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第9話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 大浴場で洗いっこをして温まって、部屋に戻ってちょっとほっこり落ち着いて。

 あたし、遊里眞名美は散歩も兼ねて近くのコンビニへ出かけました。


 お風呂で見たサリサリのおっぱいは大迫力。羨ましいを通り越して憧れちゃう。ぐすん。

 それにしても食べ過ぎちゃった、お寿司とピザ。千歳も神愛ちゃんもサリサリもよく食べるんだもん、釣られちゃった。


 コンビニにはちゃんと用事があります。買いたい物があります。その名はネコ缶。ホントは学校帰りに買おうと思ったんですけど、サリサリが転校してきて一緒だったから、途中寄ることが出来なかったんです。


(なぁ子は元気かな?)


 昨日の夜、初めて出会った仔猫のなぁ子。最初は彼女(もしかしたら「彼」かも)をちょっと恨みました。だって彼女の所為せいで千歳には重大な秘密があるって聞いてしまったから。昨晩は眠れなかった。無理に目を閉じても時計の針は進まないし、胸が締め付けられるし。でもね、一晩考えて分かりました。例えそれがどんなに恐ろしい秘密であったとしても、あたしの気持ちは変わらないって。あたしは千歳が大好きだって。想像したんです、もしも千歳が悪魔の化身だったら? もしもドラゴンの成り代わりであったら? 大丈夫、あたしは喜んで千歳に全て捧げるでしょう。それくらいあたしの気持ちは盲目なんです――


 って、夜中だったからぶっ飛んだ事を考えちゃったけど、それが正直な気持ちです。だいたい、そんなに恐ろしい秘密なんてあるはずないですし、ね。


 だけど今日、千歳の部屋のあの子を見て、あたしの胸がまた狂い始めました。

 あたしは千歳が大好きです。何があっても大好きです。

 だけど千歳は?

 千歳はどう思っているのでしょう。

 あたしなんか厄介なお荷物なんじゃ――


 着きましたコンビニ、店員さんの元気な声を聞きながら自動ドアに吸い込まれます。

 ネコ缶198円、あたしの食べ物より高かったりしますね、これ。

 でも、取りあえずふたつ買っておきましょう。

 ここは剛勇の生徒がよく利用するコンビニですけど、時計はすでに9時を過ぎ。部活帰りの生徒の姿もありません――


「だあ~れだっわよっ!」

「うわあっ!」


 ビックリ!

 突然背後から目隠しされて。でも、こんなヘンな語尾な女の子は、日本広しといえども彼女しかいません。


「サリサリい?」

「あったり~っ」

「何してるのよ?」

「アタイはお水を買いにわよ。マナマナはわよ?」

「キャットフード」

「わあっ、ネコ真っ逆さまに来るわよっ!」

「落下させないで」


 レジを済ませ、一緒に店を出ました。


 クルマの音、すれ違うヘッドライト、夜風が気持ちいい。ふたりはちょっと遠回りをしてゆっくり歩きました。


「アタイね、マナマナとチトセとカンナが一緒で良かった、わよ」


 お母さんの故郷である日本への留学をずっと希望していたと言うサリサリ。だけど家はそんなに裕福ではなく、挫折し掛かっていたところ、剛勇が破格のオファーをしてきたのだとか。だから女子が極端に少ないことにも目を瞑ってやってきたという。

「マナマナとチトセって仲良しわよ?」

「あたしはチトセが大好きよ。すっごい美人でしょ?」

「そうわよ! ドキドキしちゃうくらいわよっ!」

「それにビックリするくらい強いのよ」

「ほんとお~っわよ~っ!」


 いけない、あたし、ライバル作ってる?

 でも、千歳の英雄談は喋らずにはいられない。

 あたしを庇って強面の熊男を敵に回し、襲いかかる熊男を華麗に投げ飛ばし――


「凄いのねわよ、まるで白馬に乗った美人王子さまわよ」


 ふたりの意見は一致しました。

 サリサリは「千歳を誘惑しまくっちゃうわよ」だって。

 まったく彼女は積極的!

 あたしには誘惑なんて無理。緊張しちゃうから――


 信号が青になって、ふたりでぺちゃくちゃしながら横断歩道を正しく渡って。

 あっという間に寮はすぐ目の前。



 なあ~っ!



「なぁ子!」

 

 女子寮の前、ちょこんと座ってこっちを見てる真っ白な仔猫。

 駆け寄るとむこうも寄ってくる。小さくてやせっぽっちななぁ子。


「はい、今日はご飯があるわよ」


 背後からサリサリも覗き込む。


「何なに? わあ~っ、可愛いネコわよ」

「そうなの。捨て猫みたい、なんだけど」


 白いビニールの袋からネコ缶を取り出す。



 なあ~ん



 ここは寮の外。

 ちょっと考えて、なぁ子を連れて寮の中庭へと入りました。

 

 なぁ~ん


(寮母さん、勝手なことしてごめんなさい)


 窓の下で、ネコ缶をチラシの上に出しました。

 昨日、神愛ちゃんが顔を出していた、あの窓の下。

 だけど今日は誰もいません。常夜灯の光が零れるだけです。



 なぁん なぁん なぁ~ん



「マナマナは猫が好きなのかしらん?」

「犬も好きよ。あたしって両刀遣いだから」

「両刀遣い? 男でも女でも? 少年だって中年だって?」

「うふふふふ…… そうかも知れないわね」


 ネコ缶に夢中のなぁ子の頭を撫でながらサリサリもハハハッと笑いました。


「猫だって犬だって、男だって女だって、甘口だって辛口だって、好きなのは好きだわよっ」


 なぁ子は美味しい美味しいって、チラシまで綺麗に舐めてます。お腹空いてたんだろうな。


「昨日はありがとね、なぁ子! また明日ね」

「このネコ、なぁ子って名前なのわよ?」

「あははっ、あたしが勝手に付けただけよ」

「素敵な名前だわよ、なぁ子!」


 ふたりでなぁ子に手を振ると、なぁ子も「なあ~ん」って返事してくれました。



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