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第8話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 千歳を訪ねようと部屋を出ると、先に神愛ちゃんが入っていくのが見えました。

 何の話をするのでしょう?

 あたしは聞き耳を立てたい気持ちを抑えて自分の部屋に戻りました。


 今日の学園祭は色んな意味で大成功だったと思います。

 不安だった生徒会の劇、トラブルもあったけど終わってみれば喝采の嵐でした。きっと来年も再来年も続く名物企画になるでしょう。ミス剛勇も最終回に相応しくハチャメチャに面白かった。優勝した西園寺君は明らかに千歳を意識した黒髪ロングのウィッグを被り、「このわたくしと付き合うなんて100万年早いわ」と高飛車なものまねをして大いにウケてました。築城会長が披露したコミカルな歌とダンスもインパクトが凄くて夢に出てきそう。今回で最後となるミス剛のフィナーレに相応しい弾けっぷりでした。


 見慣れた白い壁、質素な本棚は半分近く空いていて、ぬいぐるみ達の陳列場所になってます。あたしは手に持った紙袋を机に置くとベッドに腰掛けました。赤いリボンを掛けた紙袋、遅くなってしまったお誕生日プレゼント。色々忙しくて渡せないまま2週間が経ってしまいました。どうしていつもこうなんだろう。

 あたしの意気地なし。

 ベッドに寝転がり小さく溜息。


(あしたは大丈夫かな)


 明日は千歳とデートです。誰もいない街にふたりっきり。彼女とは毎日顔を合わせて仲良くしてもらってます。もうかれこれ7ヶ月。長かったような短かったような。でも明日はちょっと違います。明日あたしは「彼」とデートするんです。千歳はあたしをどう見てくれるのでしょう?


 友だち?

 クラスメイト?

 それとも――


 あたしは千歳を異性としてみています。その気持ちはもう疑いようがありません。彼女が男性だと気付いてからも、ずっと分かりませんでした。千歳を異性として好きなのか、それとも女性としての彼女に惹かれてしまったのか――


 でも、今日ハッキリと分かりました。

 生徒会劇のトラブル、千歳はサリサリと、そして築城先輩と次々にキスしました。そう、アクリル板なしでくちびるにチュッ、と。その時の気持ちが全て教えてくれたんです。サリサリと口づける千歳の姿にあたしは目を背けてしまいました。お芝居の中では自分の娘が王女さまと口づけるシーンです。ワクワクとした期待の表情を浮かべてじっと見つめなさい―― これが監督からの指示でした。でもあたしは目を背けてしまったんです。一方、築城先輩扮するシンデレラとのキスの時は不思議と何にも感じませんでした。いや、それどころか、自分を奮い立たせているだろう千歳に頑張れって心で応援していました。


 あたしは千歳を男性としてみているんです。


 本当はそんなことも確かめたくって、無理にデートを頼んだのでした。どこか遠くへ、知ってる人が誰もいないところに行きたいって。そしてそこで男の千歳に出会いたいって。でも、明日の、男の子になった千歳を想うと、今から胸が張り裂けそうです――


 窓の外から小さな鳴き声が聞こえました。

 なぁ子の声。


 最初は痩せっぽっちだった白猫のなぁ子も、今ではちょっと太り気味。みんなが可愛がって次々とエサを与えたのがいけなかったみたい。だから最近は当番以外のエサやりは禁止です。ごめんねなぁ子、今日はもう寝ましょうね。


 窓の下に白いなぁ子を認めると、手を振ってカーテンを閉めました。


(おやすみなさい)


 来年はきっと剛勇にたくさんの女子が来てくれるでしょう。

 テニス部の後輩も絶対合格するって誓ってくれました。

 後輩達にはここに来て剛勇に女子テニス部を作って欲しいし、そのためのお手伝いは何だってするつもり。


 千歳と出会って7ヶ月、時間が経つのは早いものです。

 明日、千歳はどこに連れて行ってくれるのでしょう。

 期待と不安がまぜこぜになって――


 小さくカシャリとドアが閉まる音がしました。

 さあ、今度こそプレゼントを渡すのよ。

 頑張れ、あたし!



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