3話
500年も経つとさすがに当時の仲間は生きてはいないかもしれない。
魔族の一部に長寿な者も居たが果たして生きているかどうかは解らない。
でも、いつかは魔族領を訪れてみるものいいかもしれない。
ということで。
目前の冒険者の女性である。
テーブル席に二人向かい合って座り彼女を見る。
赤い瞳と腰まで伸びる赤い髪が特徴的で色っぽい体つきをしている
美人系のおねーさんといったところだ。
色っぽい部分は子供である僕にはあまり関係がない所ではあるのだが。
「先日は危ない所を助けていただきありがとうございます」
貴族の子息らしく丁寧に挨拶をする。
先日助けていただいた冒険者の女性がいる宿にお礼に伺っていた。
さすがに10歳ともなるとこういった礼儀作法から話し方までを
教育させられていた。
そう、礼儀は大事ですからね?
「偶然通りかかっただけですよ。坊ちゃん。」
そう言ってまだ20歳前後に見える彼女『アードラ・スフォリス』は
宿の1階に設けられた食堂で紅茶らしき飲み物を一口飲む。
安宿の食堂にいるにしては仕草が微妙に優雅である。
「貴女にとっては偶然かもしれませんが
僕にとっては必然だったと思っています」
「そうかい」
何を言っているのか解らない顔をして話を流そうとするアードラ。
まぁある程度はスルーされるだろうとは思っていた。
運命とか自分でも信じないしね。
ただ、これで終わるわけじゃない。
「実は折り入ってお願いがあります」
「お願い?」
「冒険者である貴女に僕を鍛えて欲しいのです!」
突然の依頼である。
冒険者として鍛えて欲しい事を告げたんだが・・・。
ある意味この時は世間をまだわかっていないかった。
冒険者にとっては弟子を取る事など意味がない。
引退したのならまだしも現役では
ご飯の種にすらならない事はしないのである。
上級貴族の専属の剣術指南であるならまだしもである。
「意味が解らないわね。剣術指南所にでも通えばいいだろうに」
至極当たり前だった。貴族なら剣術指南所なり、
指南役を雇い入れているのが当たり前である。
だからまぁ、やんわりと断わられた。
ええ、想定内ですよ!
が。
ここで引くわけにはいかない。
彼女の魔力がずば抜けているのは見ていて解った事だし。
このレベルの人材はほぼ居ないのだとここ数日で判明していた。
魔力視にて見て回るも誰もが大した魔力を有していない。
領主である父や、兄弟もある意味平凡だった。
冒険者等の集まる場所であるギルドを少しの間見張って視るものの
やはりこのアードラレベルの魔力を持った人は居なかった。
そして、自身の目的の為にもこの規格外の人をとどめておく必要が
あると判断したのだ。
ならば説得する以外にない。
「怒らないで聞いてほしいのですが・・・」
「?」
「貴女は魔族ですよね?」
少し声を抑えて聞こえる範囲を絞る。
推測でしかなかったがまずはそこを突いていく。
恐らく彼女は魔族である。
「そ、そんなわけないでしょう?どうしてそうおもうの?」
動揺と緊張が見て取れた。
ある意味かかったと思う。
では論破するとしよう。
「まず、魔力ですね。はっきり言って桁違いです。
それに、薄っすらとですが常に全身に魔力を帯びていますよね?
恐らくですが幻覚系の魔術にて姿を少しだけ変えているのでは
と思ったわけです」
瞬間、アードラの目が細くなると同時に殺気が向けられた。
首元に突き付けられる剣を幻視するほどの・・・。