第4話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
寮に戻っても光零れる食堂には寄らず、逃げるように2階への階段を登りました。真っ白い壁紙、新築の匂い。殺風景な部屋に戻ると窓を開け、外の様子を覗きます。あたしの部屋からは中庭が眼下に見えます。なぁ子が嬉しそうな声で鳴いています。暗くて分かりませんけど、きっと何か食べてるのでしょうね。
でも――――
どういうこと?
遊里さんなら分かってくれる、とか、バレたら使命が終わりだとか、今までの努力だとか、寮から追い出されるとか――
剛勇を女子に人気の学園に改革する――
千歳の使命は聞きました。それが学園長命令であることも、神愛ちゃんも同じ使命だと言うことも。だけど、あたしに隠し事があるなんて聞いてません! まあ、聞いちゃったら隠し事にならないんですけど。
人間誰しも秘密くらい持ってます。ひとつやふたつあって当然、ない方がおかしい。まして千歳とは出会って1週間も経ってません。知らないことばかりで当然です。しかし、バレたら寮から追い出される重大なことって――
今夜は三日月です。少し赤みがかって遠く山の上から黙ってこっちを見ています。
隠しごと――
あたし、ひとつ気になっていることがあります。
姉小路姉妹と学園長との関係です。
お父さんが学園長と知り合いだと神愛ちゃんは言ってました。そして、この寮で生活させて貰う代わりに剛勇の変革を請け負っているって。だけどふたりと学園長の間柄はそうじゃない気がするんです。もっと親しい感じがするんです。会話の印象もそうですし、なにより似てるんです、顔が、纏う雰囲気が。神愛ちゃんと学園長、まるで親子のよう。だからあたしは疑っています、学園長と姉小路姉妹って実は親子だとか、親戚だとか、そんな関係じゃないのかって。
だけど、それがさっき聞いてしまった『隠し事』なのでしょうか?
いいえ、きっと違います。
だって、そんなこと隠す必要ないと思うんです。
バレたらインパクトが大きすぎる、って神愛ちゃんは言いました。あたしが怒るって言いました。でも、そんなことであたし怒りませんし、怒る理由もありません。
「はあ~っ」
気がつくとなぁ子の姿がありません。鳴き声も聞こえなくなりました。どこかに行っちゃったのでしょうか? ひどいよなぁ子。でも、今度会ったときのために、明日ネコ缶を買ってこよう――。
(千歳があたしに隠し事、それもあたしが怒るようなこと)
そんなことがあるでしょうか。あたしが千歳に怒るって、どんなこと? 大好きな千歳になら何をされたって、きっとあたしは怒りません。いいえ、きっとじゃなくって絶対に怒りません。あんなことだって、こんなことだって…… きゃあっ! あたしったら!
隠し事――
次から次へと色んな想像が浮かんでは消えます。
スマホで『姉小路千歳』って検索もしてみました。だけど何の情報もありません。
分かってます、人のことを隠れてあれこれ詮索するのはいいことじゃありません。
けれども千歳に聞くことも出来ません。聞いても教えてくれないでしょうし、それに、もしバレたら千歳は寮を追い出されるって言ってました。と言うことは、この秘密を知ったが最後、あたしは千歳と離ればなれ――
(そんなのイヤ! 絶対にイヤ!)
聞かなきゃ良かった。
忘れよう。
そう、忘れちゃえばいいのよ!
でも――
忘れようってすればするほど、次々とヘンな思考を繰り返してしまう――
ねえ、なぁ子。
どうしてあたしを誘ったの?
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