第1話
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第1章 ふたりは恋人?
桜咲く校庭、僕・姉小路千歳は遊里眞名美と一緒に下校していた。
「ねえねえ姉小路さん、俺と付き合わない?」
突然、木陰から現れたイケメン男子は、これ見よがしにブロンドの髪を掻き上げた。
彼は同クラの西園寺。小麦色の肌にニカッと白い歯、スラリ背が高くて脚も長いし手も長い、見事なまでのモデル体型。おまけに名家のお坊ちゃまときたもんだ。
そんなウルトラハイスペック西園寺の顔をじいっと観察していると、彼はあからさまに赤面した。
「姉小路さんってすごく綺麗だよね。彼氏とか、いる?」
「当然、いませんわ!」
開き直って自慢した。いるわけない、男なんか!
しかし彼は何を勘違いしたのか、ぱああっ、とだらしない笑顔になる。
「よかった! じゃ、俺の彼女になってよ!」
「はああっ? どうして?」
「長くさらさらな黒髪、すらり抜群のスタイル、それに涼しげな切れ長の瞳、君みたいな美女には俺のようなイケメンが似合うのさ。だから――」
片膝着いて求愛ポーズの西園寺。
「幸せになろうぜ! (うひょっ、決まったっ!)」
お~い、全部聞こえてますよ~、おナルシストちゃん。でも残念でした。
「お断りよ。誰があなたみたいな男と付き合うもんですか。生まれ変わって出直してらっしゃい?」
悪いな西園寺。こういうことはハッキリ言った方がいい、と本で読んだ通りにキッパリ断ってあげる。
「はえっ?」
キョトンとアホ面の西園寺。
まだ分からないのか?
「あなたなんか嫌いだって言ってるの!」
高い鼻にハッキリした二重、みるみるそのイケメンを強ばらせた西園寺はガクンと肩を落とし、虚脱し、ついには両手をついて崩れ落ちてしまった。
「ど、どうして……」
「わたくし、イケメンって大嫌いなの!」
「そ、そんなあ~っ!」
眼下に縋る彼をシカトして、足早にその場を立ち去った。
よく晴れた空、カツカツと堅いコンクリートを歩きながら不思議な罪悪感を感じる。
「行きましょっ、マナ」
「えっ、はいっ」
先で待っていてくれた遊里眞名美さんは大きな瞳を見開いて不思議そうに僕を見た。
「千歳はイケメンが嫌い、なの?」
「あ、あははは……」
当然でしょう。
だって――
僕・姉小路千歳は15歳、ピカピカの高校一年生。
勘違いがないように、最初にキチンと断っておきましょう。
僕は男なんかに興味はない。
僕は健全な高校生だ。
健全な若者の肉体には、不健全な欲望が宿るのだ!
だからモテたい。
女子にモテたい。
イケメンなんてお呼びじゃない。
しかしここ、剛勇学園高校の栄えある初代女子生徒はたったのふたり。
マナこと遊里眞名美と、この僕・姉小路千歳。
「女子だぞ女子!」
「すっげー美人じゃん」
「レベル高っけ~っ!」
「けど、制服のスカート、長過ぎね?」
授業初日。
下校する生徒が溢れる校庭で、ふたりは熱い視線を浴び続ける。
濃紺のスカートは奥床しく膝下まで。
胸のタイはきっちり締めて、背筋を伸ばして凛と歩く。
「千歳って罪な女ね~っ!」
「違うわ、みんなはマナを見てるのよ!」
目が合う男子に小さく会釈し、はにかみ歩く遊里眞名美。
聞こえる声をツンと冷たく無視して歩く、僕・姉小路千歳。
「あのねあのね、昼も話したけど西園寺くんとは同じ中学だったんだ。彼、すっごくモテたんだよ。彼にフラれた人はたくさん知ってるけど、彼を振った子は初めてだよ」
言いながら僕の腕を取るマナ。
「しかもあんなにバッサリ切り捨てるなんて、千歳って格好いいっ!」
「もう、マナったら――」
華奢なのに腕に感じるむぎゅっと柔らかな感触、って、近いよマナ、近いってば!
「でもね、あたしに遠慮なんていらないからね」
「遠慮なんかしてないわ。本当にイケメンなんて嫌いなだけ……」
やばっ、心臓がバクバクしてきた!
肩に届く栗色の髪、ほっそり長く白い首筋、うりざねの小顔に大きな瞳が印象的で、彼女いない歴15年の純情可憐な僕ちゃんは緊張が尋常じゃない。しかも、女の子ってこんなに優しい匂いがするんだ!
「放課後だけでバッサバッサと3人斬りだもんね!」
「申し訳ないけど、ここの男子には興味ないの」
「もしかして、彼氏がいるとか?」
「いないいない。いるわけないじゃない……」
ごめんね、マナ。
だけど僕は――
姫様カットにシリコン入りのBカップ。清楚なセーラー服に恥じないようにと妹が特訓してくれた女の子らしい言葉遣いと身のこなし。だけど僕は男の娘。
けれども、それは学園のため。
神に誓って私利私欲は1ミリもない。
僕の使命はマナと仲良くなって、そしてこの学園に日本中の女の子が憧れる、乙女の園を創りあげることなのだから――
お読み戴きありがとうございます。(^^)
少しでも楽しんで貰えるように頑張ります。
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