ATM結成
三日後、クロナたち三人は事務所の客室に集まっていた。
今日は恵未が返事を出す期日だ。恵未がアイドルをやる、やらないにしろ返事はするということなので、とりあえず待っているのだ。
「恵未、いい返事をしてくれるかな」
「どうだろうね」
「……」
彩希と時雨は少し不安そうだが、クロナは特に言葉を発することもない様子だ。
時計の針が進む音だけが、部屋に響き渡る。一分が一時間にも思える長さだ。
この空気にしびれを切らしたのか、突然時雨が立ち上がった。
「よし! 恵未が来るまでこの時雨ちゃんが盛り上げちゃう……」
そう時雨が言った瞬間、客室のドアが開いた。中に入ってきたのは恵未だ。
「あ、ここにいた」
「恵未ちゃん」
「ちょ、ちょっと! タイミング悪いよ!」
何かしようと思っていた時雨が、恵未に近づきながら言った。
「あ、あれ? 私邪魔しちゃったかな」
「ううん、全然。むしろ来てくれてありがとう」
「くーちゃん、さりげなく酷いこと言うね……」
彩希が時雨の方へと目を向けると、隅っこで正座をしながら落ち込んでいる姿が写った。
「それで、返事を聞いていいかな?」
クロナは澄んだ瞳で、恵未を見つめる。
「社長といろいろ話したよ。その結果……」
恵未は一呼吸おいてから、
「本日からこの事務所にお世話になることになったよ。よろしくお願いします」
と言い、恵未は深々と礼をした。
「ということは……」
「うん。これからよろしくね、三人とも」
恵未はにこりと微笑んだ。
「や、やったー!」
これまで落ち着いた表情を見せていたクロナだったが、恵未の言葉を聞いた途端普段の柔和な少女の顔へと戻った。内心は心配だったのだろう。
「いやー、めでたいっ。私は新屋彩希。これからよろしくね」
「私は錠本時雨だよっ。よ・ろ・し・く・ね☆」
「いきなりキャラつくるんだね、時雨……」
クロナたち三人は恵未を快く迎え入れた。
「あ、それと、社長から言伝頼まれてたんだった。私たち四人でユニット組むんだって」
「……おおー」
「まあ、何となくそういうことになるだろうと思ってたよ」
唐突に放たれた恵未の言葉だったが、三人はさほど驚いた様子はない。
「私たちがユニットを組めば、とんでもない音楽ができそうな気がするから四人で組むんだって」
「そっかあ。じゃあまずはユニット名を決めなきゃだねっ☆」
「ユニット名か……」
四人は考え込んだ。しばらくすると、クロナが手をあげ、
「あの、私が考えたものがあるんですけど、いいですか?」
と申し出た。
「え、どういうの?」
「ATMっていうんですけど、どうですか」
「ATM?」
「なんかお金おろせそうだね」
「どういう意味なの?」
恵未、彩希、時雨の注目がクロナに集まった。
クロナは一瞬沈黙した後、
「……あなたに、届ける、ミュージック、って意味です」
と言った。
「なるほど。それらの頭文字をとってATMっていうわけだね」
「由来はいいと思うけど、なんか誤解されそう……」
「私は気に入ったよっ☆」
「時雨ちゃんはいつまでそのキャラでいるの?」
どうやら全員ユニット名が気に入ったようだった。
「じゃあクロナ。あなたがリーダーね」
「……え?」
突然の恵未の言葉に、クロナは目を点にした。
「ユニット名の名づけ親で、私たちの中で一番年上だから、適任かなと思って」
「私も賛成!」
「私もだよっ」
彩希も時雨も、立て続けに賛成する。
「み、皆」
「どう? クロナなら適任だと思うけど」
今度は恵未が、先ほどのクロナと同じような澄んだ目を向けた。
クロナはしばらく考えこんでいたが、全員の賛成があったからか、
「……わかりました。私がリーダーやります」
と承諾した。
「よし、じゃあATM結成だね!」
「それじゃあクロナ、ユニット結成の第一声を頼むよ」
「え? 無茶ぶりが過ぎませんか!?」
「まあまあそういわずに」
クロナは少し困った表情を浮かべながら、
「では、ATM、ここに始動です!」
と気合をいれた。それに応えるように、
「「「おー!」」」
とほかの三人も大きく返事をした。




