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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第6章 ミス剛勇ハイスクール
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第8話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 少しだけ肌寒い季節になりました。

 運動会も終わり制服も冬服に替わり、あたしたちは学園祭の準備に大忙しです。


 剛勇の学園祭「街道祭」の告知は女子寮ブログでも大々的に行っています。

 勿論、土曜日に実施される今年で最後の「ミス剛勇コンテスト」と今年から始まる生徒会主催劇のことも大きく取り上げています。剛勇の学園祭は一般の方も入場OK。元々男子校でしたから厳しい制約もありません。招待券とか入場の記名とかも不要です。


「甘いですね。マリアナは記名された招待券を受付でチェックしないと入れませんわ。痴漢ちかんが無断で忍び込んだらどうするんです?」


 マリアナ理事長のお嬢さま、彩夏ちゃんはスマホでブログを見ながら呆れたご様子。


「それ、あなたが言う?」


 神愛のジト目も彩夏ちゃんはどこ吹く風。


「あら、千歳お姉さまはいつでも遊びいらっしゃいって仰いましたわ」


 金曜の夕食時、いつの間にか寮に侵入し食堂に座っていた彩夏ちゃん。勝手知ったる他校の寮、ってなもので、あたしたちが夕食を食べに食堂に降りると、悠然とテレビを付けてお茶を啜っていました。しかも弁当屋さんの豪華ステーキ弁当を目の前に置いて。


「さ、夕食にいたしましょう」


 あたしたちが牡蠣フライとご飯、それに野菜のお浸しとお味噌汁をテーブルに運ぶと、彼女は買ってきた弁当のフタを開きます。溢れんばかりの大きなステーキ。しかもカップのポタージュスープ付き。弁当屋さんのステーキ弁当ってこんなに贅沢なの?


「特上よ、特上」


 澄ました顔で箸を割ります。


「食後のケーキもありますよ」


 冷蔵庫を指さしにこりと笑う彼女。曰く、10個も買ってきたのだとか。


「5人いるからひとり2個ね」


 太りそうだけど、文句は言えないわよね?


「ところで、どうして運動会に呼んでくれなかったんですか!」


 これが本題とばかりに彼女は語気を強めます。


「いや、運動会なんか面白くないでしょ?」

「何を仰います! 麗しの千歳お姉さまの体操服姿をおがめるんですよ! 連写し放題なんですよ!」


 右手を握りしめ力説する彩夏ちゃん。憤りが収まらないとばかりにがぶりとお肉を頬張った彼女は随分ご機嫌斜め。先週末の運動会に招待されなかったと千歳を睨んで愚痴ります。


 でも実際は運動会での女子の出番はちょっとだけでした。3人だけの創作ダンスと借り物競走。あとは場内アナウンスとか来賓の受付とか、そんな運営サイドの仕事ばかりでした。ちなみに借り物競走、男子に混じって別々の組で走った女子はみんな1着を取りました。だって女子が客席に向かうとみんなが寄ってきて我先にと捜し物を貸してくれたり見つけてくれたり。もうチヤホヤ過保護にされまくりで楽勝だったんです。サリサリは傘を、あたしは電池を、千歳は小説の本を借りて真っ先にゴールイン。まあ、勝ったと言うより勝たせて貰ったって感じですね。そう言えば千歳が借りた小説は18禁の官能小説だったそうです、何を学校に持ってきてるんだか――


「文化祭には絶対行きますからねっ!」

「文化祭ねえ…… 来てくれるのは嬉しいけど、みんな忙しいから誰も相手になってあげれないわよ?」

「千歳さまは冷たいです。でも大丈夫ですよ、神愛と一緒に回りますから」

「ちょっ、勝手に決めないでよ。そんなこと、神愛、聞いてないよ」

「言ってないもん」

「……」

「今言ったからね」


 ぷう~っ、と膨れながらも神愛ちゃんは満更でなさそう。

 例年、文化祭には剛勇志望の受験生もいっぱい来てくれるんだとか。そうなると今年は女子の志望者もたくさん来てくれるはずで、だからあたしたちも頑張らないといけません。


「そう言えば、彩夏はマリアナの高等部に進むって聞いたけど?」


 神愛ちゃんは「今、思い出した」と言って人差し指を顎に当てます。初耳でした。でもそれはあたしだけじゃないみたいで、千歳もサリサリも驚いています。


「そうなの?」

「はい、その通りです」


 あっさり認めた彩夏ちゃんはみんなの顔をぐるりと見ると、最後に神愛ちゃんに視線を投げました。

「神愛はどうして知ってたの?」

「北丘学園長に聞いた」

「やっぱり」


 どうして剛勇の学園長が彼女の進路を知っているのでしょうか?

 あたしの頭の中には???マークがいっぱい。でも、その謎は彩夏ちゃんの爆弾発言であっさり解けました。


「実はわたし、母と取引したんです。マリアナに入学する代わりに剛勇の寮から通うからって」


 マリアナに入学する代わりに剛勇の寮から通う―― って?


「「「「えええ~っ!」」」」


 4人の声が重なりました。


「そ、それって?」

「あれっ? 神愛も知らなかったの?」

「神愛が聞いたのは彩夏はマリアナ女子に進学するって事だけで……」

「そうでしょうね、北丘学園長からはまだ入寮の了解取れてませんから」


 彩夏ちゃんが語ったことを整理すると――

 

 剛勇への入学を希望していた秋宮彩夏ちゃん、だけど彼女は幼稚園から大学まで10以上の学校を束ねる学校法人マリアナ学園オーナー理事長のお嬢さまです。ライバル校への進学が許されるはずはありません。けれども「オーナーの娘だから」と同級生や先生たちに特別扱いされることにうんざりしている彩夏ちゃんは彼女を特別視しない千歳や神愛ちゃんがいるこの寮をいたく気に入り、学校はマリアナ学園に通う代わりにこの寮に入ることを両親に認めさせた、と言うのです。


「でも、高校はマリアナで寮は剛勇って、そんなこと許されるの?」

「いいじゃない、堅いこと言わなくったって」

「ホント自由ね。でもうちの学校は了解したの?」

「そこなんですよっ!」


 彩夏ちゃんはステーキ肉をゴクンと飲み込んで立ち上がりました。


「北丘学園長はこの寮に入る条件として、寮生全員の賛成を取り付けること、と仰ったらしいんです。だから――」


 彼女がここへ来た理由、そして手土産のケーキがひとり2個もある理由が今、分かりました。立ったままピシッと背筋を伸ばした彩夏ちゃんは、腰に手を当て堂々と宣言します。


「皆さん、賛成してくれますよねっ!」

「あんた、偉そうね」

「まあね。寮費はちゃんと払ってあげるんだし」


 神愛ちゃんを見下ろして益々偉そうなその態度、みんなは苦笑を漏らしながらも、誰もイヤなんて言いません。暫くそんな面々を見ていた彩夏ちゃんは、やがてペコリと頭を下げました。


「ありがとうございます。仲良くしてくださいね」


 その一言に、誰からともなく大きな拍手が起こりました。



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