5話
人類国家のオラフティア王国には
さすがに魔王国の歴代王までは歴史書には載らない。
なので「俺」の他に魔王が何人もいてもおかしくはない。
魔王の生まれ変わりと言ったところで魔族からしたら
「イヤ、生きてますし?魔王様」とか
「何時の時代の魔王様の話ですか?」
ってなりかねないというのをすっかり忘れていた。
うん、まぁしょうがない。
なるようになるだろう。
アードラの部屋に入ると中は普通の宿屋で特に見るべきものはなかった。
安宿でも無く高級というわけでもない部屋だ。
ベッドにテーブル、椅子が2脚。
別段変わった所は見受けられない。
テーブルの椅子を引くとアードラは座り、どうぞと
正面の椅子を指さす。
僕は素直に従って椅子を引き座る。
「まずは、忠告。あまりこちらに深入りしないでほしいかな」
これはアードラの単なる保身ではなく僕の事も考えての事だろう。
「魔族」と繋がる「貴族」が居ては危険視されること間違いなしである。
ただ、はっきりと「魔族」に深入りとは言っていない。
あくまで「こちら」でありどうとでも取れてしまうが。
「それは、・・・わかりました」
今は頷くしかない。
いずれ魔国に遊びに行けるようになりたいと
思っている僕ではあるが・・・今は仕方ない。
なので。
「では、話を進めていきます」
まずは弟子にしてもらう事だ。
「まずは何故、私に師事を求めるのか?ってところね」
「それは簡単なことです。貴女よりも強い人がこの町にいないからですね」
「それじゃ、私より強い人でも居れば乗り換えちゃうわけ?」
「多分、それは無いと思います。魔族である貴女に魔法を教わる方が
効率はいいですからね。今の人種ではちょっと難しい所もあります。
できれば『魔王』の時の力くらいは持っておきたいですから
魔族側の繋ぎも欲しかった所なんです」
ええ。だから逃しませんよ、このチャンス。
「貴方、私のこと魔族って決めつけてるけど・・・
魔力視も使えて、さらに『魔王』?」
魔力視は一般的に高ランクの冒険者等が持っていると言われているが
実際は視覚に魔力を集め魔力自体を視認できるようにする事である。
何故、高ランクの冒険者であるか?というのもそれくらいになると
身体強化のレベルがある一定量を超えているからである。
身体強化は当然ながら視力の強化も同時に行うため魔力視と同様の効果がでる。
高レベル冒険者等はこれらができて当然であるためだ。
「先に言ったんですが、生まれ変わりというやつですね。
初めての事で自分でも戸惑っていますが、前の記憶がある人って感じでしょうかね
それがたまたま、魔族の一人で『魔王』って言われてた人だったという感じですよ」
二度目の人生というかなんというか。
自分の中に記憶としてあるのだ。濃厚な映像で実感の籠った記憶。
ただ、今の自分とは違うという認識だけはまだある。
戻っている記憶もまだ中途半端であり、強くなりたいと思う心に
引っ張られている感じはあるけれど。
「まぁいいわ。話半分に聞いといてあげる。
それと一応私は冒険者ギルドに所属しているのよ。
指名依頼としてなら受けてあげれるわ」
「そうですね。では指名依頼でお願いします。
任期は僕が王都の学園に通う事になるまでの約2年って事になります」
貴族子女が通う学園が始まるのが2年後の12歳からである。
そうなるとさすがに王都での生活に付き合わせなければならなくなる。
そこまでは頼めない。
「では、改めて。アードラ・スフォリスよ。呼び方は任せるわ」
「では僕も。アスト・ローグです。アストと呼んでください」
差し出されたアードラの右手を握り握手を交わす。
「それはいいけど、金額はそれなりになると思うけれど大丈夫なの?」
依頼するということは当たり前だがお金が発生する。
とりあえず、護衛として父に相談するとして
まずは
「つ、月払いでお願いします」
深く頭を下げてお願いした。
自分のお小遣いの範囲だけで何とか出来ればしたい所である。
貧乏男爵家の三男には自由になるお金なんて高がしれてるのである。
しばらく雑談を交えて僕は帰路に付いた。