第1話
第三章 日本橋パラダイス
女の子って大変なんだな。
だって――
土曜日の授業は午前で終わり。
剛勇・花の女子3人衆はみんなでお出かけ、急いで寮に戻りお着替えします。
鏡に映る水色のブラウスに水玉のロングスカート。
「なんてったってフェミニ~ン」とか口ずさみながら神愛が選んでくれた春物コーデ。
確かにフェミニン。もう、自分で言うのも何ですけど、ちょ~可愛い。
でも服が可愛かったら中身だって可愛くなくっちゃ。派手にならないよう薄らお化粧、鏡の前ですましてみたり笑ってみたり。神愛はいつも「見えないところも手を抜いちゃ駄目だよ」って言うけれど、そんなとこまで気が回らないよ。見えないんだからいいじゃない? でも先日、言いつけ破って男物のパンツ穿いてたら見破られて怒られた。どうしてバレたんだろう? 超能力者か、それとも赤外線が見えるのか――
後ろから前から入念にチェック、完璧可愛い千歳ちゃんに変身したらお部屋を出る。
ヒールが付いたシルバーのミュールはキラキラお花の飾りが綺麗だけど、歩きにくいことこの上ない。だけどこれも女の子だったら当たり前。ヒールは脚が綺麗に見えて楽しいじゃない、な~んて神愛は言うけれど僕には修行としか思えない。だけどそんなことを考えてると「修行とか思っちゃダメだよ、カッコイイを楽しまなくっちゃ」って怒られる。どうして僕の心が読めるんだか不思議。女の子は勘が鋭いって言うけれど、最近ホントだなって痛感することばかり――
「お待たせっ!」
階下に降りると玄関でぺちゃくちゃお喋りしてたマナとサリーと愛妹の神愛。僕が最後だったみたい。
「遅くなってごめんなさい」
「ううん、あたし達が早すぎただけ」
いつもマナは庇ってくれる。
「チトセ綺麗だわよ~っ、可愛いわよ~っ!」
スキンシップが激しいサリーに腕を取られる。
「お姉ちゃんっ、ちょっと待って!」
神愛が僕の背中をもぞもぞと――
「値札が付いてるよ!」
ああ、クールでお高い完璧美少女のイメージがあ~。
しかも赤札1980円なり~。
「下ろしたてなのね。すっごく似合ってるわよ」
「ありがとうマナ、じゃ行きましょうか」
ここ数日、マナは僕と手を繋ごうとしてくれない。
左右からサリーと神愛に挟まれて寮を出発。駅からは電車を乗り継ぎ40分、一路、4人は大阪日本橋へ。
秋葉原の代わりにとサリーに約束した日本橋探索。だけどサリーだけじゃなくって神愛もマナもウキウキしてる。ディスカバー、日本のオタクカルチャー!
「今日はたくさんお買い物しようねっ」
「そうだわよっ、楽しみだわよ」
神愛とサリーはお買い物メモを作って準備万端。
神愛のメモには乙女系小説の名前がズラリと並ぶ。コミックスもあるみたいだけど。
「専門店で買うと特典が付いてくるんだよっ!」
特典GETのために貯めといてドカンと買う方針らしい。
一方、サリーのメモは――
「サリーって漢字も書けるんだ、字もすっごい達筆!」
「あ、それお母さんが書いたのわよ。日本のノートパソコンが欲しいって頼まれたのだわよ。中古でいいから安いのをって、だわよ」
日本橋はパソコンショップも多いし、探せば安いのもいっぱいある。こりゃ忙しくなりそうだ。ってか、時間足りるかな?
「はあ~っ」
「どうしたの千歳? 盛大な溜息なんかついて」
「あ、ああ、ちょっとね」
僕もたくさん買い物をしないといけないのだ。それもきっと厄介な――
あれは火曜のことだった。
「えっ、週末みんなで出かけるの?」
来年の学校案内の撮影日程を決めるから、って予定を聞かれた。次の土曜は日本橋に行くというと母は『だったら』と言って。
「買ってきて欲しいものがあるの。あとでリストをメールするから買ってきて。お駄賃ははずむから」
どうせとんでもない物を買わせる気だ、直感でそう感じた。だけど『お駄賃ははずむ』って言葉には抗えなかった。だってお金が欲しいから。僕の小遣いは去年のまま月5000円ポッキリ。寮で暮らすことになったのに変わらない。当然増額を訴えたけど「働きに応じて歩合給」と一方的で無慈悲な通告。んなもん足りるわけない。朝昼晩の食事は付いているけれど、化粧品とか洗剤とか、おやつとか細々した日用品とか、家に居るときよりも断然出費がかさむのだ。
「さては千歳も買い物がい~っぱいあるんでしょ?」
「えっ? マナ、どうして分かったの?」
このことはまだ誰にも言っていないのに。
やっぱり女の子って勘が鋭い――
「ふふっ、分かるわよ、千歳のことならなんだって。じゃあ手分けして買いましょう。あたしは特に用事ないし」
「あ、それはその、大丈夫よ」
「遠慮はダメよ」
でもマナに頼むわけにはいかない。何故ならこの依頼品、危険な香りがするのだ――
目的地に到着すると買い物開始。先ずはサリーのため、パソコンショップを見て回る。
「お母さま、どんな使い方をするの?」
「そうね、ネットで情報見たり動画見たり、あと乙女ゲームしたりだわよ」
気持ちの若いお母さんだ。まあうちの母も似たようなもんだが。
どの店を覗いても似たような品揃え。とある有名メーカの人気品が大量に出ている。大量に出ている、と言うことは安いと言うことだ。需要と供給のバランスが崩れているのだから。
「これがいいわよ。すっごく安いしママも大好きなブランドだわよ」
ノートだったら電池長持ちは重要だ。僕は店の人と交渉して商品の中から電池が弱っていない物を選ばせて貰った。喜ぶサリーを見ていると、こっちも嬉しい。
「いい買い物が出来たわよ~。千歳のお陰だわよ~。お礼のキスだわよ~」
ちゅっ!!
「わっわっ!」
なななな何するんだ――
「あああああたしの千歳に何するの!」
え? マナの顔が何故赤い?
「お礼のキスだわよ?」
「だだだだダメよっ!」
「どうしてわよ?」
「千歳の貞操が減っちゃうでしょ~っ!」
貞操って減るんだ――
「お姉ちゃんモテモテだね。じゃあ次ぎ行きましょうよ」
賑やかな3人。
重いパソコンはお店に預け、いよいよアニメショップ巡りへ繰り出した。