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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第6章 ミス剛勇ハイスクール
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第2話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 夕食後の寮の食堂。

 みんなで築城先輩から借りてきたDVDを見た。


 天井から吊された大型パネルに映されるのは去年の剛勇学園文化祭『街道祭かいどうさい』のメインステージ映像、勿論「ミス剛」とはどんなのかをチェックするためだ。

 剛勇の文化祭が街道祭と名付けられたのはこの学校は京都から高野山へと抜けるかつての東高野街道の要所にあるからだという。


「あっ、始まったわよ」


 サリーの言葉にみんなは大きなモニターを見上げる。

 ド派手な金ピカのタキシードを着た司会者が始まりを宣言すると、沸き上がるような歓声と共に体育館は色とりどりのサイリウムで彩られる。まるで人気アイドルグループのライブ映像だ。歓声が収まると審査員の紹介が始まる。学園長に始まり教頭先生、食堂の名物おばさん、去年のミス剛優勝者、そしてPTA会長のおじさんまでいて、会場からは悪ノリのような喝采が浴びせられる。


 さて、いよいよ候補者が登場する。舞台左袖からセーラー服を着た女装野郎が登場してきてはセンターマイクの前でポーズを決めて自己紹介をする。必要以上に媚びたり女の子っぽさをアピールしたりして、ハッキリ言って気色悪い。僕もアレの同類かと思うと自己嫌悪半端ない。紹介を終えた参加者はステージの後ろに並んでいく。総勢15名。女と見紛う本格派の女の娘も3人ほど居たけれど、あとはどう見ても男。しかもそのうち半数は最初から「女」になることを放棄しウケを狙ってきている野郎達だった。スカートから覗く野太いムキムキの脚、真っ赤な唇と不気味なアイシャドーだけがヤケに目立つエラの張った顔、はち切れんばかりの力こぶを作ってポージングするマッスルバカまでいる。


「ウワサには聞いていたけど、凄いねお姉ちゃん」


 神愛は母に聞かされてミス剛のことを知っていたらしい。しかし映像見るのは初めて。


「ホントね、こんな格好をして恥ずかしくないのかしら」


 自分の言葉がブーメランになってグサリ自分を突き刺す。


「学園長の話だと、出場できるって大変栄誉な事らしいよ。クラスの人気者とか部活の有名人とか、あ、生徒会長も出るらしいよ」


 神愛のヤツ、僕より情報量多いかも。

 自己紹介を終えた候補者は一旦舞台から降りる。金ピカ衣装の司会者が優勝、準優勝、特別賞の賞品を紹介する。優勝者にはトロフィーと副賞の高級化粧品セットだけでなく、その全身水着写真を金枠の額縁に入れて1年間・学園長室に飾ることを許されるという。バカじゃなかろうか、ここの学園長。


「あっ、バレリーナだわよっ」


 特技披露が始まった。

 ひらひらと純白の衣装を翻し、白鳥の湖よろしく手を上げつま先立ちになってくるくる回る金髪かつらのムキムキ男はバレー部のキャプテン。突然ボールが投げ込まれたと思うと、会場に向かってアタックを打ち放つ。「大西~っ!」と言う野郎の声援がこだまする。訳わかんない状況だけど盛り上がってることは間違いない。


「凄いわね。どこがどうミスコンなのかしら――」


 そのままマナは絶句した。

 お次の登場は朝のテレビでお馴染みの魔法少女キュアプリ。変身シーンを再現するのだが、変身と言うより化けて出る、と言う方が近いかも。くねっと内股になって投げキッスしたり、甘えた声で「うふ~ん」と甘えたり、終始女の子になりきってはいるのだが、そこがまた痛い。


「先生に代わってお仕置きよっ!」


 魔法の杖でポーズを決めるとヤンヤヤンヤと喝采が起きる。

 って、キャラ混ぜこぜじゃん。


「でも、面白いわよ。人気があるのも分かるわよわよ」


 なるほど、どいつもこいつも馬鹿げているけど、全力投球で面白い。

 8人目、料理が得意というパソコン部の部長は某国営放送の料理番組のテーマ曲に乗ってエプロン姿でご登場。会場に向かってニコリ微笑みかけると一言、「フルーツパフェを作りま~すううっ」。

 茶色の髪を三つ編みにして、笑顔もかわいく見事女になりきった「彼女」は巨大なパフェ容器にフレークとバニラアイス、生クリームを詰め込むと、皮を剥いたバナナを一本丸ごと突き刺した。


「完成でえ~すっ! さっそく試食してみましょ~ねっ、てへへっ!」


 てへへっ! とか、うふふっ! とか、そんなかわいこぶった料理研究家は見たことないのだが、ともかく彼女はパフェから白いクリームがベタリと付いたバナナをズボッと引き抜くと、艶めかしいピンクの唇をゆっくり開く。


「美味しそうなバ~ナ~ナッ。いっただっきまあ~すっ」


 その瞬間、会場からは割れんばかりの「舐めろ」コール。勿論「彼女」も分かってらっしゃる。右手を挙げて声援に応えるとアイスと生クリームが絡まった一本のバナナをペロペロと…… って、ダメだろこれ!


「千歳はどう思う?」

「どう思うって?」


 マナに聞かれると妙に恥ずかしい。まさか、こう言う行為をどう思うかってこと?


「あたしね、こんなに面白くて盛り上がるんだったら共学になっても続けたらいいって思ってたんだ。だけど今のを見て築城先輩の言うことも「そうだなあ」って思えちゃった。

「あ…… おほほほほ、そうね。確かにこれは女の子にはNGよね」


そうか、マナがそう言うんならやっぱりダメなんだろうな。確かにこれはやり過ぎだ。

 続く水着審査も目を覆うばかりだった。水玉ビキニのごっつい筋肉ムキムキマンが派手な化粧で化け物のようになった顔で色目を使ってポージングするさまは、正しくミス・フランケンシュタイン。勿論、本気で「女の子」を目指している「男の娘」も数人混じっているのだが、やはり本物の女の子に勝つのは難しい。


「9番の浜岡さんって、マジ可愛くない?」


 身を乗り出すようにモニターに見入っていた神愛ご推薦のその子は確かに可愛くて見事に女の子になっていた。まあ、身長180cmの女の子はそうは居ないだろうけど。


「アタイもそう思うわよ、9番ラブだわよ」

「あたしも…… 同じかな」


 そう言いながらチラリと僕を見たマナ。

 ああ、そうですよ、僕だって同類ですよ――


 さて、優勝は予想通り9番の浜岡さん。将棋部で全国大会出場経験もあると言う秀才だそうだ。そして準優勝はバナナを舐めたパソコン部の部長だった。


「ほらやっぱり神愛の予想通りだ!」


 嬉しそうに両手を握りしめる神愛を見て、それはいいけど、と心で呟く。

 ステージが終わるとみんなは乗り出していた体をどっかと椅子に戻す。そして口々に面白かったね、と声に出す。そう、面白かった。めちゃくちゃ面白かった。知らない先輩ばかりでもこの面白さ、クラスメイトが出ていたらもっと面白いに違いない。でも今から僕たちはそれに代わる代案を作らないといけないのだ。


「だけど、困ったわね」


 マナが僕の気持ちを代弁してくれた。


「この代わりの出し物って、考えるの大変よね」

「アタイもそう思うわよ。男子が「ミス剛勇」なら女子は「ミスター剛勇」やればいいわよ、って思ってたわよ。でも、やっぱりそれじゃ駄目な気がするわよ」

「そうね、ミスター剛勇なんて、出場する女子はいないと思うわ」


 みんなは暫し無言で考え込む。


「ありきたりだけど、生徒会劇は?」


 沈黙を破ったのはマナだった。


「う~ん、普通の劇であの盛り上がりは不可能だわよ」


 小説やアニメの世界では生徒会劇は盛り上がるって相場が決まっている。ロミオとジュリエットやシンデレラなんかが定番だろう。でもそれは、生徒会長や出演者が圧倒的な人気を誇っているからだ。そうじゃなきゃ演劇素人の生徒会が演劇部に敵うはずもない。


「せっかく共学になったんだから、男女のカップリングショーはどうかな? 男女でゲームなんかして最後に告白合戦するの」


 神愛の提案、でも僕もマナも即座に首を横に振る。


「今年は無理……」


 そう、今年のメンバーでは無理。女子は3人しかいないし、今まで僕が告白してくる男子生徒をどんな目に遭わせてきたかを考えると、お見合いショーなんて出来るわけがない。


「じゃあ他には…… カラオケ大会?」


 言った神愛もそれが没アイディアだって分かっているのだろう。すぐに大きく嘆息して。


「ありきたりよね」

「定番はメイド喫茶わよ! バニーガール喫茶も面白そうわよ!」

「サリーそれ、ステージじゃ出来ないから」

「マジカル喫茶もいいわよ」

「サリサリ、ステージではお茶飲んで一服しないから!」

「じゃあどうしたらいいのわよ」

「…………」


 結局、新しい出し物はみんなの宿題となった。



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