第6話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
運動会に文化祭の準備に、そして生徒会選挙にと忙しい日々が続きました。気がつくと辺りはめっきり秋の色です。
生徒会選挙、あたしは千歳に酷いことをしてしまったかも知れません――
「おめでとう千歳!」
選挙は水曜日に投票があって、今日の昼休みに結果が張り出されました。
会長は築城先輩、そして副会長は千歳に決定です。
会長候補はふたりでしたが築城先輩は段違いの強さを見せました。真面目で温厚な彼は誰からも信頼されているのです。副会長候補は3人、西園寺くんと柔道部の西岡くんと千歳。千歳は立候補するかどうか、かなり悩んだみたいです。築城先輩に推されてサリサリにもせがまれて、悩んだ挙げ句の立候補。千歳は使命を果たしたらこの学園からいなくなる、だから悩んでたはずですけど、あたしも無茶を言ってしまいました。千歳にずっといて欲しい、そんなあたしの我が儘を口から滑らせてしまいました。千歳は困っていたのに、男だってバレて大変なことになるかも知れないのに。でも、優しい千歳はそんなみんなの気持ちに応えてくれたんです。結果はぶっちぎりでした。下馬評ではなんだかんだと男子は男子に票を入れるのではとの予想もあって西園寺くんの健闘も噂されましたが、蓋を開けてみたら4倍以上の票差で圧倒しました。色んな部活の応援も頑張っているし、立候補演説も千歳の方がずっと良かったからでしょう。
「みなさんのお陰よ」
千歳は誰彼なく差し出された手に握手を返します。切れ長の瞳が涼しい千歳。どこか冷たい高嶺の花で言い寄る男子を片っ端から切り捨てたのに女の子だけじゃなくって男子生徒にも人気があるのは千歳がホントは……だからでしょうか?
「やっぱり姉小路さんには勝てないか――」
あっさり兜の緒を脱ぐ西園寺くん。彼は当選の公約として千歳を役員に迎えることを掲げました。変な公約ですけど、千歳と一緒に生徒会をやって口説こうと考えてたみたい。
「西園寺くんのこと、役員にと築城会長に推しておくわね」
「ほ…… ホント?」
千歳の言葉にバッと顔を上げた彼は満面笑顔です。
「ありがとう姉小路さん。そんなに俺のことを――」
「こき使ってあげるだけよ」
「下僕になれて嬉しいですっ、千歳さまあ~っ!」
汚物を見るような目の千歳、その足下へ嬉しそうにワンワンと縋り付く西園寺くん。多分、彼はもう人間としてダメじゃないかな。
「頑張りましょうわよ」
サリサリは千歳の応援演説にも立ちました。元々生徒会に突撃していったのは彼女です。でも、活動してみて分かったのでしょう、未来の会長に相応しいのは千歳だって。誰からも一目置かれている千歳、決断力もあるし男子の気持ちを汲むのも上手。ま、千歳は……ですからね、男性陣の中に入っても物怖じしないのは当然ですけど。サリサリは一年生としては異例の会計職を仰せつかる予定です。
「おめでとう、姉小路さん」
その声の主はひょろりとのっぽな文芸部の長門部長。
千歳は柔らかな表情で彼に会釈で返します。
「ありがとうございます」
「会長、副会長も順調に決まったことだし、早速だけど脚本の打ち合わせをしたいんだ。放課後はどうかな?」
「あ、はい大丈夫ですよ。文芸部に伺ったらいいですか?」
「そうしてくれると助かるよ。できれば遊里さんとポッターさんもご一緒に」
チラリとあたしを見た千歳に、笑顔で大丈夫って合図をしました。
「わかりました」
千歳の返事に軽く手をあげ踵を返した長門先輩は何を思い出したのか、笑いを噛み殺すようにしてようにして廊下を歩いて行きました。
放課後あたし達3人は文芸部室で部長以下4人のメンバーに出迎えられました。
「紅茶とコーヒーどっちがいいかな? ティーバッグかインスタントだけど」
やがてサリサリとあたしの前には紅茶、そして千歳の前にはコーヒーが置かれました。
お祝いの言葉もそこそこに長門先輩は薄い冊子を差し出すと。
「これ台本の草案。あとでゆっくり読んで欲しいんだけど」
自ら脚本のほとんどを書いたという長門先輩は自らもカップの中の黒い液体をズズズと啜って。
「約束通り登場人物はみんな女性だよ。しかも有名なストーリーをモチーフにしているから誰もが楽しめる内容だと思う。キャスティングは僕のアイディアだけど、ウケる自信がある」
どうだとばかりに胸を張る長門先輩、よほどの自信作なのでしょう。
台本を開くと最初のページに配役が書かれていました。
シンデレラ・築城一哉
王女さま ・姉小路千歳
ドSな姉A・西園寺堂之
ドSな姉B・サリー・ポッター
継母 ・遊里眞名美
白い鳩 ・長門祐紀
シンデレラですか。王子さまが王女さまに変わっていることを除けば……
「まあ、サクッと目を通してみてよ」
あたしたち3人はページをめくってストーリーを追い始めました。