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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第6章 ミス剛勇ハイスクール
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第11話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 文化祭劇の練習を始めて2週間が経ちました。


 もうみんな、セリフは頭に入っています。

 でもこの劇の難しいところはキスシーン。そう、みんなと千歳とのキスシーン。例えアクリル越しであったとしても千歳のキスは破壊力メガトン級。みんなヨダレを垂らして気絶したり、鼻血を吹いて倒れたり、お芝居どころではありませんでした。結局みんなで話し合って透明板は諦めて肌色の板に変えました。不思議なものでキスする先が見えなくなると難易度は大きく下がったみたい。その分面白みも減りますが仕方ありません。文化祭の舞台を鼻血とヨダレと卒倒した役者だらけにするわけにはいきません。やむを得ない選択です。それでも板の厚さはたったの2ミリと超スリム。十二分にスリリングではあります。


「じゃあ、仮面舞踏会のダンスシーンいってみようか」


 映研の淀川部長がメガホンを口に当て号令を掛けるとみんなでワルツを踏み始めました。

 継母役のあたしは教室の窓を背にぼんやり様子を眺めます。


 舞台衣装が出来てきて、今日は初めてダンス練習。最初の頃に比べたらみんなとても上手になりました。それでも、初めて身につけるひらひらの長いドレスは勝手が違うのか、さっきから相手の足を踏んだりつまずいたりしている人が多発しています。でも、お姫さまのピンクのドレスを着て踊る千歳は華麗で優雅。ああ、あたしも千歳と踊りたかったな。例えそれがお芝居であっても、極悪な姉の役であってたとしても。ああ、やっぱり羨ましい――


 勿論、継母はシンデレラ、王女さまに並んでセリフが多い重要な役。老け顔メイクをしてコミカルにシンデレラを虐め、罵り、そして笑いを取る役、淀川先輩に言わせれば一番演技が難しくて劇の出来映えを左右する重要な役なのだそう。それを任せて貰えたんだから文句を言う気はこれっぽっちもありません。やりがいだって感じてます。でも、あたしだけダンスも踊らなければキスシーンもなし。ちょっとだけつまんない――


「ワンツースリー、ワンツースリー、はいもっと優雅に!」


 西園寺くんと踊り終えた千歳、今度はサリーの手を取りステップを踏みます。


「ワンツースリー、ワンツースリー、はいもっと近くに寄り添って~」


 音楽に合わせて踊る千歳。サリサリと仲よさそうに笑顔まで浮かべちゃって――

 ちょっとずるい。

 だけどそれは劇の配役で決まっただけの、単なるお役目。

 サリサリだって頑張ってるし、うらやんだりするのはお門違いだって分かってる。

 でも、あたしも千歳と踊りたかったな――



「きゃあ~っ!」


 ドサッ!



 何?

 何が起きたの?


 ともかく現実としては、あたしの目の前で千歳とサリーがふたり密接に絡まり合って床に倒れています。

 そして当人たちはまだ何が起きているのか、正しく把握できていないようで――


「ううううう……」


 パールとルビー輝く純白ドレスを身につけた金髪美少女サリサリの上に、ゴージャスなピンクのドレスを身に纏うあたしの愛しい千歳が抱きつくように覆い被さって、抱きつくように合体していて――


 って、顔と顔が近い近い!

 なに見つめ合ってるのよっ!


「大丈夫?」


慌てて周りの人たちが駆け寄ります。


(何? どうしたの?)

 あたしも慌てて駆け寄って、その輪の中に入りました。


「ごめん、ちょっと転んじゃって」


 サリサリの上から身を起こそうとしながら呟く千歳、って?


「てっ、手! 千歳、手~っ!」


 バサリと落ちた長い黒髪の下、千歳の手がふくよかなサリサリの胸をむんずと掴んでいました。気がついたサリサリの顔がみるみる真っ赤に染まっていって――


「ちっ、ちっ、千歳ったらわよ~っ!」

「あっ、大きい!」

「何言ってるのわよ~っ!」


 慌てて手を離す千歳。


 しかし千歳の手はサリサリのうらやま大きなバストを揉みしだくためにそこにあったわけじゃなく、そうしないと体が支えられないからそこにあったわけで。手を離した途端、バランスを崩した千歳。一方のサリサリも慌てて体を起こそうとしたものだから、元々近かったふたりの顔が大接近して……



 チュッ!



「「――っ!!」」


 何が起きたのかと、たっぷり3秒はそのまま固まっていたふたり。


「うおおお~っ!」

「きゃあ~っ!」


 何やってるのよ~っ!!


 慌ててパッと顔を離したけれど。。

 でも、やることはしっかりやってしまったあとで――。


「ごっ、ごめんわよ、くちびる奪ってごめんわよ~っ」

「あわっあわっあわわわわっ!」


 ふたり揃って茹で蛸みたいに真っ赤になってあたふたしちゃって。


「サリーこそ、おっ、おっぱい大丈夫?」

「お、お、お陰で大きくなったわよ~」

「そうなんだ」


 なわけないでしょ!

 ちょっと触ったくらいで大きくなるんなら、先にあたしのを何とかしなさいよ!


 って、あたしも何考えてるの?


「バカなこと言ってるんじゃないのっ!」


 ヒステリックに叫んでしまいました?


「あたしも千歳の、触りたいわよ。お互いわよ。お互いに揉み合うことは大切なことわよ」

「サリサリッ! 何言ってるのよっ!」


 ああもう、聞いてらんない、見てらんない!

 あたしは堪らず目の前の映研部員を押しのけて。


「ふたりともっ! いつまで絡み合ってるのよっ!」

「いつまでって、ちょっと躓いて転んで、そのまま親交を深めてただけだわよ?」


 冷静になってるんなら早く立ちなさいよ!


「わたくしが悪いの、サリーを支えきれなくて……」


 きっと躓いたサリサリを抱き止めようとして、千歳も足をもつれさせて一緒に転んでこうなった、ってことでしょう。分かってますよ、これは事故だと言うことくらい。でも、原因はどうでもいいでしょ? 問題はそのあとですよ。千歳ったら未だにサリサリにまたがったまま、サリサリの胸を掴んでいたその手をじっと見つめているじゃないですか! まさか、柔らかなサリサリの感触の名残を惜しんでいるとか?


「早く立ちなさいよ千歳っ! いつまでサリサリに跨がってるのよっ!」

「いつまでって言われても、ドレスを踏んじゃってるし……」


「早く立つ~っ!」


 千歳の脇に手を回すと思いっきり引っ張りました。

 火事場のバカ何とかってやつでしょうか。勢いよく千歳は立ち上がりました。その足下には幸せそうな顔をして天井を向いたままのサリサリ――


「千歳のスケベ、変態、女たらし~っ!」


 あ、あたし、何言ってるんでしょ。全ては事故、劇の練習中に起きたちょっとしたアクシデント、故意じゃないのは分かっています。でも胸がぎゅんって締め付けられて、目の前が急に霞んできて。気がつくとヒステリックに千歳を罵ってしまって。


 劇の練習に起きたアクシデント、それをとやかく言うなんて。そんなのあたしの大っ嫌いなことなのに――


 気がつくとあたし、一目散に教室を飛び出していました――



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