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第8話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 体育会系の連中はユニフォームや道具ですぐに分かった。野球部、テニス部、サッカー部、柔道部に剣道部。文化系も工夫をしている。着物に扇子せんすは落研だ。ギターを抱えてるのは軽音だろう。掲げたプラカードで分かるところも多い。ド派手な金髪野郎は英会話部で白衣の連中は科学部らしい。チャイナドレスはゲーム同好会、セーラー服のコスプレは漫画研究会ときたもんだ。そう言えば昨日迪子先生が言ってたっけ。うちの勧誘は派手だって。ああ、これからあの混沌こんとんを突破していくのかと思うとゾッとした。


「ねえあねにゃん、軽音に入らない?」

「姉小路たん、サッカー部のマネージャやらないっすか? ねえって姉小路たんってばあ~っ!」


 軽く愛想笑いを浮かべ、立ち止まらずにずんずん進む。


「テニス部ですっ! 女子の初心者大歓迎ですっ! って姉小路さんっ!」


 みんな僕の名前知ってるんだ。そりゃあ女子はたったのふたりだからな。


「姉小路さんの着こなしと掛けて、僕の持ち物と解くです。その心は。ほら、いいセンスでしょう!」


 僕のためにわざわざ謎かけまで用意した落研のメガネ君。座布団全部取れ、って思うけど言わない。


 と。


「ごめんなさい。あたしはどこにも入りませんから」

「そんなこと言わないでさあ、せめて見学だけでも!」

「ちょっと待て野球部。うちが先だっただろ。ねえ遊里ゆりさん!」

「黙れノッコン、こっちが先だった!」

「違うよね、遊里さん!」

「遊里たん遊里たん、アホは放っといてサッカー部のマネージャやらないっすか?」

「ごら、漁夫の利するな!」


 野郎の群れに取り囲まれるマナ。愛想笑いは痛々しく、自分で自分をぎゅっと抱きしめて、チラチラ辺りを窺っている。


「マナ!」


 小柄な落研メガネ君を押しのけて駆けた。こんなことで彼女が剛勇を嫌いになったら。男ばかりは嫌だって思ったら。そう思うと居ても立ってもいられない――


「おはよう、マナ」


 ガタイのいい運動部連中を押しのけた。いや、突き飛ばしたって言う方が正しいかも知れない。


「さ、一緒に行きましょ!」

「はいいっ!」


 ぱあああっ、と咲いた彼女の笑顔に胸が早鳴る。

 戸惑いがちに差し出した僕の手をぎゅっと握りしめた彼女。

 しかし、あっという間に目の前に人だかりが出来上がる。


「姉小路さんもキタ~ッ!」

「待ってよ待ってよ!」


「ちょっとそこ、どいて貰えます?」


 ここは毅然と男らしく、じゃなくって強い女を演じなきゃ。


「話だけ、ねえ話だけでも聞いてよ」

「授業までまだ時間あるしさ」


 縋るように僕を見上げるマナの瞳。

 しかし行く手にはラグビー部にサッカー部、剣道部、柔道部、それに卓球部に美術部も押し寄せてきて二重三重に囲まれた。


「ちょっと通してよ?」

「ねえねえ落研だけど、さて、謎かけです」


 また落研のメガネ君。努力は買うけど、ああもうこいつら――


「僕らの部員勧誘と掛けて、ブラックホールと解くです。その心は――」

「脱出不可能、って言いたいの?」

「正解です。はい、萌えイラスト付き座布団です」

「いらないからどいて!」


 メガネ君が残念そうに道を空けると、今度は白衣を着たノッポ野郎が。


「では簡単な科学マジックを……」

「色が変わるんでしょ? それ、リトマス試験紙よね」

「どどどど、どうしてタネを?」


 誰でも知ってるだろ、そんなの!

 と、背後から声がした。


「皆さん、おふたりが困ってるじゃないですか!」


 ご自慢のブロンドをこれ見よがしに掻き上げながら堂々のご登場は同クラの西園寺。僕にキザっぽく視線を流すと。


「諸君、諦めてくれ! 姉小路さんはこの「俺部」に入るんだから。ねえ、姉小路さん!」


 元気いっぱいにサムズアップする俺部部長。

 昨日こっぴどく振ってあげたのに不死鳥のように蘇る笑顔と自信と勘違い。もしかして、こいつゾンビですか? しかも「俺部」って何? ったく、今日はどう料理してあげようか――


 と、思ったのも束の間。


「なんだお前?」


 西園寺の周りをぞろぞろと男たちが取り囲む。


「横取りしようってのか?」

「おまえ一年だよな。柔道部に入れや!」

「ちょっ、ちょっと待って。話せば分かる。話せば分かる~っ!」


 哀れ西園寺。

 断末魔の叫びを残して、あっという間にブラックホールに飲み込まれていった。

 その隙に駆け足で人だかりを抜け出した僕とマナ。


「ねえ彼、どうする?」

「自業自得よ」

「そうだけど―― お礼だけは言っておきましょうよ」


 ニコリとマナの笑顔に、僕の気持ちも落ち着いた。


「ふふっ、そうね!」


 ふたりは後ろを振り返り、せ~ので『ありがとう』って叫んだ。

 闇に揉まれて消えていく西園寺に、僕らの声が届いたかどうかは分からないけれど。



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