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第7話

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 あたしは死に物狂いで勉強しました。

 こんなに勉強したのは初めてだと思います。


 千歳とは喧嘩してしまったけれど、だからといって、いいえ、だからこそ頑張ろうって思ったんです。千歳がいなくても出来るんだって証明したかったから。

 これは意地です。ええ、女の意地です。

 千歳が一番になれっていうんなら、なってあげます!

 こんなあたしにだって意地はあるんです。


 だけど――


「凄いね遊里さん!」

「急上昇じゃん」


 期末試験の上位50名が張り出されたボードの前でみんながあたしを褒めてくれます。しかし、あたしはちっとも嬉しくありません。


「おろっ? すげーな宮崎、載ってるじゃん」

「えへっ。だけど、クラスのみんなには内緒だよ!」

「うえ~ん!」

「泣くな、西園寺!」

「泣いてないも~んっ!」


 走り去る西園寺くん、試験の結果は悲喜こもごもです。

 あたしは周囲の注目を振りほどくように、ボードに背を向けました。


 やっぱり勝てません。

 頑張ったのに、あんなに頑張ったのに。中学時代は遙か先を行っていた西園寺くんにすら勝ったのに、千歳の背中すら見えません。


「やっぱり姉小路さんは別格だなあ!」


 背中から聞こえる声が全てを物語っていました。

 どんなに頑張ってもあたしは2番。首席は千歳の指定席で、他の人が侵すどころか、近づくことすら許されていないのです。

 放課後の廊下を歩き、誰もいない階段の踊り場までくると、小さな嘆息が漏れました。



  1番 姉小路千歳 872

  2番 遊里眞名美 795

  3番 西園寺貴之 783

  4番 東野欣也  767

  5番 高岡恭一  759



 いつものことながら、千歳は断トツでした。あたしも一気にジャンプアップしたんですけど、点数的には全然及ばず。悔しいです。悔しい悔しい。いつもなら千歳に負けても全然悔しくなんてないのに、今回はとっても悔しい。あれほど教えてくれたのに。千歳のヤマは恐ろしいほど当たったのに。しかも千歳は試験の1週間前まで学校を休んでいたんですよ。あ~もう、あたしのばか! ばかったらバカバカ――


 と、突然、戸惑いがちな声が降ってきました。


「どうしたのマナ?」

「え、あ、べ、べべべべ別に……」


 焦っているのが丸わかりのあたし。千歳は余裕みたいで、にっこり微笑んでいます。あ~っもう、色々悔しいっ!


「結果、見た?」

「え、あ、うん」

「やっぱりマナは凄いわね」

「凄くないわよ。千歳が一番じゃない!」

「ええ。それはそうだけど――」

「あたしを笑いに来たの?」


 いけない、そんなつもりはないのに。

 これじゃまた喧嘩になっちゃう。


「違うわよ」

「千歳はあたしに一番になれって言ったものね。でもあたしはあのザマよ」

「いや、そんな意味じゃなくって」

「じゃあどんな意味?」


 ダメだわ、あたし。どんどん自分を追い込んでる。

 そうじゃない。そうじゃなくって、あたしは千歳の本心が知りたい。ただそれだけなのに。だけどあたしは……

 何かを言おうとする千歳に背を向け、早足で歩き出しました。


「……マナ!」


 背中から聞こえる声に耳を塞いで、泣きたい気持ちを振り払うように、そこから逃げてしまいました。


 9月から、女の子はひとりになります。

 きっと千歳はあたしを一番にして、次の生徒会長に相応しくしたいんじゃないでしょうか。4月になれば千歳はいなくなります。そう言う意味では、あたしは一番です。だからこれでいい、彼はそう言いたいのかも知れません。だけど、それにどんな意味があるのでしょう? 生徒会長なんてどうでもいいんです。100人以上の女生徒の入学が決まった今、あたしが生徒会長になって何の意味があるのでしょう?


 それに、来年になったら神愛ちゃんも入学します。千歳の妹の神愛ちゃん。これからの剛勇は彼女を中心に回るんじゃないかな? 彼女にはそれだけの力があります。賢いし、コミュ力も抜群だし、それにとっても可愛いし。千歳が高嶺のクールビューティーなら、神愛ちゃんはキラキラのトップアイドル。顔も頭脳も性格も、ずるいくらい恵まれた姉妹です。


 勿論あたしだって希少な二年生女子として、新入生たちのために頑張ろうと思います。途中で投げ出すのは大っ嫌いですから。でも、流石にサリサリまでいなくなるのは予想外だったわけで――

 期末も終わり、試験休みのあとは卒業式。そうしてあたしたちは二年生になります。


「どうしたのわよ?」


 誰もいないお手洗い、見つめていた鏡の中にスッと現れたのは、心配顔の金髪の美少女。あたしは慌てて振り返りました。


「あ、ううん、これは…… 何かな?」

「ほら、ハンカチわよ」


 頬を伝うものの言い訳が思いつかず、それでも掌を振って彼女の好意を断りました。


「学園長センセが探してたわよ」

「え? 何の用かしら?」

「知らないけど、後で行くのわよ」


 呼ばれる用件など心当たりもありません。鏡を見ると泣いた後の顔です。目がちょっと赤いし。あたしはポケットからハンカチを取り出しました。


「千歳と何かあったのわよ?」


 少し鈍感な彼女にも、最近の千歳とのギクシャクした関係は、流石にバレていたみたい。


「喧嘩してるのわよ?」


 ストレートに言い当てられます。でも「ええ、喧嘩してるのよ」なんて答えるほど開き直れないあたし。笑って誤魔化そうとしましたが、彼女はそれを是定と受け止めたみたいで、顔を寄せてきて、息巻いて言いました。


「最近の千歳は何だか秘密主義だわよ。アタイがガツンと言ってやるわよ!」


 そう言うとあたしの制止も聞かず、大股でズンズンと手洗いを出て行きました。

 残されたあたしは自分の脳細胞に鞭を打ちました。

 学園長先生が探していたのなら、これからいかなきゃいけないでしょう。


 でも何故?


 2番だし、成績を褒めてくれるためじゃないでしょう。サリサリの母校から誰か来る話でしょうか? いいえ、サリサリはその可能性は高いけど、まだ決まってないと言ってました。決まってもないことをあたしに伝えるなんてあり得ません。身内の千歳や神愛ちゃんなら未定事項でも話したりするでしょうけど。


 あたしを呼んだ理由、それって一体何なのでしょう?

 ふと、全てが結びつくストーリーが浮かびましたが。

 いや、まさかね……



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