第7話
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彩夏ちゃんは前向きで、どんどん突っ走る女の子。好奇心旺盛なサリサリや明るく快活な神愛ちゃんとの相性は抜群で大浴場のランニングマシンでタイムトライアル勝負をしてみたり、激辛スナックで大食い勝負をしてみたり。千歳やあたしはいつも押さえ役です。まあ、疲れはしますが、楽しくもありますね。
さてさて、今日は日曜日。
午後から軽音部の発表会です。発表会と言っても単独のコンサートではなく、駅前ひろばで行われる防災フェスティバルのステージで1時間ほど演奏をすると言うもの。ステージのメインは消防音楽隊による演奏。ハッキリ言うと前座です。でも1時間の間、司会進行も含めてまるごと剛勇軽音部が仕切ります。
「千歳さまがメインの司会なんですね。頑張ってくださいっ!」
「ありがとう」
「それでわたしは何をしましょう?」
「彩夏ちゃんはお客さんとしてゆっくり見てて貰えば……」
「わたしはお客さんじゃありませんっ!」
客寄せのチラシ配りとかステージ近くの通行整理とかバンド演奏へのコーラス参加とか、生徒会女子部のお役は色々ありますが、またも千歳は彩夏ちゃんをお客さん扱い。早く寮を追い出そう、じゃなくて心配しているご両親の元へ返そうと千歳なりに必死の様子。でも、ここは何か頼むべきじゃないかな。千歳には悪いですけど横から口を出してしまいました。
「彩夏ちゃんが手伝ってくれると助かるわ。じゃあね、神愛ちゃんと一緒にステージ前のロープのところに立っていてくれる?」
「警備ですね、ガッテンです眞名美さまっ!」
彩夏ちゃんは神愛ちゃんと、とても仲がいいのです。朝食の時も今すぐマリアナやめて神愛ちゃんの中学へ転校したいと言い出す始末。彼女の家はここから少し遠くて、市も違うから転校は不可能なのだと理詰めの千歳の説明に、彼女はあからさまにムッとして、
「じゃあ、神愛の校区に家を建てればいいんでしょ!」
だって。
さすがはお金持ちですね、あたしには想像すら出来ない発想です。しかし、それほど彼女は「マリアナ女子」を嫌っているんです。有名女子大までエスカレータのお嬢さま学校。世間の評判も高いのに不思議。
「ねえ、どうしてそんなにマリアナを嫌うの?」
そんなあたしの疑問に。
「お母さんの学校だからです」
「お母さんが嫌い?」
黙って俯いた彼女。やっぱりお母さんが嫌いなのでしょうか?
「彩夏ちゃんっていい子よね」
チラシを配りながら千歳に語りかけます。
「そうね。そうだけど」
「けど? 千歳は彼女が嫌い?」
「そうじゃないわ、ただ理事長に1週間程度で家に戻るようにしてくれって言われてるの」
だから何かと彼女を追い出そうとするのでしょう。ご両親が心配しているとか通学に時間が掛かるとか、寮の朝食は1週間食べたら同じメニューの繰り返しだとか。確かに全て正論です、もっともな理由です。でも彩夏ちゃんはまったく聞く耳を持ちません。それどころか千歳が説得すればするほど反発を強める始末です。
どうしてそんなにお母さんの学校を嫌うのでしょう? 彼女は明るくて活発な女の子です。学校で虐められてるとか友だちがいないとか、そんなことは想像できません。
「姉小路さ~ん、そろそろお願い!」
「は~いっ! じゃあマナ、サリサリ、あとは頼んだわよ」
開演1時間前、さらりと黒髪をなびかせて、千歳は軽音部員が集結するステージ裏へと消えていきました。