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英雄は召喚術士  作者: テリヤキ1号
2/2

初狩りの儀 前編

楽しくやらせていただいてます!


今のところは…(⌒▽⌒)

美しい月夜であった。


「おい!おちこぼれ!」

「うるせぇおちこぼれってゆーな!」

「ほんとのこといわれて逆ギレかーー?」

「うるせーーーー!」


五、六歳ぐらいの二人のオトコの仔が喧嘩を始めた。このぐらいの年の男の子であれば珍しくない。しかしここからは少し普通でない。


最初におちこぼれと罵ったオトコの仔の方は一声、人のものとは思えない吠え声をあげるとみるみるとその姿を変えていった。顔は鼻の辺りから長く伸び、みるみるうちに全身が毛に覆われ、長い爪、鋭い牙が月夜に怪しく光る。


所謂、人狼だ。


ここは獣人族の中でも最強と謳われる狼氏族の集落。戦士である村の男衆はもちろん女子供全てに至るまで屈強な人狼に姿を変えることができる。


…ただ一人を除いて。


罵られた方の男の子は姿を変えることなく、手に持っていた木の棒を構える。

その手は誰から見ても明らかな程震えている。というか、全身、頭の先から足の先までガクガクのブルブルだった。


そう、彼、グラントは変身できないのだ。それどころか狼氏族の才とも言える鋭い嗅覚や圧倒的な身体能力、第六感と呼ばれる超感覚も生まれながらにして持ち合わせていなかった。


だからおちこぼれと呼ばれたのだ。


ここから先は彼等にとって日常。

一方的にグラントが蹂躙されるのだ。才無き者が才ある者に逆らうとこうなるのは道理だ。


暫くして、夜の静かさが戻りつつあった。喧嘩、というより蹂躙が終わったのだ。ボロボロの服を整え、ボコボコの顔中に広がった色んな液体を手で拭き取り、グラントは立つ。今まで行っていた、鍛錬の続きをする為に。


そう彼は鍛錬をしていたのだ。五歳ほどのこどもが夜遅くにやることではない。しかし、昼にやると目立つ。目立つと蹂躙される。まぁ夜でも同じなのだが…


グラントはバカであった。生まれながらにして保有する天賦の才。種族の持つ個性。それを生まれた時に持ってなかったのだ。そんなものいくら鍛錬を積んだところで手に入るわけもない。


グラントはバカであった。今までの鍛錬の日々の中でそれにはとっくに気づいていた。それなのにやめなかった。


グラントはバカであった。狼の才は手に入らない。それならば、そんなものはいらないと諦めた。


グラントはバカであった。それでも、力が欲しかった。この世界を理不尽に蹂躙する異星人から狼氏族を、魔族を、人族を、大陸を、世界を守りたかった。


グラントは、愚かではなかった。彼にとって力とは蹂躙するためのものではなく、守るための手段であった。最も持たざる狼であり常に誰かに守られていた狼は、誰かを守ることのできる力を欲した。


その想いは彼の想像しない形で実現することになる。ただそれは、彼もその周りの者も、まだ知る由もなかった。

故に彼はひたすら棒を振り続ける。到達地点も分からぬまま。どうすべきかも分からぬまま。



そしてまたいつもと同じように夜が明けた。

「んあ、もう朝かァ」

グラントはぼやくように呟く。彼にとって憂鬱な日の始まりであった。というのも、今日は狼氏族の初陣とも言える初狩りの儀が執り行われる日なのだ。

狼氏族は五歳を迎えると四人一組で山に入り、それほど強くはないが簡単に狩れる訳でもない絶妙な強さの魔獣であるタイラントベアの狩りに出る。それを狩り遂げることで狼氏族の一員として、外敵の駆除や害獣の駆除を認められることになる。


誰かを守る。それはグレントの夢であり目標であった。それを、同年代の、しかも普段自分をバカにして見下している奴らに先を越されるとなると心中穏やかではなかった。


「くそ〜、なんであんなヤツらにぃ!」

ガンッ、と思いっきり壁を殴ってみるがあまりの拳の痛さに涙が出た。


「ヴァンのやろうもなー。きのうあんなことしたんだから、ケガの一つでもしてきょうの狩りでやられちまえばいいのに。」

昨夜の事を思い出してそんな悪態を吐くが、顔は苦虫を噛み潰したようだ。

同年代で一番強いと噂されるヴァンの事はキライではあるが、別に恨んでいるわけではなかった。狩りでやられちまう、それは死ぬという事に少なからず直結する。キライとは言え、人の死を願う様な自分に罪悪感が湧いた。


「こーれじゃ、ダメだなぁ。」

そう言いつつグラントは初狩りの儀の執り行われる会場へと歩みを進めた。



会場である村の広場に到着すると、そこはいつもとまるで雰囲気が違っていた。豪華に飾り付けられた並木に、正面には狼氏族の紋章が型どられた木彫りの大きな置物が置いてあった。まあ大事な儀式なのだ。それも当然だろうとグラントはそこまで気にしていなかった。


暫くして、

「よし!じゃあ初狩りの儀を執り行うことをここに宣言する!」

とデカイ声で叫ぶ壮年の白髪の男がいた。族長のカンバである。彼は無駄に声がデカイ。その上あっけらかんとして時に周りが迷惑に思うほど豪快な行動をする。彼のことがグラントは大好きであった。更に付け加えれば、親のいないグランドにとって親身に接してくれるのは族長しかいなかったからというのもある。


ただ、流石のカンバもグラントが初狩りの儀に出ることには反対した。力がなさ過ぎると。


そんなことを思い出してまた怒りたいような落ち込みたいようなは複雑な気分に陥るのだった。


そんなことを考えている間に今回儀式を受ける4人が出てきた。

ヴァンを先頭に、ヴァンの腰巾着のベガン、そして近所に住んでるギン、後は薬屋の娘のリリだ。この4人が生まれた世代はここ最近で最も強く狼の才に愛された世代として有名だった。…自分を除いては…。

まぁ失敗することなく無事終えて自分とは違うステージに立つんだろうなぁとこれまた悔しいやら羨ましいやらくちゃくちゃな気持ちでグラントは見つめていた。


「では、行ってこい!制限は特に設けぬ!大物を期待してるぞぉぉお!!」カンバの無駄にでかい声の激励を受け、

ヴァンは

「任せろジジイ!」と生意気に。

ベガンは、「ヴァンがいればヨユーだぜ」とよいしょよいしょ。

ギンは「…」と無言でクールに頷く。

リリは「がっ、がんばりゅ」と緊張して噛みながら。


「かーわいいなぁーむふふ」グラントはニヤニヤしながらリリを眺めて。


そうして初狩りの儀は始まった。

4人は山の中に姿を消していった。




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