第10話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(終わっちゃったのかな)
授業中なのに先生の言葉が遙か遠くに感じる。
「もしも、だけどね……」
頭にリフレインするのは、さっきのマナの言葉。
「もしも、ふたり一緒にマリアナに転校できるとしたら、千歳も行く?」
彼女はもしもの話、としたけれど。
きっともしもの話じゃない。
彼女はここを去ろうとしている。マリアナ女子に行ってしまう!
「千歳も行く?」
いけるわけない!
どうしよう?
どうやって引き留めよう?
どうすれば――
そんな僕の心の中で、別の僕が熱弁を振るう。
(背中を押してあげようよ! どっちが彼女のためになる?)
右手は勝手に黒板を写しながら、頭の中で彼女のことを想う。
彼女のためを思ったら、剛勇なんかやめた方が良いのだ。だって本当はこの学園の女子は彼女だけ。あとはみんな男、男、男。僕だって生物学的には歴とした男だ、見た目はBカップの変態種だけど。今朝の強引な勧誘だって凄く嫌そうだった。女子がいっぱい居たらあんなことはないだろうに。それに万が一にも、僕の正体がバレちゃったりしたら最悪だ。彼女は深く傷ついてしまうだろう―― 母さんには怒られるけど、マナはここにいない方が良い――
「どうしたの?」
マナの囁きに我に返る。
「何でもないわ。このお手紙、どうしてくれようかと思って」
授業前、西園寺から手渡された白い封筒を机の中から出してみせる、表には『俺部へようこそ』と書いてある。
「懲りないね、西園寺くん」
「もしかして、ウケ狙いかしら」
「違うわよ。天然100%よ。彼ってすっごく一途なんだわ。だけど千歳はあたしの恋人よ。絶対譲らないから、ねっ!」
冗談めかして笑う彼女。
胸って、本当に張り裂けるんだ――