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第14話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うわあっ、かわいいお部屋!」


 真っ白な壁紙にピンクで統一されたベッド。

 カレンダーの可愛いうさぎさんがキュンとこっちを向いて。

 本棚には神愛が集めた少女コミックスがびっしり並ぶ――


 ここは剛勇学園女子寮、2階北側にある僕の部屋。

 10畳ほどの空間は乙女色に溢れている。

 神愛の写真は恥ずかしすぎて隠しちゃったし、タンスの上のぬいぐるみもちょっと奥目に控えているけど、それでもどこからどう見ても、完全無欠に女の子のお部屋。


「こんなに可愛らしいお部屋のお姫さまに向かって、ホント、男って粗暴よね!」

「ははっ、そうね……」


 あのあと――

 大山おおやまとかいう柔道部の熊男が逃げ去ると、残った男子たちが僕たちを気遣ってくれた。最後に泣いちゃったからな、大丈夫かってみんなが心配してくれた。

 僕が笑顔を見せると今度は握手攻めにあった。みんなに「あねさま」って呼ばれたけど、ちょっとうるっときてたから否定はしなかった。聞けばあの熊男はみんなの嫌われ者らしい。独りよがりですぐに怒って暴力を振るって、しかも強い。学園屈指のトラブルメーカー。落研メガネ君や科学部白衣くんはもとより、巨漢のラガーマンでさえも煮え湯を飲まされたことがあると言う。そんな彼を2度も投げ飛ばした僕はヒーローならぬマジカルヒロイン扱いされた。みんな朝アニメの大きなお友達なのだろうか? 帰り道、お供しますと犬、キジ、猿まで現れた。吉備団子きびだんごはないわよと言っても離れないので、女子寮に付いてくる気? と睨んだらやっと諦めてくれた――


「ねえ、どうして一緒にマリアナに行ってくれないの? 千歳だって怖かったでしょ、あの熊男。また襲ってくるかもよ。やっぱり男ばかりの学園に女がふたりって無茶よ。だから一緒に行こうよ」


 ホントはね、女はあなただけなんですよ――

 ――な~んて言えるわけもなく。


 寮に来る間にもマナに散々誘われた。一緒に剛勇をやめようって。マリアナ女子に行こうって。だけど男である僕がいけるはずもなく、かといって『寮生だから』ではマナは納得してくれない。


「どうしたの千歳。マリアナ女子は嫌い?」

「あ、だってほら、ここって広くて綺麗でしょ? 寮母さんのご飯だって美味しいし、何より寮費が安いのよ」

「あたしと一緒じゃ、いや?」

「そんなわけないでしょ!」


 思わず声が大きくなる。

 一瞬驚いたマナは、だけどすぐに優しい笑顔に変わる。


「じゃあ一緒に行こうよ! 寮費は交渉して貰うから。千歳だったら特待もアリかもよ?」

「でも……」

「あたしは千歳と一緒じゃないとイヤよ、絶対にイヤ!」

「…………」



 トントン



 返答に窮していると、妹の神愛が入ってきた。


「あっ、お姉ちゃんのお友達?」


 わざとらしい。

 神愛の部屋は隣だし、どうせさっきから聞き耳を立ててたんだろ?

そうとは知らないマナ、椅子から立ち上がると、神愛に自己紹介をした。


「はじめまして、遊里眞名美です」

「姉小路神愛ですっ。中3ですっ。お姉ちゃんがいつもお世話になってますっ」

「あれっ、剛勇に中学って、あったっけ?」


 マナの疑問に神愛が答える。


「あ、それはですね。実は神愛、来年剛勇に入学することを条件にお姉ちゃんと一緒に暮らしているんです。父が剛勇の学園長と知り合いで、それで来年の入学を条件に姉妹で一緒に住んでまして」

「ねえ、千歳のお家ってどこなの?」

「あっ、近いんですよ。でもお姉ちゃんは理由あって帰れないんです。父も母もお姉ちゃんに向かって『お前はわたしらの娘じゃない』って言って、お姉ちゃん、当面帰れないんです。でもお姉ちゃんは悪くない! 少しも悪くない! だから神愛もお姉ちゃんと一緒に出たんです……」


 僕をが答えるより早く、神愛がペラペラ喋る喋る!

 ってか、鬼気迫る迫真の演技。よくこんなデタラメがスラスラ出てくるな。母さん譲りと言うか、母さん超えてる。いや、よく考えるとウソはついてないかも、僕がお姉ちゃん、ってところ以外は――


「深い事情があったのね。ごめんね千歳、あたしったら、自分の都合ばっかり押しつけて……」

「いいえ、あんな目に遭ったんだもの、当然よ。けれど、だからわたくし行けないの。短かったけれど、ありがとうね、マナ――」


 終わった。

 マナはマリアナ女子へ、そして僕のミッションは失敗。

 でも、僕は感謝している。

 彼女は僕に勇気をくれた、元気をくれた。それなのに僕は守り切れなかった――


「何言ってるの!」


 声を荒げたのはマナだった。


「あたし、やめない! 千歳を残してあたしだけ辞めるなんてできない! 千歳はあたしのために体を張ってくれた。命がけで戦ってくれた。それなのにひとりだけ逃げるなんて、あたしはそんな女じゃない!」

「だけどマナ――」

「千歳が行かないんならあたしも行かない。千歳と一緒なの! 最後まで一緒なのっ! ねえ、いいでしょ?」


 その真剣な眼差しが僕の心を突き刺す。


「良かったね、お姉ちゃん。眞名美さんと仲良くしなきゃだねっ――」


 神愛、お前って母さん以上の策士だな――


「これからもお姉ちゃんをよろしくお願いします」

「こちらこそ、神愛ちゃん、千歳!」

「いいの? 本当に――」


 言葉がかすれる。

 いけない、まただ。

 また悪い癖が出た。


「もう千歳ったら、また?」


 頬に触れた彼女の白いハンカチは、優しい石鹸せっけんの匂いがした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 第一章  完


【あとがき】


 はじめまして、遊里眞名美ですっ。

 第一章はいかがでしたか?


 どんな一流のモデルも女優もかすんでしまうほどに美しい千歳。あたしなんか霞みすぎて引き立て役にもなれないでしょうが、彼女はとっても優しいんです。だから千歳と一緒だととっても誇らしい。まあ学校に女子はふたりだけだから仲良くしてくれるのでしょうか。


 でも、そんな千歳には何か秘密がありそうですよね。

 妹の神愛ちゃんの話も分かったようで分かりませんし――

 でもね、ひとつハッキリ言えるのは、千歳はあたしのために体を張ってくれた。あたしのために何度も泣いてくれた。もう、可愛い! 大好き! ギュッて抱きしめてチュってキスしたい!

 そんな千歳に男子諸君はイチコロ。でもね、残念でした。千歳はあたしの恋人なんだから。読者の皆さんも千歳でハアハアしちゃダメですよ!


 さて、次章。


 千歳と一緒に剛勇で頑張る決心をしたあたしは、両親に掛け合って剛勇の女子寮に入ることにしました。だって学校に近いし、綺麗でお部屋も広いし、何より千歳も一緒だし。

 でも、そんなあたしに千歳はどこか水くさいんです。

 あたしのどこが嫌いなのかな? それとも千歳の性格なのかな?

 寮には学園長先生も現れて、あたしが持つ千歳への謎がより深まって――


 次章・千歳の秘密とテディベア(仮) も是非お楽しみに。

 ごく普通の女の子代表、遊里眞名美でしたっ。



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