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第6話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ミス剛勇は西園寺君の優勝で幕を閉じた。細身で長身、目鼻立ちが整った彼の女装は素晴らしく似合っていた。一見、美少女と言っても通用するレベル。ま、ちょっと違和感はあったし、もし「彼女」が言い寄ってきたとしても僕は遠慮するけど。


 ミス剛勇が終わると文化祭もほぼ終わり、僕は築城会長に並んで興奮の余韻が残るステージに上がって閉会の宣言をする。ひときわ大きい喝采が吹き荒れると学校中が後片付けモードに入る。

 教室に戻りクラス出し物の片付けを終えると、まだ祭りの雰囲気が残る校庭を見て歩いた。看板を取り外す者、両手に椅子を持って談笑しながら教室へ向かう者、その顔はどれも満足げで、頑張りが報われた気持ちになる。ただ、あれだけはいただけない。ガツンと文句を言ってやろう―― そう思って学園長室を訪れた。


 ノックをし返事を待たずに中へと入る。


「お疲れ様。面白かったわよ、あれ……」


 平然と微笑む母の言葉を遮った。


「何してくれたの!」

「これのこと?」

「それだわ! 泥棒でしょ!」

「あら、ちゃんと言ったでしょ? こんなもの使うのやめなさいって」

「聞いてません」

「聞こえない声で言ったのよ」

「それじゃ、言ったことになりません!」

「でも言ったわ」


 ああもう、この母は!


「みんな困ったんだよ」

「あら、生徒会長は喜んでたみたいだけど?」

「母さんの理屈はおかしい!」

「どうして? 学園内で私は絶対正義なのよ?」

「パワハラだあっ!」

「これが教育よ」


 何を言っても馬耳東風。


「まあ、今日は頑張ったから臨時のお小遣いをあげましょう―― って、何その嬉しそうな顔。尻尾まで振っちゃって」

「ふっ、振ってない!」


 言いながらも、目の前にぶら下げられた福沢諭吉さまに生唾を飲み込む。自分でもチョロいと思う。でも、これで夜食に大盛りのカップ焼きそばが食えると思うと、つい――


「じゃあ、はいこれ」


 学園長は席を立ち、僕にお札を握らせると余裕で笑みを浮かべる。

 実はね、と語り始めた学園長の機嫌は極上。臨時ボーナスを奮発した理由も何となく分かった。曰く、次年度の出願の見込みが思いのほか好調なのだという。時期的にはまだ11月初旬。出願まで3ヶ月ほどあるのだが学校や模試なんかでの希望校調査で予想を上回る数字を叩きだしているのだとか。


「今春の進学実績も良かったから男子が増えるのは予想通りなんだけど、女子の希望者が凄く目立つのよ。この調子で頑張るのよ、千歳」


 文句を言いに来たはずなのに、いつの間にか話をすり替えられて小遣いを握らされ、ちょっといい気分になって部屋を出た。ああ、僕は何てダメなヤツなんだ――


「ご機嫌ね」


 廊下でマナに声を掛けられた。生徒会女子部へ向かう途中だという。女子志願者が増えそうだと伝えると彼女も凄く喜んでくれた。マナの笑顔を見ると僕も嬉しくなる。つい臨時ボーナス貰ったって喋ってしまった。勢いでデートの時に一緒に使おうって言うと彼女は首を横に振る。


「夜食代、足りないんでしょ?」

「知ってるんだ」

「当たり前よ。いつもコンビニで恨めしそうに指をくわえて大盛りカップ麺を見ているもの」


 指咥えてるんだ、僕ちゃん……

 生徒会女子部に入るとサリーの他に神愛と彩夏ちゃんがいて、ポテチを食べながらお喋りの真っ最中。彩夏ちゃんは僕の顔を見ると「劇、面白かったです」って顔をほころばせた。しかし神愛は「お姉ちゃんのヘンタイ」と小声でなじってくる。


「仕方ないでしょう? 学園長の所為で予定が狂ったんだから」


 思わず言ってから「まずかったかな」と思うも後の祭り。何のこと、とサリーにも聞かれて仕方なくアクリル板紛失事件の真相を白状した。しかしサリーは驚くこともなく「ふう~ん、やっぱりわよ」と呟く。舞台裏の控え室に出入りした人を男子含めてみんなで思い返し、学園長が一番怪しいと言う結論を出していたのだとか。


「だけど劇は面白くなったわよ」

「いやいや、サリーだって困っただろ?」

「困ったと言えば困ったわよ。でも、楽しくて美味しかったわよ」

「美味しかった?」

「そうわよ、千歳の味はどら焼きの味だわよ」


 げっ、お礼に貰ったどら焼きが……


「アタイの味はどうだったわよ?」

「サリーのは、カレーかな、ってイデッ!」


 思いっきり足を踏まれた。

 って痛い、痛いってマナ!


「ふふっ。でもね、神愛もそう思うよ、アクリルなんて無粋だよ」

「軽く言わないで。私の貞操が犯されたのよ?」

「お姉ちゃんがサリーさんの貞操を犯したんでしょ?」

「わたしも貞操、犯されたいで~す」

「ややこしくなるから彩夏ちゃんは参戦しないで!」

「お姉ちゃん、モテモテだね」


(いででで…… だからマナ、足マジ痛いって)


「まあ、築城先輩も喜んでたわね」


 そう言いながら、マナはやっと僕の足を解放してくれた。


「築城先輩も千歳ラブだわよ」

「ううん、そうじゃなくって、これで来年も安泰だって」


 確かに生徒会劇は好評だった。それは文芸部のトンデモな脚本と破廉恥な演出が大いにウケたと言うことだ。終演後、文芸部の長門部長は早くも来年の脚本を考えると張り切っていたし、演劇部も祝勝祝いだとカラオケに繰り出していた。結果的に全てが良かったのかも知れない。だけど学園長には腹が立つ。


「マリアナも真似しようかしら」

「何を?」

「生徒会劇。そうだ、今度はうちの高校の文化祭にも来てくださいね。招待状持ってきますから。あ、でも入場できるのは女の人だけですから、男子の人には内緒でね」


 彩夏ちゃんはチラリと窓の外を見下ろして、くすりと笑った。




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