アイドル・トリニティーン②
「さあ始まりました、アイドル・トリニティーン特別番組~!」
アイドル・トリニティーンの一人である志賀ささらが司会として番組を進行する。
「このメンツを集めるのにめっちゃ苦労しましたよー。この番組を成立させるために、わざわざ私がプロデューサーに頼んで二人のスケジュールを抑えたんですからね」
ささらが祀と幸香の方へ視線を向ける。
「……なんでそこまでして私たちを集めたの?」
祀が不思議そうに尋ねる。
「そりゃ、ファンの期待に応えたいからだよー。住んでるところが違うし、この三人が揃うことなんて滅多にないんだから」
ささらは関西出身で、祀は九州出身、そして幸香は関東出身と、三人とも異なっているため、出会うことがほとんどないのだ。
仕事での共演もこれまでに一度もなかった。ささらがバラエティ中心であるのに対して、幸香は歌番組のみの出演となっており、祀に至ってはテレビにほとんど出ず、ネットの番組が中心で、かつ自分が出たいと思ったもののみ出演という極めて珍しいやり方をしていた。
「私は別に、出るつもりじゃなかったんだけどね。社長がどうしても出ろってうるさいから」
幸香が不満そうに呟く。
「そりゃ、私のテクニックでさっちゃんとこの社長を手籠めにしたからね。私の言うことを聞かせる操り人形みたいなものだよ」
「手籠めってあの社長……。というかさっちゃんって言うな」
幸香はため息をついた後、祀の方へ顔を向けた。
「祀さんは何で出たの? こういう番組に興味のある人だとは思えないけど」
「ギャラが高かったから」
テーブルに置いてある菓子を食べながら、祀が答える。
「ギャラ目当てなのね」
「相場の10倍以上の値を出されたから、出とかないと勿体ないかなって思って」
「ふーん。一体いくら貰ったのかしらね」
「それに」
ジュースを飲みながら話を続ける。
「二人にも会ってみたいなーって思ってたし」
「私たちに会って、何かしたいことでもあったの?」
「いや、単純に興味本位」
幸香の問いに、きっぱりと答える祀。
「それで、この三人で集まってこの後何するん? このままお菓子食べてるだけで終わるなら、それでいいけど」
「もちろんそんなんで終わらせるわけないでしょ! 私が用意した企画があるんだよ」
ささらは脇に置いてあったフリップを取り出した。
「ではまず一個目、『業界の本音を語っちゃおう!』」
「業界の本音?」
「そう、日頃この業界で仕事してたら、言いたいことって結構溜まってるでしょ? でもいろんな都合で中々そういうのって話せないじゃん。だからここでぶちまけちゃおうってことよ」
「いろんな都合で言えないんじゃ、ここでも言えないでしょ」
幸香が至極もっともなことを言った。
「大丈夫大丈夫。私がプロデューサーに許可貰ってるから」
「何が大丈夫なのよ」
「何か起きても、最悪プロデューサーのクビが吹っ飛ぶだけだから問題なし!」
「だいぶ酷いわね……」
あきれている幸香を尻目に、ささらは祀に問いかける。
「それじゃ、まっちゃんは何か業界に対して言いたいことある?」
「うーん……」
祀は少し考え、
「最近利益ばっかりになってるのが気になってるかな。新しい挑戦とかせずに、既存の人気のあるものの後追いとかばかりで、とにかく損をしたくないっていうのが透けて見えるのが私は気になってる」
と言った。
「なるほどねー。でもそういうまっちゃんだってギャラ高かったからこの仕事受けたんでしょ?」
「さっきも言ったけど、私はこの番組に出るってだけで通常の10倍以上のギャラをもらってる。これって他の番組出演依頼じゃ考えられないことで、この番組の利益が制作費以上に出るとは思ってないから、私はそこは評価してるんだよ。だから出た」
「ふーん、なんか後付けっぽい気もするけどね」
「この番組って、何言ってもOKだし、それで問題が起きたらプロデューサーやテレビ局に被害が行くんでしょ? 得られるものが利益よりも不利益の方が高そうな番組を、テレビ局側が作りたいとは思えないし、成功すればそれなりの利益はあるんだろうけど、損を覚悟で番組作ってるって感じがしてるから、私は好きだよ」
祀が語る。
自分の意見を述べる祀に、二人は関心していた。
「ほうほう、まっちゃんの意見はわかったよ。じゃあ次はさっちゃん!」
「私は、言いたいことが決まってるわ」
幸香は一呼吸間を置いて、
「今のアイドルたちのレベルが低すぎる」
と言った。