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買い物

 ある程度の生活用品を買い終えた後、荷物を運ぶために三人はクロナの家へと向かった。

 部屋の中に入ると、そこには殺風景な光景が広がっていた。

 物が何一つ置かれていない部屋。まるで引っ越してきたばかりのようだ。実際にその通りなのだが、段ボール箱の一つすら置いていないのは不自然だった。


「流石に、本当に何にもないとは思わなかった」

「同感だ」


 明佳と信二は部屋を見た感想を述べた。


「よくこんな部屋で住んでられるわね、クロナちゃん。正直感心ものね」

「そうですか? 私にとってはこれは普通の生活ですが……」


 きょとんとした表情でクロナは答えた。


「寝るときはどうしているんだ」

「床に寝転がってますよ」

「……通りで服が汚れるわけだ」


 さも同然のように語るクロナに、信二は呆れていた。


「家具とかは後で買うしかないわね。とりあえず服とか日用品を整理しましょう」

「食事は当面は外食で済ますしかないな」

「幸い、クロナちゃんはお金だけはあるからね。どっからそのお金が出てくるのかはわからないけど」


 相変わらず、クロナは謎が多い少女だ。

 出生、生活、大金所持、アイドルへの強い想い。その他にも、謎は多々ある。


「まあ、彼女から話してくれるまでは俺たちも聞かないことにしよう。人は誰でも知られたくない秘密の一つや二つはあるんだし」

「……そうね」


 明佳は釈然としていない表情を浮かべているが、納得するしかないという気持ちもあってか、信二の言葉に頷いた。


「じゃあ、ちゃっちゃと片付けちゃおう。クロナ、これはどこに置けばいい?」

「それは……とりあえずこっちで」

「了解」

「クロナちゃん、こっちは?」

「これは、ここにお願いします」

「はいはい」


 三人は協力して部屋の整理を始めた。




 家具がないことを覗けば、最低限の生活をできるようになるくらいには部屋の様子は変わった。

 それでも、何一つ物が置いていなかった殺風景な光景よりは何倍もましになっただろう。


「じゃあ、明日は家具を買いにいくか」

「私は明日仕事があるから一緒にはいけないよ」


 予め断りを入れておく明佳。


「まあ、明日は買うだけだし何とかなるだろ」

「そ。あ、そうだ。クロナちゃん、これ渡しとくよ」


 明佳は一枚の紙をクロナに渡した。


「これは何ですか?」

「私の連絡先と、ダンスのスケジュールだよ。赤い丸が付いている日ならダンスを教えることができるから、その日は連絡してね」

「あ、ありがとうございます」


 クロナは丁寧にお辞儀をする。


「どういたしまして。じゃあ私はもう帰るね」

「ああ。今日はありがとうな」


 明佳は信二の言葉には返事をせずに部屋から出ていった。


「相変わらずつれない奴だな」

「でも、芯はとても優しい方でしたね」


 最初に会ったときは警戒心が高かったものの、今では少しは心を開いてくれたようだ。


「ま、そうだな。じゃあ俺もそろそろ帰るけど、もう大丈夫か」

「はい。歌の練習も、明日以降からお願いしますね」

「あ、そうだ。言いたいことがあったんだった」


 信二は携帯を取り出し、ブラウザを開いてあるサイトをクロナに見せた。


「クロナはアイドルになりたいって言ってたよな。なら、このオーディションに出てみるのはどうだ」

「オーディションですか」


 クロナはオーディションの詳細を見た。

 対象年齢は12歳~18歳までの、芸能事務所に所属していない少女限定。オーディション内容は、一次審査が歌、二次審査がダンス、最終審査が自作曲での歌とダンス、と書かれている。


「自作曲なんて、私持ってませんよ」

「それなら、俺が作るよ」


 信二は即答した。


「え、でも、アイドルの曲って、バンドの曲とは少し違うんじゃないんですか?」

「心配ないよ。俺は中学の頃から様々なジャンルの曲を作ってきたんだ。その中でもHR/HMとポップ曲は数多く作ったから、アイドルの曲も多分作れると思うんだ」

「じゃあ、お願いしてもいいですか」

「任せろ」


 信二は自分の胸をたたいた。


「じゃあ明日からはこのオーディションを目標に特訓していこう。オーディションは半年後に行われるらしいから、まだ時間はある。今できることをしっかりやろう」

「はい!」

「というか、クロナもいずれはオーディションに出るつもりだったんだろ」

「私、そういうのよくわからなくて……」

「おいおい、それでどうやってアイドルになるつもりだったんだよ」


 クロナの無計画さに、信二は呆れていた。先程から呆れてばかりだな、と信二は思っていた。


「誰かがスカウトしてくれるかなって思ってたんです」

「スカウトって。そんな確率の低いものにすがってたらアイドルになんて一生なれないぞ」

「それは困ります!」


 クロナは声を大きくして言った。


「まあとりあえず今日は休もう。また明日な」

「はい、また明日」

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