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第10話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 千歳と西園寺くん、ふたりは手も繋がず腕も組まず、それでも並んでいそいそと映画館へと向かいました。まあ想像の範囲内ですね。さて、ここで問題です。ふたりは一体何を見るのでしょうか? 定番のホラーもあります、感動のラブストーリーもあります、今話題のアクション超大作もあります――

 千歳は西園寺くんに何やら話しかけてます。あたしのアドバイス通りに見たい映画をハッキリ伝えてるみたい。あたしもふたりを付けてチケット売り場に並びました。


「劇場版フェイクアート・オンライン2枚」


 でました。

 まさかの劇場版アニメ。

 完全にノーマーク、すっごいダークホース、しかもこれって完全に男性向けじゃ?


 館内はやっぱり男の人ばっかり。あたしの後ろにサングラスにマスクをした若い女の人がいましたけど、映画館でサングラスってどういう了見でしょう? まあ、あたしも人のことは言えませんけどね――


 90分後。


 全然興味はなかったけどハラハラドキドキの展開でアクションシーンも迫力あって、気がつくとのめり込んで見入ってました。

 エンディングロールが流れ終わると千歳も西園寺くんも満足したように、にこやかに出て行きます。スクリーンに夢中でチェックが甘くなってたけど、まさか千歳、西園寺くんに落ちたとかないわよね?


 次にふたりが向かったのは日本橋方面。そう、先週も来た関西オタク総本山の地。ふたりは迷わずメイド喫茶へと突入しました。勿論あたしも続いて入ります。


「お帰りなさいませ、お嬢さま!」


 こんなお店、女の子ひとりで入るのは勇気がいります。でも全ては千歳のため。それに今日はサングラスとマスク、そしてウィッグを完全装備、マンガやドラマ的には絶対バレるはずはないのです。


「一番好きなキャラは?」

「わたくしはやっぱりチノたんだわ」 

「同じだ! 俺の嫁もチノちゃんなんだ」


 何の話で盛り上がってるのでしょう? 好きなキャラとか俺の嫁とか。ふたりで完全に意気投合しちゃってます。あたしはオーダーした普通のコーヒーにお砂糖とミルクを入れて………… あ、飲めないわ、これ。マスクが邪魔で飲めないわ。


 店の中をぐるりと見渡します。お客さんはほとんどが若い男性。女の子は千歳とあたしと…… あれっ? 店の外にサングラスとマスクをした女性がもうひとり。彼女はさっき映画館で後ろに座っていたような――


 西園寺くんは千歳の顔を覗き込んだまま、ひとりでぺちゃぺちゃお喋りに夢中。せっかく可愛いメイドさんが挨拶に来ても千歳一筋に全力投球。まあ、千歳は段違いに綺麗だから仕方ないですけどね。一方の千歳は西園寺くんそっちのけでメイドさんと楽しそうにお喋りしちゃってます。もう、千歳のスケベ!

 マスクをずらしてコーヒーを飲みながらふたりの会話を盗み聞きます。千歳は西園寺くんのスマホを借り出して、先日の写真データを完全消去に成功した模様。さっすがは千歳。さあこれで、もうそんな男とデートする理由はなくなりました。一発ビンタを喰らわして店を出る…… かと思いきや、今度はJリーグの話題で盛り上がってます。ホントに律儀なんだから、千歳。


 メイド喫茶を出るとアニメショップへ入っていくふたり。

 目的を達成したのにデートが続くとは意外です。

 西園寺くんがだらしなく破顔してベラベラ喋りまくっているのは予想通りですけど、千歳も普通に楽しそう。まったく西園寺くんなんか得意の一本背負いで地面に叩きつけてあげたらいいのに。でも、もしかしたら千歳も楽しいのかも。西園寺くんとは別の感情で――


 土曜の夕刻、若い人でごった返すグッズコーナーにはアニメキャラクターたちの缶バッジやストラップ、クリアファイルやアクリルのスタンドなどが所狭しと勢揃い。しかし、そこを軽くスルーしたふたりはフィギュアのコーナーで立ち止まりました。棚いっぱいに積み上げられた美少女フィギュアの数々。千歳はその箱のひとつを手に取って西園寺くんと眺めています。前から見て斜め下から見て―― って、下から覗き込んじゃダメでしょ!


穿いてないわ」


 何を言ってるの千歳!


「ホントだ、穿いてない!」


 アホなの? 西園寺くん。



 パシャッ



 背後で小さな音がしました。

 思わず振り返ると、見覚えがあるサングラスにマスクの女性がスマホを構えて…………

 って、彼女は!


「あっ」


 千歳もこっちを振り向きました。


「買おうかな、穿いてないし」


 尚もフィギュアを覗き込む西園寺くん、千歳は彼を引っ張って、さりげなくその場を離れます。



 ピロピロン!



 スマホを取り出すと千歳からのメッセです。



  お願い

  神愛の足止めをして



 やっぱり背後にいるのは神愛ちゃん!

 ってか、あたしの尾行、バレてたんだ――

 あたしはすぐさまメッセを返しました。



  OK



 当然の返事です。だって千歳の頼みですものね。

 背後を振り返りサングラス&マスク女に手を振ります。


「ねえ神愛ちゃん、ちょっとこっち」

「あっ、ダメですよ眞名美先輩! お姉ちゃんにバレちゃう――」


 様子をうかがっていた千歳、突然人混みをかき分け西園寺くんと出口の方へ逃走です。追いかけようとする神愛ちゃんだけど、その前に立って通せんぼをするあたし。


「こんにちは神愛ちゃん。こんなところで奇遇ね」

「ちょっ、通してください眞名美先輩っ!」


 横目で千歳を追う神愛ちゃん。

 だけど彼女は西園寺くん共々、エスカレータの先に姿を消しました。



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