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アイドルはどういう存在であるべきか

「レベルが低い……?」

「ええ」


 場の空気など考えず、幸香は話をつづけた。


「これまでにいろんなアイドルを見てきたけど、どの子も最低限の実力すらありゃしない。歌もダンスも、お世辞にも人前に見せられるレベルじゃない。そんなアイドルが、最近はどんどん蔓延してきてるのよ」

「こりゃまた随分と言いますなあ」

「幸香ちゃん的には、私たちはどうなの?」


 祀が幸香に尋ねた。


「そうね……。祀さんは及第点って感じかな。ささらはダメ」

「ちょっとー、何上から目線で語ってるの」

「だって本当のことでしょ」

「私、ファンからは上手いって言われてるのにな」

「じゃあそのファンの耳と目が悪いんでしょ。まあファンだから好きなアイドルに盲目になるのはわかるけどさ」


 言いにくいことを、幸香はきっぱりと言う。


「別にそのアイドルを身内で楽しむのはいいんだけどさ、間違っても歌やダンスが上手いなんてことは言わないでほしいわ。下手な人には下手だって言わないと通じないんだから」

「さっちゃんは何でそんなに歌とダンスの上手さにこだわってるの? アイドルなんだから歌手やダンサーと比べたらそりゃ下手に決まってるのに」

「それが嫌いなのよ」


 ささらの言葉に、幸香は反論する。


「アイドルだから下手でも仕方ない。そんな風潮を作り上げたのは一体誰? 昔にもそういう風潮があったみたいだけど、アイドルだから下手でもいいなんて理由にはならないわよ」

「まあ、そうだよね。かくいう私もそんなに上手いわけじゃないけどさ」

「歌やダンスだけじゃない。最近のアイドルはルックスも意識もそこら辺の素人と変わらない人ばっかり。これで今の業界が盛り上がりを見せてきている、音楽氷河期から少しずつ抜け出してきているなんて言われてるけど、低レベルな人が増えるのが、業界の盛り上がりだとでも言うの?」


 今のアイドルのレベルの低さに怒りを表す幸香は、声を荒げて話を続ける。


「ファンの見る目のなさもそうだけど、一番はこういう状況に対して苦言を呈してはいけない風潮があることよ。レベルの低い、粗悪なものに対して素直なことを言わずに上辺だけの言葉で褒め称える、誰かが少しでも批判的なことを言おうとすると臭い物に蓋をするようにしたり、アンチだなんだと言って追放しようとする。これで自分たちの世界を守っているつもりなんだろうけどさ、その行動が結局は業界の衰退を招いていることに気付いてないのが悲しいわ」

「はっきりと言うねえ」

「アイドルも歌とダンスで商売をしているんだから、その実力が求められるのは当然でしょ。テレビや雑誌の仕事が忙しいとか、そんなのは理由にならない。言い訳して自分の実力のなさを正当化しているだけ」

「でもさ、世間の風潮的には歌やダンスの上手さを求めるなら、アイドルよりもそれに特化したアーティストを見た方がいいって感じじゃん。あくまでもアイドルは親しみやすくて身近に感じられる存在って感じだと思うけどなあ」

「そのアイドルの定義が間違ってきているのよ。アイドルというのは本来偶像って意味でしょ。つまり崇拝する対象であるということ。歌もダンスも下手な人物を、崇拝したいなんて思わないでしょ。自分とは違った存在で、手が届かないと思っているからこそ、崇拝したくなる。それがアイドルというものなのよ」

「なるほどね」


 幸香とささらの意見を聞いていた祀が口を開く。


「要するに、ささらちゃんの思い描くアイドルというのは、身近な存在であるものということ。対して幸香ちゃんの思い描くアイドルは、手が届かない高嶺の花のような存在であるものということ。二人の意見が違うのは、アイドルというものをどう捉えているかが違うからなんだね」


 祀はこれまでの意見を簡潔にまとめた。


「ささらちゃんにとってはアイドルは親しみやすさが大事だから、歌やダンスの上手さよりもキャラクター性を重視している。だから歌やダンスの上手さを求めるならアイドルじゃなくて本職の人間に求めるべきという主張。それは理解できるね」

「そーでしょ!」

「幸香ちゃんにとってはアイドルは崇拝する対象だから歌もダンスも高いレベルが必要だと思ってる。なぜなら、歌もダンスも下手な人は崇拝する対象にないから。アイドルは手が届かない存在であるべきで、だからこそアイドル本人には高い実力が求められるという主張。うーん、どっちもわかるなあ」

「私はささらの意見は理解できないけどね」


 二人の論に対し、うんうんと頷く祀。


「私の結論としては、どっちが真に求められているアイドルなのかっていうのは、今の業界が物語っているんじゃないかな。さっきも言ったけど、今の業界は利益が第一でとにかく儲かることができればそれでいいって感じだから、如何にどっちが儲かるかを考えてみる。となると実力の高さよりも親しみやすさの方がいいのかもしれないね。ファンにとっては、自分を見てくれるってことが何より幸福なことだろうし、そういう人にはお金を落としたくなるものだと思う」

「ほらー! まっちゃんもそう言ってるじゃん」

「だからその考えが業界の衰退を招いているんだって。長い目で見ようとせず、今の自分が良ければいいってことでしょ。そんなんだから音楽氷河期なんてものが訪れたのよ。音楽が廃れた理由は娯楽の多様化が原因だから、なんて言われてるけど、本当は聞く価値もない音楽ばかりが溢れたからでしょ。そんなものが蔓延するのなら、廃れていくのなんて当たり前よ。私はそれを繰り返したくないから、アイドルを実力主義にしようとしているのよ」


 幸香はあくまでも自分の主張を曲げることはしない。固い信念があるからこその主張なのだ。


「まあ結論が出づらい議題かな、これは。次の話題に行った方がいいと思うよ、ささらちゃん」


 これ以上会話しても答えが出ないと悟った祀は、話題を次に移すことを提案した。

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