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黄色い鬱金香

作者: 野口 レミ

冬の寒空の中その日も京都の小さな旅館で働いていたのを覚えている。


いつものようにその日のお客様のお部屋のチェックをしているとおかみさんから今日新しい社員の女の子が入るということを聞かされた。


相変わらず急な報告だなと思いながら分かりましたと言い従業員が集まる事務室へと向かった。

事務室に入ると緊張した面持ちでこちらを振り返りぎこちない笑顔で『おはようございます』と挨拶をしてくれた女の子がいた、それがエミとの初めての出会いだった。


少し茶色がかった長髪をポニーテールにしているエミに歩きながら初めにすることなどを説明し、仕事が少し片付いた所でエミのことを少し聞くことが出来た。


エミは二十四歳で保育士から転職してきたらしく子供と話すことは得意だけれど人見知りだというエミ。

『やっぱり、緊張しますね』そう言いながらニコッと笑う顔はかわいく見えた。

しかし最初の彼女の印象は少し見た目がギャルのような風貌だったので派手目な子が苦手な僕はあまりいい印象では無かった。

『よろしくお願いします』

僕もそう言うと嬉しそうにエミは微笑んだ。


エミは天然なところがあるものの仕事を覚えるのが早く凄く助かったのを覚えている。

相談事にも乗っていたのでエミはすぐに僕に対して心を開いてくれた。

エミはよく自分の彼氏の話をしてくれた。

『彼氏は凄く優しいんですよ』

『私にいつも合わせてくれるんです』

など本当に仲がいいのだなと思ったことを覚えている。


自分でも女性と付き合ったことはあるものの本当に好きというものがわかっていなかったのでその時僕はエミの話を聞き相槌を打つことしかできなかった。

『凄く良い彼氏さんなんですね』

『そうなんです!』


恋人を語る彼女は凄く幸せそうな顔をしていた。

毎日そんな話や冗談を言い合い周りの職員からも『もう付き合っちゃえ』など冷やかされるくらい仲良くなっていた。


実際、エミが落ち込んだとき他の職員がいないところでエミが抱きついてきたりする仲になっていた。


自分もエミのことを年上ではあるものの本当の妹のように思っていたので嫌な気持ちはなくむしろ触れるのが心地よかった。

エミが来て半年以上たったある時、僕が職場を辞をめることになった。

そのことを彼女に話すべきか悩んだが言わずに辞めることはできずある日エミに話すことにした。

『突然なのですが……仕事を辞めることになりました!』

少しでも暗い雰囲気にならないようにおどけたように言ったのだがエミは泣き出してしまった。


慌てた僕はエミを人のいないところまで連れて行った。

エミはずっと泣きながら

『なんで?なんで?』

と言っていた、僕はそんなエミを見ていられず初めて自分から抱きしめてしまった。


普段感情があまり出ない自分がこんなにも悲しい気持ちになったのは初めてだった。

自分の胸で泣くエミのことがこんなにも大きな存在になるとは思っていなかった。

気づいた時にはエミにキスをしていた。

その時自覚してしまった、初めて本当に自分から人を好きになったことそして……

この初めての恋は実らないことを。


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