第11話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからふたりはゲームセンターで音楽ゲームをしたり喫茶店でケーキを食べたりして、とっても楽しい時間は矢のように過ぎていきました。気がつくと日は大きく傾いて、もうそろそろ帰らなければいけません。
「楽しいと時間が経つのが早いわね」
「そうだったら嬉しいけど」
不安そうな千歳、どうしてそんなに心配するのでしょう? わたしは千歳といるだけでこんなにも嬉しいのに。
「すっごく楽しかったわよ」
「ホントに?」
凄く弱気な発言。
いつも堂々と振る舞う千歳、今日もそれは変わらなかったのに、不思議。
帰り道、畑の横をふたり駅に向かいながら、後ろ髪を引かれるってこんな気持ちなんだと思いました。まだ帰りたくない。でも帰らなきゃ――
各駅停車の電車は席も空いていてふたり並んで出来たての想い出話に花を咲かせます。途中、乗換駅で一度改札を出ました。千歳が女の子に戻るためです。ビルの広い男女兼用個室に入った千歳、5分と掛からずに白いブラウスにBカップの美少女に大変身。確かに同じ千歳だけど、女装した千歳は完全無欠に女の子していて、男の子だなんてやっぱり信じられません。
「お待たせ~っ」
声もちょっと高くなって、言葉遣いもいつもの千歳。
「なんだかもう、こっちの方が落ち着くわ。わたくしもう、本当にダメかも……」
苦笑しながら隣に立った千歳は、乗り継ぎの駅に向かいながら声を潜めました。
「ねえ、男の僕と女のわたし、どっちが好き?」
「どっちが好きって……」
どっちが好きって言われても、どっちも千歳で、どっちも同じ人で、あたしはどっちも大好きなんだけど。
でも――
「そりゃあ男の子の方よ」
「どうして?」
「だって、本物だし……」
千歳は小さく「そう」と呟くと、ほっと 息を吐きました。
「良かった……」




