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第12話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 女の子の姿に戻った僕はマナとふたり帰路を歩いていた。


 秋の日没は日に日に早くなり、辺りはもう真っ暗。歩き慣れた駅からの道を手を繋いで歩く。

 心配は杞憂だったのだろうか――


 男の格好での初めてのデート、引っ込み思案でお喋りが下手な僕、嫌われないように頑張ったつもりだけど、こういうことって頑張ってもダメだって時もある。だから不安で不安で仕方がなかったのだけど、マナの評価は案外上々。


「元々千歳ってお喋りは下手じゃないと思うわよ」


 彼女はそんなことを言うけれど、それは女装した僕しか知らないからだと思う。女の子に化けた僕はヘンなスイッチが入るのか開き直って言いたいことをハッキリ言う。だけど元々はそうじゃなかった。


「だったら成長したんじゃないの?」


 成長?

 マナは思わぬことを言った。


 女装して過ごしたこの7ヶ月、男であることがバレないように精一杯気を張って女の子として頑張ってきた。女性らしい仕草を身につけて、ちょっと高飛車だけど女の子らしい言葉を使って、お化粧だって随分上手くなったと思う。でも、そのお陰で男としての僕はもうダメなところまで来たんじゃないかって思ってる。自分の言動が乙女過ぎて、自分自身がドン引きしてしまう事も多い。だからこの7ヶ月は僕の人生を台無しにしかねない危険な寄り道だと思っていた。


 そう思ってきたから「成長」って言葉はとても意外だった。


 確かに僕は物怖じしなくなったかも知れない。今日もマナに絡んできたヤツらに言いたいことを言えたし畑田さんとも普通に会話が出来た。それは成長、なのだろうか。女装生活をしていても男としての成長ってあるのだろうか? 彼女は男の僕が好きだと言ってくれた――


「男になった僕なんか、何の取り柄もない頼りないヤツじゃない?」

「どうして?」


 優しい微笑みはそのままに小首を傾げるマナ。瑞々しくて柔らかなそうな彼女のくちびるに奪われた視線を、僕は無理矢理に横へ逸らした。


「だって…… 今日だってクレーンゲームで大きなネコのぬいぐるみは取れなかったし、ビリヤードだって畑田さんの方が断然上手かっただろ? 何よりも、男なのに女と間違われてヘンなヤツらに声を掛けられて、イヤな思いをさせてしまった」

「何を言ってるの?」


 精一杯の懺悔をする僕を見るなり口を押さえて笑い出したマナ。


「すっごく素敵だったわよ、申し訳なさげな顔をしないで!」

「あのぬいぐるみ、欲しかったんだろ?」

「あたしそんなこと言った? 確かに気にはなったけど、あんなおっきなの取られたって持って帰るのが大変でしょ? だから千歳があたしの視線に気付いてくれただけで充分よ、とっても嬉しかったんだから」


 取ってもないのに、とっても嬉しいとはこれ如何いかに―― とはオヤジっぽいので口に出さないけれど、マナの言葉とその笑顔に僕の気持ちは晴れていく。女装していてもマナは「僕」を認めてくれた。それだけで僕の心が満たされるのが分かる。だったら迷うことはない、2年になっても3年になっても僕は剛勇に残って、そうして彼女と一緒に成長していきたい――


 でも。

 やっぱり。


 僕より格好いい男なんてゴマンといるんじゃなかろうか?

 繰り返し訪れる不安が口をつくと、彼女はちょっと呆れたように。


「千歳って欲張りね」

「欲張り?」

「そうよ。みんなの視線を一身に浴びる抜群のルックス、テストだっていつも一番だし、運動神経も抜群で完璧美女の名を欲しいままじゃないの?」

「あれは女装した「作ったわたし」だからで。男の僕なんか――」

「今日もとっても素敵だったわよ、女装の千歳もそうでない千歳も、とても素敵。そりゃ男っぽさとか力強さとか、そんなのはちょっと××かもだけど。でも、何でも一番、何でも完璧なんて出来る訳ないでしょ? もし、そんな完璧な人がいたとしても、それはきっとつまらない人じゃないかしら。息が詰まりそう」


 そうなのかな?

 肩に触れる栗色の髪から流れる女の子の優しい匂い、彼女の整った横顔から視線を前に向けると黙って歩いた。彼女に貰ったマフラーは手触りも最高で、その端を指で弄びながら考える。何となくだけど彼女の言うことも分かる気がする。だけど僕は何ひとつ一番じゃない。ビリヤードだって将棋だって勉強だって全部井の中の蛙だ。母によく言われた、学校で一番でもよその学校にはもっと出来る子がいる。だからもっと頑張りなさいと。でも、どんなに頑張ったって僕なんかじゃ本当の一番にはなれなかった。勉強だけじゃない、サッカーだって柔道だってもっと上手い人はいっぱいいた。何だってそうだった――


「千歳って理想が高いのね。あたしとは正反対」


 ちょっと澄まして僕の瞳を覗き込むマナ、その瞳は今日見た何よりも一番綺麗だった。


「あたしには千歳が一番、なんだけどな」


 僕も同じだ。

 僕の心の中で彼女がどんなに大きいか、今日一日、それをイヤと言うほど思い知った。

 マナ、ありがとう。そんな気持ちを込めて彼女の手をぎゅっと握る。驚いたように見上げてくる大きな瞳。その小さく可憐なくちびるが欲しくなる。


 でもここは――


 繋いだ手を引き寄せる。

 彼女のその小さな白い手に、僕は堪らずそっとくちづけた。




 第7章 初めてのデート  完


【あとがき】


 いつもご贔屓ありがとうです。北丘神愛です。


 物語は晩秋、すすきや紅葉が目を楽しませてくれる季節。でも最近やたらと目に付くのはお姉ちゃんと眞名美先輩のあ~んなところとかこ~んなところとか、もうホント、目を覆いたくなるイチャラブっぷりなんです。


 あ~あ、わたし結構お兄ちゃんのこと大好きだったんだけどな~っ。おとなしくって引っ込み思案ですっごく優しかったお兄ちゃん。小さい頃は本気でお兄ちゃんと結婚する気満々だったんですよ。だからな~んか複雑。眞名美先輩はあたしにもすっごく優しいし、それに可愛らしくて綺麗だし、お兄ちゃんには勿体ないくらいだけど、それでもちょっと複雑。「うちのお兄ちゃんは婿にやらん!」って訳じゃないんだけど――



 そしてもうひとつ気になるのは作者さんの最近の筆の遅さ。

 もう遅い。

 全く遅い。

 遅いったら遅い。

 毎日パソコンは起動するんだけど、物書きに励むのかと思えば本を読んだり録画したアニメを見たり、挙げ句にうつらうつらと寝ちゃったり。続きを待っている読者さまのことをどう思ってるのかしら。しかも最近読んでる本は女性向けファンタジーだったり百合小説だったり。ついに男を捨てちゃったのかしら。


 って、そうか、作者さんったら男を捨てたお姉ちゃんの気分になってるのかな? 全くばかよね、おばかさんよね。


 と言う訳で、アホな作者さんには神愛がきつくメッって叱っておきますね。

 だから、これからも是非見捨てずによろしくねっ。


 と言う訳で次章の予告です。


 季節は入試のシーズンへと情け容赦なく向かいます。

 お正月、巫女さんのバイトに精出す眞名美先輩。彼女の巫女さん姿を一目見たいエロ心満載のお姉ちゃんのためにあたしは一肌脱ぐのですが――


 次章「すれ違い」も是非お楽しみに!


 最近のお姉ちゃんを見てると女としての自信がぐらついて困る、北丘神愛した。



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