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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第5章 オープンスクール大宣言
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第5話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ドキドキ。

 独断であんなことを言っちゃったけど、いけないことを言っちゃったのかも――

 

 急遽行われた、在校生女子によるぶっちゃけ説明会。

 真面目そうな女の子の「女子はほとんどいないのに、どうして剛勇を選んだのですか?」と言うストレートな質問に困っていた千歳。彼女は納得してなかったし、周りのみんなも同じ顔をしてました。だから思わず自分の経験を語ってしまいました。千歳のためにって咄嗟とっさに喋っちゃった。ああ言えばたくさんの人が受験してくれるって思ったから。だって女の子たちの視線は千歳へと集中していたから。それは憧憬の眼差し。あたしも同じだからすぐに分かります、千歳に憧れる気持ち。凛として壇上に立ち、優しい笑顔で語りかけてくれる千歳。千歳とお近づきになれるんだったら―― だからああ言えばみんな来てくれるに違いない、咄嗟にあたしはそう思ったんです。結果はあたしの想像以上でした。あのあと千歳はもみくちゃにされました。あたしも、ですけど。きっとたくさんの人が剛勇を志望してくれるでしょう――


 でも、それはあたしの独断――


「マナ、そろそろ帰りましょうか」


 片付けが終わるとみんなで寮に戻りました。

 彩夏ちゃんと神愛ちゃんは駅前のコーヒーチェーンで一服しているはずです。


「5分後に玄関に集合よ」


 靴を脱ぎながらの千歳の言葉に、サリサリが異を唱えます。


「ええ~っ? 5分は早すぎるわよ、せめて10分わよ!」

「そう? じゃあ10分後」


 あたしは千歳に伝えたいことがあります。

 独断であんな話をしてしまいました。そして、みんなの反応を見て気がつきました。きっとあたしはとんでもない約束をしてしまったのです。千歳には秘密があったんです。あたしの考えが正しかったら―― それを、みんなの相談相手になれなんて。千歳に女の子の相談相手になれなんて。だって千歳は、きっと……なんですよ!


パパッと私服に着替えると鏡を見ます。パフを手にして軽くファンデして、リップを塗って。分からないくらいに薄く薄くお化粧をします。先日、久しぶりにモリッチとトーコに会って開口一番に言われました、綺麗になったねって。自分では分からないけど満更でもない気持ち。千歳はどう思っているのかな、あたしのこと。


 白い壁に時計を見ます。8分経過。

 もう行かなくちゃ。


 駅の近くにあるセルフのコーヒーショップ。オープンキャンパスに来てくれた人波も既に消えていて、店はそこそこに空いてました。それなのに神愛ちゃんと彩夏ちゃんは奥の喫煙席に陣取って、空になったグラスを前にあたし達を見つけると笑顔で手を振って立ち上がりました。


「さっきまで満席だったんですよ。禁煙席に行きましょう」


 ふたりはもうかれこれ1時間はここに居るはず、時計の針は5時ちょっと過ぎ、この駅の近くには別の喫茶店もあるし、まだ晩ご飯には早い。


「一度店を出ない?」

「そうだ、ちょっと歩くけど公園に行こうよ」


 神愛ちゃんの提案で5人は公園へと向かいました。高架を降りて寮への道を少し戻ると右手の方に広い公園があります。


「今日はわたしのためにありがとうございます」


 殊勝なことを言う彩夏ちゃんはピンクのリボンを弄びながら千歳の後ろ姿を見つめます。


「彩夏ちゃんは千歳が、好き?」

「あ、はい。好きです、大好きです。不思議なくらいに――」

「不思議なくらいに?」

「ええ。千歳さまって本当に不思議ですよね。わたし幼稚舎からずっとマリアナでしょ? それなのに千歳さまみたいにタイプの女の人って見たことなくて。凛として優しくて、でもどこか素っ気なくて考えていることが分からなくって、でもそこが格好いいなって。すっごく惹かれちゃった」


 彩夏ちゃんの言うこと、分かります。


「ドキドキしちゃうんです、勿論綺麗さだって別格だし。眞名美さまもそう思いませんか?」


 どこからどう見ても完璧美少女な千歳。男子だけじゃなく女の子も惹きつけちゃう。それにはやっぱり理由があるのかも。


「あ、眞名美さまもすっごくカッコいいですよ、特に今日の演説。先輩もわたしの憧れです。わたし絶対剛勇に来ますね」


 女子向けのぶっちゃけ説明会、あのあと女の子たちから漏れ聞こえる声が一変しました。それまでは「先ずは見学」って声がほとんどだったのに、ここに決めたって声があちこちから聞こえてきたのです。彩夏ちゃんも同じ感想です。


「だって千歳さまや眞名美さまとお近づきになれるんですよ? 誰だってコロリですよ。あ、サリーさま派も多いですよ」


 陽は大きく傾いて公園は薄い朱色に包まれます。ブランコで遊ぶ小学生の笑い声、お母さんが呼ぶ子供の名前、会社帰りのサラリーマンも砂場の横を歩いていきます。あたしたち5人は鉄棒の前に並びました。ベンチは3人掛けですし、ブランコだって女の子が使っています。サリーと神愛ちゃんはぴょんと弾んで鉄棒に座りました。


「お話というのは、ですね……」


 いきなり本題に入った彩夏ちゃんは、あたしの隣で言葉を紡ぎます。


「進路、迷ってるんです――」


 俯いたまま語られた言葉によると、彼女は剛勇の受験をしないよう、きつく言われているのだとか。マリアナ女子の理事長の娘、そんな彼女が他校に行くなんてあり得ない、一体何を考えているのだと。まあ、当然と言えば当然でしょう。破天荒な彩夏ちゃんでも、そこのところは理解しているよう。


「ねえ、どうして剛勇がいいの?」

「剛勇がいいというか、マリアナがイヤなんです。あ、いい学校ですよ、マリアナ。小学校も中学校も、勿論高校も。だけどわたしはイヤなんです、色眼鏡で見られるのが…………」


 バスケの応援の時を想い出します。確かに彼女はマリアナの生徒の注目を集めてました。でもそれは、決して悪いことじゃないと思うんですけど。

 しかしマリアナ女子でチヤホヤされるのはもう懲り懲り、と彼女は言います。とは言えご両親だって譲らない。そりゃあそうでしょう。学園長の娘が、学力レベルも校風も文句なしに合っている自校を捨てて他校に行くなんて。


 そんなにイヤなのでしょうか、チヤホヤ――


「チヤホヤされて特別扱いの何処が悪い、って思ってますよね?」


 心を読まれました。突然のビンゴに思わずこくりと頷くと。


「眞名美さまは正直ですね。でももううんざりなんです。ねえ千歳さま、最初にわたしが寮に押しかけてきたときのこと覚えてますか?」


 押しかけてきたって自覚はあるみたい。

 話を振られた千歳がこくりと頷くと。


「わたしの髪飾りを悪趣味だって切り捨ててくれましたよね。びっくりしました。同時に「やっぱり」とも思いました。だってあんなに大きく派手な薔薇なんか、誰もしてないんですもの」

「だったら――」

「外せばいい、ですよね。でも、クラスメイトも先生も父からのプレゼントだと聞くと「似合ってる、素晴らしい、ナイスチョイス」と口を揃えるんです、だから外せなくって。笑っちゃうでしょ?」


 夕焼けが彼女の頬を染めます。彼女の栗毛を煌めかせせて。そしてその瞳にはうっすらと――


「わたしきっと、友だちが欲しいんです。小説やマンガで読むような意地悪だったり冷たかったり怒られたり怒ったり、そんな友だちが。そして、千歳さまみたいなお姉さまが――」


 突然千歳に飛びついた彩夏ちゃん。フリーズする千歳をぎゅっと嬉しそうに抱きしめて。


「だから大好きですっ!」


 なっ、なななな……


「お姉ちゃんを放せっ!」


 鉄棒から飛び降りてタックルしたのは神愛ちゃん。


「放さない!」

「放せヘンタイ!」

「変態じゃないもん!」


 神愛ちゃんに後ろから抱きつかれる格好になった彩夏ちゃん。千歳から手を離すと今度は神愛ちゃんを抱きしめました。


「んなっ、何すんのよ!」

「だって友だちでしょ?」

「んもう、バカじゃないの?」


 軽く突き放された彩夏ちゃん、でも全く悪びれた様子はありません。


「だからわたしは剛勇がいいのよ、神愛みたいなバカがいるから」

「あんたほどバカじゃないよ」

「ねえ、ちょっと分からないのわよ、教えてわよ」


 律儀に右手を真っ直ぐに挙げて質問するサリサリ。


「どうして彩夏はマリアナじゃ駄目なのわよ?」

「だからわたしは皆さんと友だちになりたくって……」

「アタイ達はもうみんな友だちわよ、学校がどこだって関係ないわよ?」

「学校がどこだって……」


 小さな声で反復した彩夏ちゃん。

 やおら「そっか」と呟くとガバッと頭を下げました。


「なんか道が見えました。わたしも両親が剛勇に行く事を許さないの、理屈では分かってるんです。でも納得できなくて、それで皆さんに相談したんですけど、わかりました。ありがとうございます」


 そう言って再び上げた顔は晴れ晴れとしていて、一体何が分かったのかあたしにはさっぱりでしたけど、ともかく一段落したみたい。


 それから、みんなでファミレスに行きました。

 ひとりで納得した彩夏ちゃん、有無を言わさずみんなは携帯のアドレスを交換させられました。本当はあたし、彼女が何をどう納得したのか、まったく分からなかったんですけども。




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