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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第6章 ミス剛勇ハイスクール
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第5話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 文芸部の長門部長はふたつ返事で快諾してくれた。


「任せろ。伝統とヒマと時間ある我々剛勇文芸部が全力で脚本を書くよ。しかし面白いアイディアだね。こりゃあ楽しみだ!」


 演目と配役の設定は難航した。マナはすぐに折れたのだが、それでも「これ」と言った演目は見つけきれなかった。ならばいっそのこと全てオリジナルで、と言う話になり、白羽の矢を立てたのがここ、文芸部。

 剛勇の文芸部は年2回部誌を発行しているという、自称「体育会系文芸部」なのだそうだ。部室を見回すと黙々と文庫を読んでいる者、パソコンに向かって何やらカタカタ打ち込んでいる者、ポテチ食いながらお喋りに興じる者、そして長机を挟んで卓球をしている者――


「どうして卓球のラケットがここに?」

「体育会系だからだよ。ほら、本ばかり読んでると運動不足になるだろう?」

「はあ……」

「佐伯と山岡はグラウンドでキャッチボールをしているよ」

「はあ……」

「俺の日課は腕たせ伏せと腹筋20回、それに旧校舎10周だ」

「はあ……」

「良かったら姉小路さんも入らないか?」

「遠慮しときます」


 サリーのアイディア「百合劇」には築城副会長も「面白そうだ」と大賛成してくれた。勿論、生徒会長も女装すると言うことには苦笑いを浮かべていたが、どうせミス剛で女装して水着になるから、それ以上の恥はないだろうと笑い飛ばしてくれた。


 そうと決まれば、と具体的な進め方も決めた。ミス剛勇は生徒会の男子が、百合劇は女子3人が準備をすることになった。大道具は美術部に、衣装や演劇指導は演劇部に、そして脚本と演出はここ文芸部に頼むことにした。美術部と演劇部はミス剛にも協力してくれるので築城先輩が話を通してくれている。だからここ文芸部には僕が交渉に来た、と言うわけだ。


「ところで脚本を書くに当たって生徒会からの要望とかはあるかな?」

「ええっと、メインヒロインは次期の生徒会長でお願いしたいので、選挙が終わるまでは分からないのですが――」

「ああ、だったら築城で決まりだな。うちはよほどのことがない限り現会長の指名で決まるから」


 飴色あめいろの洒落たメガネを直しながら長門部長は手帳を開いた。


「他に要望は?」

「そうですね、恋愛や三角関係を扱うのは問題ないのですが、あくまで高校生の演劇らしく爽やかにして欲しいです」

「爽やかな三角関係、っと」

「ミス剛に負けないくらい盛り上がるようにキスシーンやそれ以上のラブシーンがあっても構いませんが、高校の演劇らしく爽やかに」

「爽やかにねっとり絡み合い、っと」

「題材は小説、映画などから持ってきても構いませんが、高校生らしく爽やかなストーリーをお願いします」

「爽やかな18禁ストーリー、って。姉小路さん結構難しいこと言うね」

「はい、ごめんなさい」


 確かにそうだ。ミス剛はお世辞にも品位がある出し物とは言えない、だから盛り上がっている部分もあるのだ。それを高校生らしく爽やかにして同じくらい盛り上がれとか、無理難題かも知れない。


「まあいいよ。任せてくれ。きっと体育館を満員にしてみせるから」

「ありがとうございます」

「ところで姉小路さん」


 ひょろり痩身の長門部長はまた飴色のメガネを右手で直しながら。


「噂では次期副会長に立候補するって聞いたんだけど?」

「誰がそんな話を?」

「はははっ」


 文芸部というと温和しく本を読んでいるってイメージがあるのだが、長門部長は明るく豪快に笑い飛ばした。


「誰だって考えるよ、姉さまは未来の生徒会長に相応しいって。ポッターさんは立候補しないって本人が言っているんだろ?」


 入学以来、多くの試合や部活発表の手助けをしてきた。バスケ部、野球部、バレー部、テニスに卓球に軽音、ブラスバンド、落研、応援団、数えれば切りがないけど、その辺りが噂の出所なんだそうだ。ちょっと嬉しいけど、凄く困る。しかし困惑する僕に長門部長はトドメを刺す。


「だからこれは噂と言うより願望だと思うよ。みんなの憧れだからね、姉小路さん」


 はあ、ありがとうございます、と頭を下げると僕は文芸部をあとにする。

 ドアを閉めるや否や、中から「臨時の部会だ。全員集合」の声が聞こえた。

 ありがたいことだ。

 しかし――


 廊下を歩いているとマナが演劇部から出てきた。秋公演の受付けを頼まれていて、その打ち合わせを終わらせたところらしい。


「演劇部の方はどうだった?」

「全然問題なし。それより千歳、選挙のことだけど――」


 マナもさっき聞いた噂のことを口にする。演劇部には選挙管理委員がいたらしい。


「で、聞いてみたの。もし副会長が任期半ばで転校したらどうなるのかって。そしたら、会長が副会長代理を指名すればいいだけだって」

「そうなんだ」


 階段を降りながら彼女は言葉を止めて少し考えて。


「だからさ、いざとなったらあたしが代理をやるよ。サリーでもいいしね」

「ありがとうマナ。でもその心配はいらないわ。立候補するからには最後までやり抜くわ」



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