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第2話

「あらあら、盛り上がっているようね」


 さっぱりしたショートヘアにグレーのスーツを纏う中年女性が歩み寄ってきます。

 ――って、このお方は?!


「かあっ…… 学園長!」


 彼女を見た千歳はティーポットを置いて立ち上がりました。あたしは神愛ちゃんとの愛あるハグを慌てて解除しました。


「――学園長」

「学園長先生!」

「ごきげんよう遊里さん、千歳ちゃん、それに神愛ちゃん」


 笑顔の北丘学園長。いかにもデキる女っぽい銀縁のメガネ、整ったその顔立ちはどこか神愛ちゃんを彷彿ほうふつとさせます。そんな学園長はあたしにニコリと微笑みました。


「剛勇に来てくれてありがとう。女子寮はいかがかしら?」

「はい、凄くいいところです。部屋も広くて綺麗だし、学校にも近いですし」


 学園長とは家で何度か会ったことがあります。いつも美味しいお菓子を持ってきてくれて、その場で開けて一緒にいただきました。


「それはよかったわ。ところで千歳さん」


 学園長先生は急に表情を厳しくします。


「知っているかしら、最新の高校人気ランキング」


 彼女は手にしたカバンから大きいタブレットを取り出し、テーブルに置きました。

 そこにはさっき見た、剛勇学園の惨憺たる数字。


「知ってます」


 突きつけられた画面を一瞥すると千歳は不機嫌に言い捨てました。


「知っているのなら早く何とかなさい! 分かってるでしょ、あなたの使命」

「分かってます! しかしこれはわたくしの責任じゃ……」

「責任? そんなのどうでもいいの。欲しいのは結果だけ。来年女生徒100人入学させなかったら、分かってるわよね、千歳ちゃん?」

「横暴ですっ、権力の暴力ですっ!」

「ふっ、いいの? あなたの大切なものが全部リサイクルショップに売り飛ばされても――」

「っ…… 分かりました、やります、やればいいんですよねっ!」


 使命?

 責任?


 握りこぶしを震わせる千歳。千歳が神愛ちゃんのために剛勇を変革しようとしていることは聞きました。しかし今、学園長先生はそれを千歳の『使命』だと言ったのです。

 いったい千歳と学園長先生って、どんな関係なのでしょう?

 あたしは何度も菓子折を持ってきて貰って、必死に乞われて、それこそ三拝九拝されて入学しました。千歳も一緒なのかなって思ってましたが、どうやら違うみたい。

 今のやりとりを聞くと、千歳はとても弱い立場で、学園長先生には絶対逆らえない、そんな関係に思えます。けれども何というか、ふたりはとても親しい間柄にも感じるんです。


「分かればいいわ。やっぱり女子がふたりって言うのは寂しいでしょうし。ねえ遊里さん」

「いえ、あたしは全然。だって姉小路さんが仲良くしてくれますし」

「あらまあ、ラブラブじゃないの、千歳ちゃん?」

「かっ、学園長!」


 千歳ったら顔が真っ赤。かわいいっ!


「遊里さんって可愛いものね」


 ハッと見上げると学園長先生は満面笑みでご満悦なご様子。やおら彼女は手にしたバックから赤い財布を取り出すと、テーブルに福沢諭吉を叩き置きました。


「今夜は寮母さんお休みなのよ、みんなで食べてらっしゃい。お釣りはいらないから」


 悠然と去って行く学園長先生。

 彼女の姿が見えなくなると、神愛ちゃんは喜びを爆発させました。


「やったねお姉ちゃん! さあ、何食べよっか?」

「でも、そんな大金、貰っていいの?」


 あたしは心配になって尋ねますが、千歳も気にする風もなく福沢諭吉を手にすると、サクッと財布に突っ込みました。けど一万円ですよ、一万円!


「あのね眞名美先輩、あの人は神愛たちの保護者みたいな人だから、気にしないで」


 保護者みたいな人?

 何となくですけど、保護者みたい、じゃなくって保護者そのものじゃないのかなって感じました。でも口には出せません。そんなこと軽率に言っちゃいけないものね。


「で、何食べる? 焼き肉とか、どう?」


 神愛ちゃん、もう浮き足立ってます。


「マナは何か食べたいものある?」

「あたしは何でもいいですよ……」

「じゃあ、焼き肉に行きましょうよ! ね、お姉ちゃん。食べ放題にしようよ! やっぱ肉だよ肉」

「でいいかしら?」


 そして1時間後。

 あたしたち3人は駅近くの焼き肉屋さんへと歩いていました。

 あたしと神愛ちゃんは仲良く手を繋いで、千歳はあたしたちの少し後ろを。


「お姉ちゃんも手を繋ごうよ!」


 振り返りふたりが手を伸ばすと、神愛ちゃんの手を取った千歳。

 千歳ってば、やっぱりあたしのこと、好きじゃないのかな――




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