第8話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
自分の部屋に戻っても、頭の混乱は加速する一方です。
千歳が西園寺くんとデート?
千歳が?
どんな男だって1ミリ秒で切り捨てる千歳が?
いつだってあたしを守ってくれた、あたしの大好きな千歳が!
だからって、あたしは西園寺くんに嫉妬なんか感じません。
千歳が男になびくなんて、これっぽっちも思ってないから。
そうじゃなくって心配なんです。
千歳がとっても心配なんです。
心配で心配で、頭がどうにかなりそうです。
「ごめんなさい、この前三崎さんと一緒の写真を撮られてしまって。ちょうどジオラマ喫茶のビルに入るところのツーショット。おじさんとならデートできるのにって迫られて――」
それって脅迫じゃないですか!
西園寺くんがそんなことをする男だなんて知りませんでした。けれど千歳は脅されたわけじゃないと言います。写真をどうこうすると言われたわけじゃないから安心してと。だけど恋は闇、恋は曲者、恋は盲目、恋は理性を狂わせます。千歳もそこを心配しているみたい―― けれど、一度デートしてしまったら西園寺くんの気持ちは加速するばかりじゃないでしょうか?
あたしの理解では千歳は西園寺くんに落ちません。絶対に落ちません。そう思うだけの理由も持ち合わせています。だけど、だからこそ不安なんです。
千歳はちゃんとデートが出来るの?
自分に恋心を寄せる男相手にデートなんて出来るの?
優しくて思慮分別があって、聞き上手の千歳。
言い寄る男を一瞬で切り捨てる冷酷さは、きっと優しさの裏返し。
もし、万が一にも間違いがあるとしたら――
決めた。
尾行する。
ふたりのデートを尾行する。
髪型変えてサングラス掛けて、地味な服着てマスクを付けて。
もちろんそれは悪いことだって分かってます。
バレたりしたら千歳に嫌われるかも知れません。
良心の呵責だって感じます。
でもね千歳、恋は盲目なんだから――




