第2話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
学校説明会は剛勇自慢の体育館で行われる。舞台に向かって整然と並んだパイプ椅子。その右側四分の一に女子生徒とその父兄が座っている。よかった、百人は超えているだろう。今までの苦労が報われたんだ――
壇上に理事長が上がり説明会が始まる。軽く時事ネタで笑いを取って本題に入る北丘理事長。我が母ながら話が上手い。口から生まれてきたに違いない。神愛もだけど。
毎年恒例というオープンキャンパス、剛勇学園の特徴や学校生活の紹介、そして進学実績の説明と続く。参加者達の手元には僕たちがモデルにもなった学校案内パンフレットと今日のプログラムやアンケート用紙。さっきからパンフレットと僕たちの顔を見比べる生徒が目に付く。特に制服のモデルをやったマナは大きく全身写真が載っているから注目の的だ。
「マナ、ちょっとした有名人ね」
「なんか恥ずかしい」
壁ぎわに立って進行を眺める。ちょっと手持ち無沙汰。時々遅れてきた人を案内することがあるくらい。
「女子の参加者は125人だわよ」
サリーは暇に任せて人数を数える。
「結構多いじゃない、よかったね千歳」
「ありがとう、みんなのお陰だわ」
順調、と思われた学校説明会。
しかし、重要なのは人数だけじゃないって事を、このときの僕はまだ気がついていなかった。
「では質疑応答を行います。質問のある方は挙手をお願いします」
パラパラと手が上がる。
マナと僕はマイクを持って質問者の元へと走った。
漏れなく説明したつもりでも、参加者には疑問がいっぱいあるものだ、専攻科目のこと、学習進度のこと、学校行事のこと等々、それらに理事長と教頭先生が答えていく。
何人目だろうか、僕がマイクを向けたのは茶色いロングの女子だった。
「女子は授業料免除って聞いたのですが?」
えっ?
そんな話聞いてない。
母も一瞬驚きの色を浮かべる。
「インターネットで見ました」
デマだ。
きっとデマ情報が流れているのだ。慌ててスマホで検索を掛ける。
情報を否定する母に次の質問だ。
「女子の入試難易はどれくらいですか?」
「先ほどお話ししたとおりですが?」
「女子は男子より易しいと聞いたのですが?」
はっ?
検索すると出るわ出るわ。
剛勇は授業料を免除してでも女子に来て欲しがっているとか、女子の受験生には30点のハンデを付けてくれるとか、美人は無条件で入学できるとか――
軽い冗談か、悪意のある嫌がらせかは分からないけど、明らかに嘘。
僕たちが悪い噂を消したはずの掲示板にも数日前から書き込まれていた。気がつかなかった。僕の失態だ――
急に場内がざわつき始める。場内が、と言うより女生徒のエリアにヒソヒソざわざわと動揺が走る。どうやらデマに踊らされてここへ来た人も結構いるようだ。
僕は舞台下へと駆け寄り、母に検索結果を告げた。すると母はおもむろに。
「千歳、あなた責任取りなさい。急遽女子向け説明会を実施しましょう。そこであなたがデマ情報を払拭するの。そうね、在校生女子のよるぶっちゃけ説明会、ってどうかしら。負の印象をいい印象へと変えるチャンスよ」
「ちょっ、ちょっとそんな急に」
「急な無茶振りに対応できなくてどうするの?」
無茶振りって分かってるんだ。だったら……
「分かったわね!」
「でも……」
「お小遣い、倍増」
「はい」
こうして急遽、施設見学の時間を使い現役女子生徒による女子向け説明会を開催すると言うことになった。




