
彼女がお爺さんの話を耳に留め外へ出ようとすると、お爺さんが引き止めるように声を掛けた。そして葉で包まれた小さな袋を、モネへ手渡した。袋を開くと、中には赤く光る樹の実の欠片が入っていた。
「それは御守りじゃ。
上へ行くなら、お前の方が必要じゃろうて」
「…キレイ。お爺ちゃんありがとう。
帰って来たら、その時は私が樹の話を沢山するね!」
その日から数日後、古ぼけたお爺さんは話すことは無くなり、目を開ける事も無くなった。そして動かなくなったお爺さんは、樹の根元へ寝かされると、樹の一部となるように樹へ還っていった。