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第10話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「エサ皿は神愛が買っておくからねっ!」

 

 次の朝、千歳が寮母さんに掛け合ってくれて、晴れてなぁ子は剛勇女子寮の一員になりました。サリサリが千歳に「可愛いわよ可愛いわよ飼おうわよ」って迫ったんだって。行動派だわ、サリサリ。


 名前は「なぁ子」になりました。

神愛ちゃんは『越後屋えちごやネコ助』って呼んでいたらしいんですけど、4対0の多数決です。全会一致です。でも、どうして越後屋?


「マナマナ、疲れてるの?」


 午後一番は体育。

 女子更衣室へ向かう途中、あくびをみ殺しているところを、サリサリにチェックされてしまいました。


「あ、うん、ちょっと昨晩は眠れなくって――」


 寝不足。原因は毛がふさふさの可愛いあの子です。え、なぁ子かって? 残念でした、違いま~す。

 その子は千歳の部屋のタンスの上、ちょこんとお澄ましして座っていた可愛いテディベア。水色のエプロンには英語でChitoseの文字と、千歳の生年月日が刺繍ししゅうされていました。え? 千歳は歳を誤魔化していたのかって? 違います。そんなことじゃないんです。


 千歳の部屋のテディちゃん、実は同じ子があたしの家にもいるんです。同じメーカーの、同じく出産祝いに貰ったもの。

 しかし、ひとつだけ、でも決定的に違うところがあります。

 あたしのテディちゃんのエプロンはピンク色、なんです――


「どうしたのマナ? 更衣室はこっちよ」

「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」


 慌てて笑みを作ると千歳の後に続きます。


「わあっ、更衣室広いわよ! ロッカーも新品だわよっ!」


 はしゃぐサリサリ。その気持ち、よく分かります。だってあたしも同じ反応しちゃったもん。部屋にはロッカーが4列。右の通路を進むと真ん中付近があたしのロッカー。


「人数少ないからロッカーは専用で使ってるの。鍵も使えるしね。サリサリはあたしのふたつ隣ね」

「分かったわよ」

「じゃあまた後で」


 あたし達の会話をよそに千歳は右の通路へ。


「ねえマナマナ、チトセはどうしてあっちなのわよ?」

「どうせなら広々と使いましょう、って」

「こっち来ればいいのに、わよ――」


あたしも最初そう言いました。先生から渡された鍵が離れ離れだったから変えて貰おうともしました。でも千歳は「せっかくだし広々使いましょうよ」って。千歳はホントに水くさい。あたしのこと嫌いなのかも。そんな風に思ったんだけど――


「アタイ、チトセを呼んでくる、わよ」

「待って!」


 今にも駆け出しそうなサリサリを呼び止めました。


「千歳の場所はこのすぐ裏だからお喋りは出来るのよ。ねえ、千歳?」

「そうよ、サリー」


 声はするけども姿は見えず、やっぱり不満げなサリサリ。あたしは上着を脱ぎながら早く着替えようと促しました。


「仕方ないわよ、分かったわよ」


 ロッカーを開けると豪快に上を脱ぎ始めたサリサリ。バババ~ン、はち切れんばかりのおっぱいです。でっかいと言うより、豪快にババババ~ン。


「マナマナってば何を見てるのわよっ!」

「サリサリのばばばあ~ん!」

「もうっ。マナマナだってとってもフェミニンですっごくラブリィだわよっ」

「きゃっ! 掴まないでよおっ!」


 ちっさいんだから、って声は飲み込みました。だって千歳が聞いてるし。


「ひゃあっ! もっと優しくしてわよ!」


 反撃したけどやっぱりでっかい。ホントに同じ歳?


「やっぱりお肉ばっかり食べてるとこうなるの?」

「イモばっかりだわよ~っ」


 千歳、ロッカーの裏側でどんな顔をしてるのかしら?


「ねえ、チトセもあとで揉ませてよわよっ! マナマナと比べたいわよっ!」

「いやよ、恥ずかしい!」

「とか何とか言っちゃってっ! 着替えたらそっち行くわよっ!」


 揉む気満々のサリサリ。


「来ないでっ!」

「行くわよ~っ」

「あのねサリサリ、千歳は自分に触れる敵は条件反射で投げ飛ばしちゃうのよ。護身術の技が染みついちゃってるんだって。そうよね、千歳?」

「え、あ、そ…… そうね。サリーも投げ飛ばしちゃうかも」

「ひえ~っ、怖いわよ~っ!」


 ブルブル震えあがるサリサリに、冗談だよってクスクス笑う。ごめんなさい千歳。千歳がとっても優しいこと、あたしが一番知ってるから。そう言えばサリサリが言っていた、首輪もしてないのに人懐っこいなぁ子は、捨てネコかも知れないねって話をしたら、千歳は涙ぐんでたって。


「じゃあ、わたくし先に出てるわね!」


 大急ぎで着替えたのでしょう、声だけ残して千歳は更衣室を出て行きます。


「あれっ? チトセこっち来ないの? ほらっ、マナマナの白いブラが可愛いわよっ、チトセっ…… って逃げたわよっ」

「千歳はシャイなのよ。恥ずかしがり屋さん。分かってあげて」


 ふたりで着替えた時もそうでした。ロッカーの向こうをあたしが覗いたら、真っ赤な顔をして「きゃあ~っ!」って胸を隠すんだもの――



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