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第4話

 賑やかな通り、縦横無尽に行き交う人々、やたら目に付くチラシ配りのメイドさんたち。土曜も夕刻を控えて通りは更に活気に溢れる。たこ焼きの香ばしい匂いが仄かに届く。ああ美味しそうなソース味。それでもここは歩行者天国ではない。人の合間をすり抜けていく車の排気音。ごちゃ混ぜの混沌こんとんを4人でわいわい歩いていく。


「あれっ?」


 マナが僕の肩を叩いて遠くを指差す。派手な看板の裏の古びた電柱――


「何? 電柱がどうしたの?」

「違う違う、電柱の向こうのおじさん」


 ああ、ピンクのシャツ着た中年のおじさんか。


「あの人って、さっき通りかかったときもいたでしょ?」

「あ、そう言えば」

「もしかして、張り込み?」

「何々? 事件の匂い?」


 嬉しそうに首を突っ込んでくる神愛。


「メイドさんのストーカーだったりわよ?」


 耳年増なサリーも話に加わる。

 さっきと言っても2時間近くは経っている。ピンクのシャツ着て、ちょっと洒落た黒いメガネを掛けて。果たして張り込みがあんな目立つ格好をするだろうか?


「何だか気味悪いよね」

「そうかしら」


 直感だけど悪い人には見えなかった。普通に仕事してる中年のおじさんっぽい。


「じゃあ何してるの、ずっとあそこで」

「本人に聞けばいいわよっ! 張り込みですか? 事件ですか? ってわよっ」


 言うが早いかサリー、ホントにおじさんの前に立つ。


「張り込みかしら、わよ?」

「は?」


 仁王立ちのサリー。突然の事におじさんはハトに豆鉄砲状態。口開けてポカンだ。


「ずっとここに居ますよね、わよ?」


 慌ててマナの横に立った。

 おじさんは、僕を見て、僕の背後を見て、慌てたように両手を違う違うと振りながら。


「張り込みとかストーカーとかそう言うんじゃないから。ちょっと人を待ってただけなんだ――」

「凄く長いこと待ってたわよ?」

「あっ、えっ、いやそれは、友だちが来られなくなったらしくて。で、ちょっと困ったなって……」

「何を困ってるのですか?」

「いや、あの……」


 女装野郎を含む女子高生4人に囲まれて、もじもじ返答に窮しているおじさん。やっぱり怪しい人なのか? でもちょっとかわいい。


「まさかそのお店のメイドさんをストーカーしてるのかしら、わよっ?」 

「違う違う! そこの店の人は誰も知らないよ、ホントだよ」

「じゃあ、やっぱり事件の張り込みですか?」

「それも、違う……」

「もしかして探偵さん? 誰かの尾行?」

「だから、違う……」


 モゴモゴと口ごもるピンクシャツのおじさん。気弱なのか、優柔不断で小心者なのか、まったくもうじれったい。まるで昔の僕を見ているようだ。


貴方あなた男でしょ! ハッキリしなさいよ! 一体ここで何をしてるのよっ!」


 あっ、またやっちまった。なんかこう女装してからと言うもの、すぐ変なスイッチが入る。


「いやその怪しいことは何も……」


 不審者に疑われたと思ったのだろう、女の子4人に囲まれて青ざめるおじさん。ちょい可哀想。


「わたくしたち怖くないから、ズバリと本当のことを仰い!」


 あ、一番怖がらせてるのは僕かも。


「わ、分かったよ。分かったからそんなに近づかないでよ……」


 気がつくとおじさん、背後に壁を背負って女子高生に取り囲まれるの図だ。僕は慌てて彼との距離を取った。少し安心したのかおじさんは小さく嘆息して、実はね、と語り始めた。


「日本橋で遊ぼうって、ここで友だちと待ち合わせしてたんだけどさ、急に来られなくなったって。それでどうしようかってずっと迷ってて。ほら、ひとりじゃ入りにくいじゃない……」

「入りにくい、って、風俗?」

「違う違う。喫茶店だよ喫茶店!」


 はあ~ん、そう言うことか。そりゃ入りにくかろう、メイド喫茶。店の中ピンク一色だし、若い人たちばっかりだし、メイドさんきゃぴきゃぴしてるし。おじさんひとりで入るなんて、ハードル棒高跳び世界記録レベルだろう。ってか僕だったら無理だ。だって「お帰りなさいませっご主人さまっ」だよ? 「美味しくなあれっ!」だよ? 顔面真っ赤で茹で蛸だよ、頭のてっぺんからシュッシュッポッポッ吹き出すよ――


「友だち来ないんなら諦めて帰ればいい、わよ?」


 また詰め寄るサリーにおじさんは頭をポリポリ。


「それがね、ちょっと色々……」

「ああもう、じれったいわねっ。だったらわたくしたちが一緒に入ってあげるわよっ!」

「えっ?」

「わたくしたちじゃ何かご不満かしら?」


 あっ、またやっちまった。毎日寝る前と起床後の5分間、欠かさずやってる『クールで高飛車な美少女千歳』のイメージトレーニングの成果がこんなときに!


「ほ、本当にいいんですか?」

「当たり前でしょ、女に二言はないわ。さあ、いらっしゃい」


 言い終わって周りを見た。マナもサリーも微笑みを返してくれた。神愛は笑いを堪えている。

 僕はおじさんをリードしてメイド喫茶の扉を開けた。




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