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こんなに華麗な美少女が、あたしに恋するはずがない!  作者: 日々一陽
第4章 お嬢さまは女子寮がお好き?
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第8話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ささささ、妹さんも秋宮さんもどうぞどうぞ!」


 軽音のステージは大成功、あたしたち女子寮メンバーも少しは貢献できたと思います。バックコーラスは上手くいったし、司会の千歳も持ち前の美貌で道行く人の視線を欲しいまま。男性だけじゃなくって女の人も美人には弱いんですね。


 さて、ここは駅の裏手にあるカラオケボックス。ミラーボールがきらめく広いパーティールームでステージ成功の打ち上げ会です。あたしたち女子寮メンバーも誘われました。ステージ衣装の長い付け髪を掻き上げて軽音の平沢ひらさわ部長が乾杯の音頭を取ります。


「さあ、いつものように無礼講だあ。ステージの大成功に、かんぱ~い!」


 めいめいドリンクバーのドリンクで乾杯です。

 グラスが触れ合う音と同時に「ひゃっはあ~っ」って歓声が弾けました。


「曲、入れてよね。うちの連中は他人気にせずバンバン入れるヤツらばっかりだから。遠慮は無用だよ」


 彼の言うとおり、パーティールームはあっという間に狂乱のるつぼと化しました。踊りながら歌ったり、下品な替え歌を叫んだり、そして今、山田くんがステージの上で服を脱ぎ始めました。女の子の前で困った人たちです。


「彩夏ちゃんも歌えば?」


 平沢部長の勧めに満更でもない彩夏ちゃん。リクエストを入れています。サリサリはパーティールームが珍しいのかタンバリンを片手に部屋の中を立ち回り。千歳はみんなの勧めを必死に両手で拒絶してます。歌下手だから、と言ってるのが聞こえますけど、千歳の歌はあたしも聞きたいな。でも、もしかしたら歌いたくない理由があるのかも。下手だからとかじゃなくて――


「ねえ千歳、あたしと一緒に歌わない?」


 困っている千歳は助けてあげなきゃいけません。それがあたし・遊里眞名美の使命なのです。だって千歳はいつもあたしを助けてくれるんです。


「そうね、そうしましょ。えっと曲は……」


 あたしが男性ボーカルの歌を提案するとあっさり乗ってきた千歳。

 リモコンにリクエストを入れていると、誰かのズボンが目の前を飛んでいきました。怖くてステージに目が向けられません。


「引っ込め山田~っ!」


 かくして、軽音部打ち上げは和気藹々のうちに進みました。


「すっごく上手いね。びっくりしたよ……」


 最新のJポップを披露した彩夏ちゃんに拍手をしながら平沼さん


「いえいえ、それほどでも、ありますけど」

「ははっ、秋宮さんって中学生なんだよね。家は遠いの?」

「剛勇の女子寮にお世話になってます」

「へえ~っ。すごいね、もう寮に入ってるんだ。でも、寮って大変だろ?」

「そんなことありませんよ、皆さんお優しいし。ねっ!」


 振られた千歳はアイスコーヒーを片手に。


「彩夏ちゃんは体験入寮なの。1週間程度の予定だからみんな優しくしてあげてね」

「1週間なんて、そんな切ないこと言わないでくださいっ! わたし邪魔者ですか? わたしのけ者ですか? ホントの愛はここにないんですかっ?」


 訴える彩夏ちゃんに千歳はちょっと驚いたみたいでしたが。


「そうじゃないけど、ご両親も心配してるし、執事の東宮寺さんだって――」

「千歳さまはいつもお母さまや東宮寺のことばかり。わたしのことはどうでもいいんですねっ!」

「でもね、それが結局は彩夏ちゃんのためで――」

「わたしはイヤなんですっ!!」


 いけない、彩夏ちゃん爆発しちゃった!

 彼女の絶叫にカラオケルームのバカ騒ぎが一瞬で静まり返りました。気持ちよさげに歌っていたドラムの川中さんも、ノリノリでタンバリンを打ち鳴らしていたサリサリも驚いたように彩夏ちゃんに注目します。


「わたしは寮がとっても気に入っているのに。千歳さまのことも大好きなのに。千歳さまはわたしが嫌いなんだっ!」

「そうじゃないわ」

「そうですっ!」


 熱狂が止まったパーティールーム、ミラーボールの光を浴びてバツが悪そうにズボンを穿く山田くん。

 しかし、千歳は続けます。


「聞いて彩夏ちゃん、ただわたくしは――」

「あのね、彩夏ちゃん」


 千歳の言葉を遮りました。


「彩夏ちゃんは寮が大好きなのよね。千歳もサリサリも神愛ちゃんも寮のご飯も、そしてあたしも―― あたしも彩夏ちゃんが大好き。一緒にいると楽しい。寮のお仕事もちゃんとやってくれるし、なぁこも懐いてるし、今日だってずっと頑張って通行整理してくれたでしょ。彩夏ちゃんを嫌いな人なんて誰もいないわよ。千歳だって同じ」

「じゃあどうして――」

「だからね、イヤなら帰らなくてもいいの。きっと理由があるのでしょ」

「眞名美さま!」


 千歳に恨まれちゃうかしら。でもね千歳、女の子は理屈で押しちゃ駄目なときがあるの。今はまず彼女を分かってあげる時。


 ちらり千歳を横目で見ます。何か言いたげな千歳にあたしは目で合図を送ります。言いたいことが通じたのでしょうか、千歳は黙ってアイスコーヒーに手を伸ばしました。



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