32話
ギリギリで魔法が届いた。
間一髪だったと言っていい。
アースウォールの魔法はあまり得意ではないが威力のみ特化させた。
そのため巨大な土壁ができて向こう側が全く見えない。
倒れて動けない女を焼き殺そうとするとかちょっと正気を疑うレベルだ。
このドラゴンが操られていなければここまで『聖女』のみを狙う事は無かったはずだ。
巨大な土壁のおかげでこちらが見えずドラゴンの攻撃が止まっているのは操者から現場が確認できないからだろう。
とすると、操っている相手は森の奧の方か。
まずは王女をお姫様抱っこして素早くこの場を離れて安全な場所まで運ぶと持っていたポーションを渡す。
「さてと、まずは回復しとけよ。王女。その他の4人も助けてくるからちょっとまってろ」
頭をぽんと叩くと高速でドラゴンの右腕側から駆け抜けて森の方へと突き進むとやはり居た。
探知魔法のぎりぎりの森の奧に一人居る。
身体強化を最大まで上げるとその人影くらいまでが見えた。
腰に差している短剣に魔力を通して相手に悟られないように最速の投擲を放つ。
しかし、探知魔法から逃げていくのが確認できてしまった。
「ちっ、逃げられたか・・・」
操っていた奴なのだろう、さっきまで動きを止めていたドラゴンが動きだす。
命令が無くなったのか操作範囲でもあるのか分からないが、本来の獣の動きに変わる。
その間に一人ポーションを飲ませて回復させる。
彼女は傷口を抑えていたが動けない程ではないようだった。
「おい、他の奴らを頼めるか?」
「お、お前は誰だ。ここは危険だ!速く逃げろ!」
まぁ、学生にしか見えなかったんだろうが速くこの場から逃げて欲しい。
このドラゴンは今怒っている状態のようだから。
「誰でもいいだろうが、それより仲間助けて一旦退避しろ!」
回復用のポーションを押し付けて、仲間の方に視線を送る。
もう一人前衛であろう女が大剣を杖代わりに起き上がっているが戦えるかは微妙だ。
強者の攻撃は一度でも受けてしまうと立て直しが厳しくなる。
だからすべて躱すか、一瞬で先に殺すかだ。
「わ、わかった。ガルーラ一旦引くぞ!フォスティはパミラを頼む!」
4人組の冒険者はそれぞれ行動を開始する中、ドラゴンは空へと飛びあがる。
周りを確認して何かを探しているようだ。
ドラゴンの知能はかなり高いと言われている。
恐らくは操っていた奴を探しているのだろうが、見つけるのは困難だろう。
しばらく森を旋回した後、こちらへと戻ってくる。
警戒している様子のドラゴンへと声をかける。
「八つ当たりでもしにきたか?」
操っていた人間に対しての怒りが収まらないのか叫び声をあげると尻尾を振り回し回転をする。
「グオォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ズァァァァァーーーーッと地面をこする様に薙ぎ払うと土煙が起きる。
素早く空中に逃れたがそこをドラゴンの右手が襲い来る。
「グゥワァォォォ!!!」
身体強化ではその鉄すらも切り裂く鋭利な爪を受ける事は不可能である。
「くっそ!まじかよ!」
明らかに狙ったコンビネーションだ。
素早く剣を振ってその爪に直接当てる事で自分を意図的に弾き飛ばす事で切り裂かれるのを回避する。
当然だが吹っ飛ばされて地面に叩きつけられるがダメージ自体は少ない。
が、さらにそこを足で踏みつけに来た。
動きが通常種より早いのと、攻撃の多彩さが目立つ。
暗くてよくわからなかったがこれはレッドドラゴンの上位種なのかもしれない。
転がりながら体制を立て直すと今度は溜めのブレスの体制に入っているのが見えた。
「くっそ!次から次へと殺意が高いな!」
こちらが動ける範囲を想定しているのは間違いない。
回避した所で辺り一面火の海になる。
「ここは、防御しかない!」
土魔法のアースウォールを最速で最大展開する。
目の前に巨大な土壁が出来上がると同時にドラゴンブレスが直撃する。
「まじかよ!」
すぐに土壁がミシミシと音を立て始めた。
勢いの収まらないブレスが続く。
このまま焼け死ぬ気はないが、まともに反撃できる隙がない。
「隙がないなら、作るまでだ! 身体強化レベル3!」
一瞬で限界の先の強化を自分に施し、今にも壊れそうな土壁を駆け上る。
「うぉぉりゃぁあああああ!」
噴き出し続けるブレスを中断しこちらを見上げるその目に魔力を通した剣で切り付ける。
そのままドラゴンの背後へと回り込む。
「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ドラゴンは数歩下がりながらこちらを見てくるとそのまま空中へと飛びあがる。
距離を取り警戒心を強めたドラゴンはブレスではなく巨大な火の玉をその眼前に作り上げていく。
「この辺り一帯消し飛ぶ勢いだな・・・」
あれが落ちてくれば恐らくこの辺りを中心に半径100メートルは火の海だろう。
姫さんの場所までは被害が出ないかもしれないが・・・。
さすがの僕でもここに居ては確実に死んでしまうだろう。
が、ドラゴンは逃げる事も許さないと片目で睨みつけている。
これは詰んだか・・・。
いや、あきらめるのは早いか。
姫さんに聞いたアレをやってみるしかない。
魔力を練り上げるように肥大していく火の玉を見ながらこちらも魔力を集中させていく。
「ガガガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
まるで死ねと言わんばかりに吠えるドラゴンが僕に向けて火の玉を発射した。
目の前に迫る火の玉を今の僕ではどうする事も出来ない。
だから、この魔法を放つ!
評価、ブックマークありがとうございます。
ちょとずつ増えてる感じ?ですかね?




