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第6話

 文化部は旧校舎に集結している。

 でも、旧校舎ってどっちだったっけ?


「こっちの方が近道よ」


 そんな僕をリードしてマナが道先案内をしてくれた。


「ふたりは部活どこかしらわよ? 古典部? 文芸部? 情報処理部?」


 道すがら僕たちがどの部にも属してないことを明かすと、あり得ない、帰宅部を含むと入部率は100%のはずだと言い切られた。彼女、本気で帰宅部なる部活が存在すると思っているっぽい。


「さあ、運命の瞬間だわよっ!」


 旧校舎の2階、張り切って入ったのはゲーム同好会。

 ノックをしてドアを開けると、モニターに向かい美少女ゲームで盛り上がる野郎ども5人。女子3人が入っても恥じることも隠すこともせず、めいめいパソコンでカラフルな女の子を攻略しまくっている。


「ど~して赤毛を攻略するのわよ? やっぱりブロンドが一番だわよ、ブロンドが一番だわよっ!」


 ブロンドのツインテを振り乱して不服を叫ぶサリー。


「イヤだ! スズカちゃんは俺の嫁!」


 しかし、野郎どもの信念は揺るがない。そう言えばゲーム同好会は女子勧誘に全く積極的ではなかったけど、その理由が今、分かった気がする。こいつら、リアル女子には全く興味ないんだ。


「瑞穂ちゃんも可愛かったけど、ひそかちゃん可愛い、でへへへっ」

「あの~、部長は?」


 話をしようと声を掛けるけど。


天道てんどう? 席はそこ」


 素っ気ない返事。指の先、見るとちょこんとペンギンが座っている。


「家帰った。イベントあるんだって。学校じゃネトゲできないから」

「チトセッ、次行きましょわよ、次!」


 と言うわけであっさり退散。

 次に尋ねたのは漫画研究部、さっきと違い、彼らは僕たちを大歓迎してくれた。


「ささ、サリーちゃんも座って座って。遊里さんと姉さまもコーヒーでいいですか?」

「おい谷岡たにおか、女子だからって特別扱いは……」

「何だよ石井いしい、これは俺のポケットマネーだ。おい猿吉、自販機まで全力疾走だ!」

「がってん承知の助!」


 彼らは自作の同人誌や描きかけ原稿を机に広げて見せてくれた。サラサラと僕たちの似顔絵も描いてくれた。かなり簡略化されているけど見事に特徴を掴んでて笑っちゃうくらい似ていた。さすがは漫研。


「サリーさんのブロンドって地毛だよね?」

「禿げじゃないわよ」


 漫研の連中はサリーを取り囲んで質問攻めを開始する。


「やっぱ本物は違うね、すっごく綺麗!」

「ありがとうだわよ」

「鼻たか~い! エキゾチックう!」

「ハーフって美人多いよね~っ」

「ひえ~っ、足長げえ~ 俺の方が高いのに~」


 みんなでる愛でる。しかしサリーは苦笑いを繰り返すだけで全然嬉しそうじゃない。美人に美人と言ったって、言われ慣れてるから嬉しくないのだろうか。ま、僕は別の理由で嬉しくないけど――


「イギリスって女王陛下の国だもんな~。極東のイエロー・モンキーとは違うなあ」

「同じホモサピエンスだわよ」

「なんかさ~、気高くロイヤル~、って感じだし~」

「庶民だわよ、パンピーだわよっ!」


 語気を強めたサリー、褒め殺す漫研の部長・谷岡を軽く睨んだ。

「日本人だって、チトセやマナマナだってすっごく綺麗だわよ!」

「あ、あ、そうだな。姉さまもクイーンだもんね、学園の女王様だもんね~っ」

「谷岡さん、あなた、死にたいのかしら?」

「じょ、冗談ですう~っ!」


 ホントに絞めたろか、と思ったけどポケットマネーで缶コーヒー奢ってくれたし、それに僕は可愛い女の子。ぐっと堪える。

 そんな僕にサリーが柔らかに微笑んだ。


「チトセはホントに綺麗だわよん。こんなに美しい人、イギリスでも見たことないわよ」


 てへっ。

 イケメンって言われた方が嬉しいはず、なのだけど、最近ちょっと照れちゃう。

 もう、僕の人生終わったかも――



 結局、漫研には30分ほどお邪魔した。

 みんなにお礼を言って漫研を出るとマナがサリーを覗き込む。


「どうだった?」

「やっぱりここにも入らないわよ」


 無表情でそう告げた彼女。何が不満だったのだろうか、結構和気藹々だったのに。僕が理由を聞こうとしたときだった。


「部活は決まったかい?」


 振り返ると癖っ毛の小柄な男子。


「いいえ。入るかどうかも決めてませんし」


 どこかの部のお誘いかな?

 と、警戒していると彼は笑いながら言う。


「あ、勧誘じゃないからね。ま、生徒会を手伝ってくれるんなら大歓迎だけど。僕は築城ついきってんだ」


 2年生の彼は生徒会の副会長なんだとか。


「女子は君たちだけだから大変だね。ま、生徒会に出来ることがあったら何でも言ってよ。力になるから、さ」


 人懐っこそうな笑顔には青春の証・ニキビがいっぱい。間違ってもイケメンじゃないけれど、優しげな築城先輩はフレンドリーな物言いで話を続ける。


「何しろ君たち女子は、僕ら剛勇の希望の星だからね」

「希望の星?」

「そうだよ、僕らの希望の星。気付いてないかい?」


 彼は廊下から窓の外に視線を向けた。そこでは陸上部とラグビー部が仲良く練習中。どこからか聞こえるトランペットは、たぶん吹奏楽部。


「今年から共学になっただろ。みんな楽しみにしてたんだよ、女子が来るんだって。ラグビー部の石清水いわしみずもサッカー部の染岡そめおかも女子マネージャーゲットだぜって勝手に盛り上がってたし、テニス部は女子ユニフォームのデザインどうしようって騒いでた。落研の梶浦かじうらなんて女子用の屋号やごうを決めたんだって紅白饅頭まで作って報告に来たんだよ。単なる下心ばかりじゃなくって、みんな心から楽しみにしていたんだよ、君たち女子が来るのを――」


 先輩は窓の外から視線を戻す。


「落研女子の屋号は「うさぎ亭」なんだって。名乗ってやる気はないかい?」


 苦笑しながら首を横に振ると築城先輩も笑った。


「残念! でもそう言うことなんだ希望の星って。先週、姉小路さんと遊里さんが大変な目に遭ったことは聞いてるよ。何せ女子はふたりだけだったもんね。みんなの期待が全部のし掛かってきた訳だ。だけど、あいつらの気持ちも分かって欲しいんだ」


 少しだけでいいからさ、と右手を挙げ去って行く。そんな築城先輩の後ろ姿が見えなくなるとマナがポツリ呟いた。


「うさぎ亭って屋号、かわいいね」

 


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