第4話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、昼休みのあとは体育だった。
寮母さんのお弁当で満足できない僕はマナから玉子焼きを1個貰い、更に売店で焼きそばパンを買って食べたので十分に満腹。この状態で運動とかどうよ、と思うんだけど、体育だと眠くならないから、その点はいいかと思う。
さて、今日の体育は、体育祭を間近に控え組体操の練習だ。勿論3人だけの女子は別メニューとなるわけで、体操服に着替えると情報教室に集まった。ここでビデオを見ながら創作ダンスの練習をするのだ。
「じゃあ、これをよく見て動きを覚えてね」
体育の先生はそれだけ言い置くと男子が待つグラウンドへと消えていく。
運動会、女子は演舞として創作ダンスをすることになった。サリーが提案したアイディアが採用されたのだ。
「運動会の方は決まったけど、問題は文化祭の出し物よね?」
「そうだわよ。やっぱりミス剛のインパクトに対抗するのは難しいわよ」
練習の合間の小休止、最近は暇が出来るとこの話題、だけど答えは見えてこない。
「女装って最高の変装わよ! 片目の運転手よりもインドの魔術師よりも私立探偵よりも奥が深い変装わよ!」
サリーの言葉にちょっと微妙な気持ち。
マナはそっと目を逸らすし。
「やっぱり女装には女装で対抗するしかないわよ!」
突然サリーは力強く宣言する。
「それってやっぱりミスコンをやるって事?」
「劇わよ、演劇わよ! 女装して劇をするのわよ!」
「女装して、劇?」
サリーは今思いついたらしいアイディアに興奮して一気に喋り始めた。
「――――だから女装するけど、アタイ達はそのままわよ!」
「ちょっと待って。男子は女装して、女子はそのままで劇をするって、それじゃ全員女役じゃない?」
「そうわよ、そうなのわよ。百合劇わよ!!」
「「百合劇?」」
サリーのアイディアは男子は女装して、女子は女の姿のままでの劇。
彼女曰く、男子は女装、女子は男装という「あべこべ劇」も考えたそうだが、どうしても今ひとつ萌えないのだという。しかし、舞台の上を全て女装した男子か、美しい女子だけで埋め尽くすと男子も女子も盛り上がるに違いない、と言う。「男子は変装して美しく、女子もメイクでより美しく」なのだそうだ。勿論、宝塚のように舞台の全てを美しい女子が演じると言うのも萌えると言うが、ここは剛勇学園。男子生徒が圧倒的多数を占めるのだ。そこで出たのが先の「百合劇」だ。
「絶対盛り上がるわよ。女装した生徒会長と千歳のラブシーン、千歳とアタイのラブシーン、どれも話題を呼ぶわよわよ!」
「サリサリ待って。あたしは? あたしと千歳は?」
「ダメわよ。だってストーリーは三角関係の恋愛物だわよ。アンナ・カレーニナとかアイーダとか」
確かに、三角関係の恋愛を描いた小説、舞台は枚挙に遑がない。サリーはその主要な3人を全員女性化して劇にすることを提案しているのだ。
「だから千歳を女装した生徒会長とアタイが奪い合う、これが基本だわよ」
「ダメよ、生徒会長はいいけどサリサリはダメ!」
「どうしてわよ? 女同士わよ?」
「だったらあたしにしてよ」
「まあまあ、だったら生徒会長をサリーとマナが奪い合う、と言うストーリーで――」
「「ダメ(わよ)」」
同時に睨まれた。
「千歳がヒロインってだけで満員御礼は確実なのよ」
「そうわよ。アタイは千歳とラブシーンがしたいわよ」
「サリサリ、あなたね――」
今度は睨み合うふたり。
しかし、演目や配役はともかく「百合劇」という方向性に関しては誰も異を唱えなかった。