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第7話


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 何考てんだ、母さんは!

 僕は剛勇をやめないって言ってるのに。

 そもそも女装して彼女を引き留めるよう仕向けたのは母さんじゃないか。

 それを今度は手のひらを返したように元の学校に戻れと言うなんて。そのことをマナに吹き込むなんて――


 ガツンと言ってやろうと、朝、学園長室に行ったら会議中とかでいなかった。

 ホント頭にくる。


「千歳、どうしたのわよ、顔が怖いわよ?」

「え? 何でもないわ」

「さあお昼ご飯わよ。一緒に生徒会女子部で食べるわよ」

「ごめんサリー、ちょっと用事があるの。後で行くわ」


 教室を出るとサリーは右手に僕は左手に。マナとは今朝から話をしていない。挨拶はしたけどちょっと気まずい感じ。その辺のとこサリーは鈍感だから助かってるけど。


 学園長室では母さんが箱に入ったバランス栄養食で栄養素を補給中だった。


「あら千歳、どうしたの? あなたも食べる? このチーズ味は美味しいわよ」

 いらない、と首を横に振る。母さんから物を貰ったりしたら後々大変だ。すぐにギブアンドテイクとか言い始めるに決まってるのだ――


「入試の出願も順調よ。さっきも中学を2校ほど回ってきたけど、あなた大人気ね」


 訪問した学校の進路担当の先生は決まってオープンスクールでの僕の活躍を持てはやすらしい。高校生とは思えないほど堂々と落ち着いていたとか、すっごい美人で見とれてしまったとか、受け答えがしっかりしてたとか。自主自立を地で行く剛勇女子の活躍はオープンスクールに参加した生徒達からも伝わって先生達の間でも話題沸騰なのだとか。


 褒め言葉を並べられ、半分以上はお世辞だと分かっていても思わず頬が緩む―― って、浮かれている場合ではない。


「そんなことより!」

「どんなことより?」


 話をはぐらかす天才の母はバランス栄養食2箱目に手を掛ける。


「マナの…… 遊里さんのことだよ」

「ああ遊里さんね、彼女も人気高いわよ。女子向け説明会で大演説をぶったんでしょ? それに可愛いしね。母さんのお嫁さんにしたいわ」

「母さんにはお父さんがいるでしょ?」

「じゃあ、愛人?」


 ああもう、何言ってんだか。


「だから、そんなことじゃなくって」

「損なこと、じゃなかったら、得なこと?」

「ちが~う」

「もしかして巫女さんのバイトのこと? それなら全然オッケーよ」

「そうじゃなくって」

「フルーツ味はイマイチだわ。チーズ味は美味しかったのに、やっぱり特売には理由があるのね…… んぐんぐ」


 始まらない、進まない。

 痺れを切らした僕は一気に本題に突入する。


「母さんは遊里さんに、私が岳高に戻るって吹き込んだんだろ!」

「吹き込んだんじゃないわよ、協力をお願いしたの、んぐんぐ。千歳ったら剛勇に残るとか我がままばっかり言うから、遊里さんに説得して貰おうと思ってね…… ゴックン。あの子、あなたが岳高に戻るの賛成してくれたわ―― んぐ。いつまでも女装してるのは気の毒だって。あたしのことなら気にしなくてもいいとも言ってくれたわよ。とってもいい子よね、んぐんぐ――」


 フルーツ味のバランス栄養食を食べながら、お行儀悪く言い放つ母。


「でも、僕には責任があるでしょ」

「千歳、男言葉になってるわよ。気をつけなさい、ここは学校よ」

「今そんなことはどうでもいいだろ」

「良くないわ。小遣い減らされたいの」

「ごめんなさい学園長」

「うむ、素直でよろしい」


 勝てない。

 でも簡単に引き下がる訳にもいかない――


「言い直すわ。私には遊里さんと一緒にいる責任があると思うわ」

「本人がいいって言ってるのに?」

「それは彼女が優しいからだわ。心の中では怒ってるわよ」

「彼女の心の中が見えるとでも?」

「見えるよ」

「見えるの? じゃあ、今日の彼女のパンツの色は?」

「分かる訳ないでしょ!」

「パンツの色も分からないのに、心の中が分かるの?」

「わ、わかるわ!」

「じゃあ、彼女の胸元にあるほくろの数は?」

「い…… 2個?」

「残念ね、1個よ」

「嘘だ!」

「本当よ、では彼女のブラの色は?」

「あ…… 白?」

「正解。清純の白。良かったわね、千歳の好みで」


 ダメだ、これ以上の議論は時間の無駄だしバカが移ってしまいそうだ。僕は捨て台詞を残して一旦引くことにした。


「と…… ともかく私は絶対やめないんだからねっ!」



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