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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第5章 オープンスクール大宣言
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第6話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 彩夏ちゃんが帰っていくとみんなは帰路に着きました。

 勝手にあんなことを言っちゃって、サリサリも千歳も全然オッケーって笑ってくれたけど。本当はどう思ってるのかな。困ってるんじゃないのかな、千歳。

 だって千歳は――


 確かめたい。

 でも、それを確かめてしまったら千歳は――


「彩夏ちゃん、納得してくれたみたいで良かったね。スマホに連絡じゃんじゃん入りそうだけど」


 ――言いたいことはそこじゃない。


「でも、剛勇志望者がひとり減っちゃったかも」

「仕方ないわよ、あの子はマリアナのご令嬢だもの」

「あのさ、千歳――」

「何?」


 街の灯りに浮かぶ千歳の横顔はドキリとするほど美しくて、その瞳がこちらを向くとあたしは思わず俯いてしまう。


「ラ、ラノベの新刊が出てるから本屋に戻りたいんだけど、千歳も買いたいのがあるって言ってたよね」

「わたくしが?」

「そうよ、言ってたわよ。ね、ふたりで行きましょ?」

「じゃあアタイもついて行くわよ」


 ちょっとサリサリ、空気読んでよ。

 それとも日本の空気は日本語だから、イギリス人には読めない?


「サリサリはなぁ子の晩ご飯当番だったんじゃない? 神愛ちゃんと先に帰ってもいいよ」

「エサ当番は神愛ちゃんだわよ。だからアタイはついて行けるわよ?」

「でもほら、もう真っ暗だし、神愛ちゃん一人で夜道は危険でしょ?」

「人通り多いし大丈夫わよ」

「サリー先輩、一緒に帰りましょ?」


 空気を無視して食い下がるサリサリの手を取った神愛ちゃん。聡明な彼女はきっとあたしの意を汲んでくれたのでしょう。ちょっとだけ強引にサリサリを連れ去ってくれました。あとでお菓子を持って行かなきゃ。

 そして、残ったあたしは千歳とふたりっきり。


「買いたい本なんてあったかしら?」


 鈍感。

 千歳も鈍感。

 ミエミエの口実なのに。

 ミエミエでモロミエで丸見えで神愛ちゃんはすぐ気がついたのに千歳は全く気がつかないなんて。

 今来た道を回れ右してゆっくりゆっくり歩き始めます。


「千歳にはなくてもあたしにはあるの!」

「じゃあマナは何を買うの?」


 本当に不思議そうな千歳、ラノベ主人公にも勝る鈍感さです。


「気配りのすすめ方」

「マナは気配り出来る子でしょ?」

「だから「すすめ方」」


 思わず嘆息してしまいます。


「ああもう、口実よ口実。ホントは買いたい本なんてない。勝手にあんな約束したこと、謝りたくって」


 立ち止まった千歳はキョトンとあたしを見つめます。


「あんな約束? 助かったわよ。お陰で来年は絶対たくさんの女子が来てくれるわ」

「そうじゃなくって! そうかも知れないけど、そうじゃなくって」


 落ち着けあたし。

 まずは自分の独断を謝って、それから――――

 しかしあたしの謝罪にも「あの状況だから当然でしょ」と千歳は笑います。


「来年、きっとたくさんの女の子に囲まれると思うの。千歳は特に人気があるから大変よ。あたしもサリサリも忙しくなって、みんなひとりで頑張らなきゃいけないかも」

「そうね、仕方ないわね」

「千歳は大丈夫なの? 女の子の質問とか困り事とか――」

「頑張るしかないわよね」


 言いながら千歳が見上げた先、遠い山の上で丸く光る大きな月。


「女の子って不安定になることがあるでしょ?」

「は?」

「イライラしたりいっぱい食べたくなったり。千歳はないの?」

「あ、えっと…… そうね、あるわね」

「千歳はどっち派? 何使ってるの?」

「……何って…… 何?」


 ごめん千歳、意地悪するつもりなんてない。ただ、女の子のお相手は難しいって知って欲しくって。彩夏ちゃんの時も対応ちょっとヘンだったよね、千歳。


「あたし、千歳が心配」

「心配? どうして?」


 だって千歳は…… 

 でも、聞けない。

 秘密がばれたが最後、千歳は学校にいられなくなる。

 だから、聞けない。


 でも、だったら、どうしたら……


「月が、きれいね」

「……そうね」


 ドキドキと心拍数が急上昇していきます。

 もしかして。

 あたしが気持ちを真っ直ぐに伝えたら、千歳も本当のことを――


「あたしね――」

「――ん?」

「千歳が大好き!」


 言っちゃった!


 誰もいない歩道、真っ直ぐ千歳を見上げました。ヘッドライトが過ぎ去ります、ひとつ、ふたつ、みっつと。


「――わたくしも、マナが大好きよ」


 ゆっくりとこっちを向いて、でも事も無げに微笑む千歳。

 あたし、必死で言ったのに。


 ずるい。

 ずるい。

 あたしの胸は荒れ狂っているのに。

 あたしの言葉を、ただの友だちとしての言葉にすり替えるなんて。


 きっと千歳はなりきってるんだ。

 でも、だったら。

 あたしは本気なんだって、気付かせてあげる――


「千歳」

「…………」

「愛してる!」

「っ!」


 その瞬間、千歳の顔が驚きに変わりました。

 分かってくれた?


 そして、ふたりは月の光と静寂だけに包まれました。




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