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第4話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 校門に差しかかると迪子みちこ先生に声を掛けられた。


「あらまあ、千歳さんに眞名美さん、今お帰りなの?」


 ウールマークのような髪を揺らして歩いてくる、大学を出てまだ3年目と言う桜宮迪子さくらのみやみちこ先生はクラス担任、そして僕の正体を知っている唯一の先生だ。きっと理事長である母から理不尽なプレッシャーを掛けられて渋々サポート役を引き受けたのだろう。ア~メン。


「色々あってちょっと遅くなりました」

「色々?」


 帰りのホームルームが終わって既に30分は経っていた。

 僕はクラスのみんなと雑談をしていて遅くなったと言い訳をした。道すがら、ふたり合わせて4人の男子にコクられたことは伏せておく。


「千歳さんったらモテモテでみんなが放してくれないんですよ」


 マナが笑いながら余計な補足をする。


「そりゃあ女子はたったのふたりですものね」


 人差し指を立て納得顔の迪子先生。茶色いメガネの奥が笑っている。他人事だと思って気楽なもんだ。


「そうそう、明日から部活の勧誘が解禁されるわよ。うちの勧誘は派手で荒っぽいから気をつけてね!」


 迪子先生は軽くウィンクすると校舎の方へと戻っていく。

 その姿を見送ると、ふたりはまた歩き出した。


「マナは電車?」


 正門前は2車線道路、左手にまっすぐ行くと駅へと続く下り坂。


「うん電車。乗り継ぎが2回あってちょっと遠いの。千歳はあっちなの?」

「あっちって?」


 あれっ、僕、右に曲がってる?


「あ、おほほほ…… 実はわたくし、方向音痴で――」

「へえ~っ、完璧に見える千歳にも、そういうとこあるんだ」

「あら、わたくしなんて欠点だらけの人間よ。なで肩で線は細いし逞しくないし、優柔不断で涙もろいし――」

「……自慢話をする欠点もある、ってこと?」

「……自慢?」


 回れ右をしてマナと一緒に坂を下る。

 追い越す男子たちは皆振り返り、うっとりするような視線を寄越す。気持ち悪いけどちょっとだけ快感も感じ始めた自分が恐ろしい。中には僕らを見つめたまま後ろ向きに歩いて電柱に激突する猛者も出る始末。大丈夫ですかと駆け寄れば、鼻血を押さえて走り去った。マナと顔を見合わせ苦笑い。


「千歳ってホントに罪な女よね」

「もう、わたくしはツンってそっぽを向いていたわよ」

「そこが凄くそそられるんじゃない」


 ふたりの制服は正統派のセーラーだ。

 奥床しい濃紺の生地、襟にはスッキリ3本の白いライン。膝下までのスカートは楚々として制服マニアも唸る王道デザイン。僕の脚には黒いニーハイ、マナは真っ白なハイソックス。僕らを憧憬どうけいの眼差しで眺める男子生徒の気持ちも分かる。うん、分かる。分かるよ君たち、僕だって男だし。


「女子寮はこの先を右に曲がるの。学校から5分くらいかしら」

「いいなあ、寮は近くって。あたしも女子寮に入ろっかな?」

「えっ?」


 言葉に詰まった。

 マナと一緒に女子寮って――

 だって今の僕は女の子――


 新築された女子寮は学校からほど近い閑静な住宅街にドドド~ンと建つ白い3階建て。広い敷地、50人が収容できる立派な施設には今、僕と神愛のふたりだけ。だから女子寮とは言え気楽なものだ。正体を隠す必要がないのだから。マナの言葉にすぐ「大歓迎だわ、いらっしゃい!」と言えなかったのはその所為だ。彼女が来たら大浴場にもゆっくり入れなくなるし。


「女子寮に何か問題でもあるの?」

「い、いいえ、凄くいいところよ。新築だし設備も良くって部屋も広いわ。マナも是非いらっしゃいな!」


 すぐにこう言うべきだった。


「そうね、帰って相談してみるね。じゃあ、あたしは駅だから」

「き、気をつけてね」

「はいっ、ごきげんよう」



お読み戴きありがとうございます。感想とかもぜひぜひお気楽に!

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