第1話
新章になります。
感想コメント突っ込み等々、首をキリンさんにしてお待ちしています。
第6章 ミス剛勇ハイスクール
教育熱心な剛勇高校の夏休みは短い。
新学期、久しぶりの授業を終えるとみんなは揃って旧校舎へ向かった。
「もうすぐ秋ね」
少し寂しげにマナが言う。
「まだイヤになるくらい暑いでしょ?」
笑いながら言葉を返すと「そうだけど」と目を逸らされた。
「秋は運動会に文化祭、楽しい行事が目白押しわよっ!」
サリーはひとり声を弾ませる。
「でも運動会ってどうするのかしら? あたし達たった3人よ」
「男に混じって戦うに決まってるわよ、全然問題ないわよ」
当然とばかりに力説するサリー。だが現実は問題だらけだ。
考えてもみて欲しい。
例えば騎馬戦。4人1騎だとして女の子だけでは1騎も出来ない。男の上にまたがるなんて出来るのか?
組体操。男女入り乱れたピラミッド、最後にバサッと潰せるのか?
駆けっこ。僕にも勝てないサリーとマナが男女混合で勝てるとは思えない。いや勝ったら勝ったで負けた男が何を言われるか――
そんなこんなをサリーに話すと、彼女はう~んと唸ったけれど。
「そうだ、みんなで男装するわよ!」
「その大きな胸じゃ無理でしょ?」
「お相撲さんは大きいわよ?」
四股を踏み始めたサリーを横目にマナは真面目な顔で。
「築城副会長が言ってたけど、女子の演目は借り物競走と演舞なんだって」
なるほど、借り物競走なら足の速さはさほど問題にならない。しかし演舞ってたったの3人でやるのか?
「ダンス好きわよ、華やかわよ」
「でもサリサリ、女子はたったの3人よ?」
「分身の術使うわよ!」
サリーは最近、ちょっと中二病が入ってきた気がする。
「変身して巨大化もアリわよっ、ウルトラサリーわよ!」
ノリノリのサリーに押さているうちに旧校舎の2階に辿り着いた。僕たちは生徒会女子分室を通り過ぎ、生徒会室の方をノックする。夏休みも終わったことだし先ずは先輩方にご挨拶。
部屋の中には築城副会長がひとり、書類とにらめっこの最中だった。
「おう久しぶり。元気そうだね」
顔を上げ、いつものように鷹揚に、屈託ない笑顔で椅子を勧めてくれる。
「いいところへ来た。実は幾つか相談があるんだ――」
相談事、そのひとつ目は2学期になるとすぐにある生徒会選挙のことだった。築城先輩の会長立候補表明と、副会長立候補のお勧め。予想に反して先輩は僕に立候補を勧めてきた。
「でもサリーが現役員でしょ。だったらサリーの方が――」
「アタイが薦めたのわよ。副会長は次の会長候補筆頭だわよ。だったらやっぱり千歳が一番わよ」
サリーは会計をやりたいという、裏で金を握りたいんだとか。
「どうだろう? 西園寺とか言う一年生が副会長に立つって噂があるんだけど、僕は姉小路さんが適任だと思ってる」
いや、それは出来ない。
何故なら来年、僕はここにいない予定だから。
しかし、そんなこと言えるはずもなく「考えておきます」とお茶を濁す。
「いい返事を待ってるよ。それからもうひとつの相談だけど――」
築城先輩は立ち上がり本棚に歩み寄りながら。
「みんなはミス剛勇、って知ってるかな?」
「ミス剛勇? 千歳のことですかわよ?」
「何を言うのよ、それだったらサリーの方が」
「マナだってコマチオノだわよ」
「はははっ、そうじゃなくって」
彼は小さな冊子をテーブルに広げて置いた。
そこには去年の文化祭のステージスケジュールが載っていて、今聞いた「ミス剛勇」の文字があった。
「ミス剛勇コンテスト、略してミス剛。生徒会主催で代々続いてきた文化祭の名物企画なんだ――」
去年まで男子校だった剛勇の名物企画・ミス剛、それは男しか参加しないわけで、ミスと銘打っていても、当然中身は男。
「ある意味気持ち悪い出し物だけどさ、見事に化けるヤツもいるし、水着審査や特技披露もある結構本格的なコンテストで、毎年一番盛り上がるんだ」
なるほど男子校にありがちな企画かもと思った。男のミスコン。女性がいないから斜め上方向に盛り上がるだろう事は容易に想像が付く。
「で、ここからが相談、というか頼みになるんだけどさ――」
コホンとひとつ咳払い、築城先輩は僕、マナ、サリーの順に視線を巡らせた。
「今年もやりたいんだ、ミス剛。今年を最後と告知して盛大にやりたいと思うんだ――」
彼は共学になったらミス剛、即ち男の美人コンテストは色々問題が多いだろう言う。女子が参加できないばかりか、水着審査は妙に露出度が高く気色悪いらしいし、特技披露の部も舞妓さんとか制服アイドルとか魔法少女とか違和感しか感じないヤツらが続出するという。即ちこれ、とても純な女子に見せられる代物ではないらしい。でも、だからこそ野郎たちは盛り上がって、例年、文化祭の人気ナンバーワンを誇ってきたという。
こんなに綺麗な女性が3人もいるのに、と頭を下げながら築城先輩は胸の内を明かしてくれた。
「既に参加者を決めて準備までしているクラスもあってさ。だから今年が最後だとキチンと銘打って終わりにしたい。お願い、今年だけ大目に見て欲しい!」
大目に見るも何も、そんな伝統の企画だったら続けたらどうか、と僕は思うのだが、サリーは「なるほどねわよ」と腕を組んで。
「確かに女の子としてはちょっと微妙わよ。でも、アタイはオーケーわよ」
その横でうんうんと肯くマナを見てホッと息を吐いた築城先輩。「よかった」と笑顔を覗かせた。先輩が言うには、ミス剛は代々の生徒会長も出場するのが慣例で、だから僕も当選したら厚化粧をしてビキニ姿にならなきゃいけないと頭をかく。
「それでさ、この件でもうひとつお願いがあるんだけど――」
彼の口から語られたもうひとつのお願い、その話を聞くと3人とも考え込んでしまった。大変難しい依頼だ。だけど受けざるを得ない、そんな依頼。
それは「新しい剛勇の名物企画を考えて欲しい」と言うことだ。なるほど来年からミス剛がなくなってしまうとすると、その代わりとなり名物企画が欲しいところ。ましてやミス剛は生徒会主催だから次なる生徒会主催企画が必要なのだと彼は言う。
「新しい企画は共学校に相応しく男女とも楽しめなきゃいけない。そこでみんなのお知恵を拝借したいんだ」
彼は立ち上がり1枚の紙切れを机に置く。
それは今年の文化祭メインステージのスケジュール案。まだ空欄も目立つそれは軽音部、演劇部、ブラバン、落研と並んでミス剛勇コンテストもあった。
「このミス剛の前の空欄、ここも生徒会主催で押さえてるんだ。それで新しい企画をお披露目できれば来年に繋がるかなと――」
「先輩はその新企画を今年からやりたいと?」
その通り、と首肯して僕らを順に見回した築城先輩。いつも愛想がいいニキビ面が少し縋るように見えたのは気のせいだろうか。彼は自分でも色々考えたけど、なかなかいいアイディアが浮かばないと言う。困り果てたような顔を見て、ああ、この人も僕と同じ共学化の犠牲者なんだ、と少し同情してしまった。
「どうだろう、協力してくれないか?」
考えてみれば、まだ生徒会選挙前。
先輩にはこの厄介事から逃げる他の道もあるはず。
だけど。
「そうだね、落選したら笑うしかないよな。でも、これは今すべき仕事。落ちるにしても次の人に恨まれないようにしとかなきゃ」
ちょっと自嘲気味に笑うニキビ顔の先輩、ルックスは普通だけど愛想が良くて誰にも評判がいい彼の当選は間違いないだろうとの下馬評だ。ちなみに剛勇では例年、夏を過ぎると会長は事実上引退。副会長が実質の会長なのだという。三年生は入試があるから仕方がない、と彼は言う。
「分かりました。みんなで考えてみます」
「よかった。うちの女子は百人力だから安心だよ」




