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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第5章 オープンスクール大宣言
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第1話

新章になります。

ご意見ご感想お待ちしています。




 第5章 オープンスクール大宣言



 学生の本分は勉強だという。「学ぶ者」なのだから当然と言えば当然だろうけど、何故だか僕は反発してしまう。間違えないで欲しいけど否定するわけじゃない、何かがスッと胸に落ちないのだ。勉強したらどうなるのか? この連立方程式が解けたら何かいいことがあるのか? お金持ちになれるのか? 可愛いあの子が振り向いてくれるのか? 誰も納得のいく説明をしてくれない。だからに落ちないのだ。それに先日の期末テスト、中間に続いて学年トップだったのに母にこっぴどく叱られた。


「どうなっているの千歳? 女子の剛勇人気、一向に上がらないじゃない! あなたちゃんとやってるの? あなたの使命、分かってる?」


 僕の本分は女生徒を増やすこと、学業なんてどうでもいいらしい。ああもう予習復習なんてやめたやめた!


 ……と思っていると、母は続けて。


「まあ期末の成績に免じてお小遣いは1割カットで済ませてあげる」


 前言撤回。学生の本分は「親の奴隷」。どんなに身勝手で我が儘な母だろうと母は母。これで成績がボロボロだったらと思うと身の毛もよだつ――

 関係ないけど「母は母」をひらがなで書くと「ははははは」。

 なかなか面白い。


 さて、そんなこんなで期末テストも終わり、いよいよ待望の夏休み。

 今日は来年の受験生に向けた学校説明会の日。いわゆるオープンキャンパスってヤツ。


「お待たせ~っ!」


 手を振って現れたのはマナ。癖のある栗色の髪を白いリボンでふたつにまとめて、久しぶりに会う彼女の笑顔はやっぱり眩しい――


 10日ほど前、夏休みに入るとマナは実家に戻った。

 でも、わたくし・姉小路千歳は実家に帰ることは出来ない。サリーもいるし、訳あって神愛も僕も家に帰れない設定になっているから。

 だからこの10日間、マナとは会ってない。


「待ってたわマナ。今日はよろしくね」


 彼女がいない10日間、本性を隠す相手がサリーだけになったから少しは気楽なはずなんだけど、実際は全く反対。マナがいないと困ったり不安になることばかり。分かれ道ではさりげなく「右です」って教えてくれる人はいないし、納豆と玉子焼きを交換してくれる人もいない。勿論、急な雨にさりげなく傘に入れてくれる人も――


 それに彼女は僕が困ることを絶対にしない。一緒に着替えようとか、お風呂に入ろうとか。最近、マナは僕の秘密を知っているんじゃないかと思うときすらある。まあ、こんな秘密、バレたら黙って見過ごすわけないから大丈夫だと思うんだけどね。

 

「さあ頑張るわよ。受験生いっぱい来てくれたらいいね」


 今日のオープンキャンパス、女子の新入生獲得を学業を超えた至上命題とする僕にとっては命を賭けた決戦場。剛勇にも女生徒がちゃんと居ることをアピールするために極力露出を高める予定を組んでます。


 朝は校庭で案内係

 説明会場では整理役と進行補助

 お昼はカレー配りの給仕をやって

 午後の体験授業では補助係

 部活体験の受付嬢

 お終いに校庭でお見送り


 息つく暇もないフル稼働だ。

 これ、スケジュールを立てたあとに気がついたんだけど、僕たち女子には食事を取る時間がなかった。でも、マナもサリーも大丈夫って言ってくれた。


「お姉ちゃん、神愛は?」

「普通にオープンキャンパスの参加者でいいのよ」

「でも……」

「そうよ、神愛ちゃんは受験生だもの」


 マナに言われて「そうですか」と答えた神愛は、駅に様子を見に行くと去って行った。

 かくして朝9時30分、校門が開放され入場が始まる。


 一番乗りはお母さんと一緒の男子生徒。日曜なのに学生服着用ってご苦労様です。続いて男子3人組。緊張した面持ちで歩き方もカチコチです。


「おはようございます」


 校門には僕と迪子みちこ先生。明るく元気にハキハキと、がお出迎えの鉄則だ。


「「「おはようございますっ」」」


 精一杯頭を下げる中学生たち、初々しいったらありゃしない。

 僕の後ろの受付にはマナとサリー、そして国語の高田先生。記名をしてもらいパンフレットを渡してる。ここまでは元男子校を感じさせない女の子成分多めの布陣だ。


「おはよう」

「あっ、三崎みさきさん! おはようございます」


 雑誌編集者の三崎さんが笑顔で手をあげる。横には大きなカメラを持った若い男の人。


「約束通り取材に来ましたよ」


 日本橋のメイド喫茶前で知り合った三崎さん、1ヶ月ほど前、取材した雑誌が出来ると寮にまで持ってきてくれた。そして僕らが剛勇に女子を増やすべく日夜頑張っていることを知ると、是非その活躍ぶりを取材したいと依頼された。勿論僕にとっても願ったり叶ったり、ふたつ返事でOKした、と言うわけだ。

 彼の隣の若い男性、黒っぽいTシャツにジーンズというラフな格好をしたのっぽさん。撮影の断りを入れると真っ先に僕にカメラを向けた。


「桜宮先生もご一緒に」

「いやよ、引き立て役なんて」


 いや、そんな写真じゃないから。

 校庭を背景にフラッシュを浴びると次は受付のマナとサリーの番だ。


「『共学一年目の学校説明会』って内容で、姉小路さん達を前面にフューチャーしますから、期待していてください」

「お願いします」


 三崎さんが構内に入っていくと、今度は坊主頭の中学生が団体でやってくる。開門早々なかなかのお運びだ。


「お姉ちゃん!」


 坊主頭軍団の後ろから神愛の声。

 しかもその隣には懐かしい顔が――


「千歳さまっ!」


 麻色のゴージャスな巻き髪にはいつか一緒に選んだピンクのリボン。僕でも知ってる名門マリアナ女子中の制服を身に纏った秋宮彩夏は僕に駆け寄り手を取った。


「千歳さまの言うとおり、ちゃんと家でもいい子にしてるし、学校でも生徒会長全うしてますよ!」

「さすが彩夏ちゃんだわ。えらいえらい」

「もっと褒めてください!」

「えらいえらい」

「頭なでなでしてくださいっ」

「なでなで」

「もっとですっ」

「はいはい。なでなでなでなで」

「ぐへへへ……」


「何してるんですか、お姉ちゃん!」


 神愛に腕を引っ張られ、よろけてしまった。しかし彩夏ちゃんはそんな妨害にめげることなく神愛にべーっと舌を出すと、すぐにまた僕に笑顔を向ける。


「そうだ、お手伝いできることはありませんか?」

「いや、そのマリアナの制服でお手伝いされても困るんだけど……」

「じゃあ脱ぎます、今すぐここで!」

「彩夏、あなたアホじゃないの?」

「大丈夫よ、中はスク水を着てるから」


 本気で脱ごうとする彼女を、神愛とタッグで必死に押さえ込んだ。


「普通に参加してくれるだけで、とても嬉しいのよ」

「もう、千歳さまは水くさいです」


 僕の手をガッシリ握って見上げてくる大きな瞳は少し怒った風でもあり甘えている風でもあり――


「ほら彩夏、通行の邪魔になってる。さっさと行くよ」


 その手を強引に引っ張る神愛、嫌がる彼女を受付の方へと引きずっていく。通り抜けざま、僕に小さく「このスケベ」とだけ呟いて。


 それからも参加者は増え続けた。ただし男ばっかり。女子生徒は未だ神愛と彩夏ちゃんのふたりだけ。やっぱり今年も剛勇は女子に不人気のままなのか。女子寮ブログは毎日更新して少しずつだけどフォロワー増えていたし、女子はみんな休日返上で毎週毎週学外のイベントに参加して剛勇に女子ありと必死でアピールしてきた。三崎さんの雑誌でも剛勇のオープンキャンパスの予告記事を載せてもらった。それなのに、だ。


「おはようございます!」


 元気な挨拶、優等生風なメガネ少年が少し緊張気味に頭を下げる。その後ろからはお母さんと一緒のぷっくり太った少年、友だち同士じゃれ合っている少年、そしてまた少年、少年ばっかり――


「おはようございます」


 しかし、横に立つ迪子先生は泰然と笑顔のまま。そりゃ先生にはノルマないもんな、女生徒100人集めるって。


 チラリ受付を振り返るとマナと目が合う。彼女は手の平を上に向け、どうしたものかという仕草。

 開場してから25分、やってくるのは男の子ばかり。これじゃあ来年100人の女子獲得なんて夢のまた夢。あんなに毎日頑張ったのに、やっぱりダメか……


「どうしたの千歳、浮かない顔して」

「かっ…… 理事長!」


 ベージュのスーツを着た母、じゃなくって北丘理事長、満面の笑みを浮かべて僕の顔を覗き込む。


「さあ仕事よ、シャキッとなさい」


 黄色い旗を掲げた理事長、その後ろには女子生徒達の行列が。


「迷わないように女子だけは駅に集まってもらって、集団で案内してきたのよ」


 行列の中には先生方の姿もあって、ここへの道すがら、女子生徒の勧誘と懐柔に精を出してきたのだとか。それならそうと最初から教えておいてよ、母ちゃん――



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