里へ 2
薄暗い穴を特に問題が起こることもなく進み続け、ようやく入口から見えていた光のそばまでまで近づいた。
案の定光の正体は出口から見える穴の外の光で、それ以外のなにものでもない。
ただ、暗闇に目が慣れきっているからか、光が眩しくて穴の中から外の様子を見ることは出来ない。
「さて、ここから先に恐らく私が知ってる里があるはずなんだがな」
「ようやく拝めるわけですね」
そう言ってキリウが早足で歩き始め一人先を行く。
呆れた顔をしていたがなんだかんだキリウも楽しみにしていたのか、心なしか興奮しているようにイリスの目には映る。
一人先を行くキリウを見て堪らなくなったのか、アリスも「私もー!」といつものように宙へ浮いたままキリウの後を追いかける。
幼さを丸出しにする二人の勢いに一人置いてきぼりされたイリスは、きょとんとした表情を浮かべた後すぐさま我に返り、「置いていくな!」と二人を追った。
長く続いていたこの穴も終わりを迎え、ようやく出ることができるとキリウが思い、一体どんな景色が広がっているのだろうと胸を弾ませていた。
その時、後ろから風の如く凄まじい勢いで追いかけてきたイリスが大人げなくキリウの横を通り抜け、奇妙な笑い声を上げながら全速力で追い抜いていった。
「ふはははは!! 子ども達よ、一番乗りは渡さんぞ!」
何故ローブを着ているのにあんな速度で走れるのだろうとか、何故一番乗りにこだわっているんだろうとか、思うことは色々とあったが、取り敢えずイラッと来たのがキリウの第一の感想だった。
キリウも追い抜かれたのを見てすぐに走り始めたが、大人と子どもという体格の差、それに加え元々出口のすぐそばまで近づいていたということもあり、イリスはキリウ達が追い付く前に一人出口へと辿り着いた。
出口に到着し気が弛んだその瞬間、全力疾走をしていたため速度が未だ緩みきっていない状態のイリスの足に、なにかが引っ掛かった。その結果走った勢いのまま、身体は前方へ向かって飛んでいき、イリスの身体は少しの間空を飛んだ。
空中漂う中、僅かな時間でイリスが自分の足があった場所を見ると、そこには狙ってあったとしか思えないくらい絶妙な位置にピンと張るようにして配置された縄があった。
空中で縄を確認したイリスはそれ以上抗うこと無く、流れに身を任せ、そのまま綺麗に顔面から着地した。岩に頭突きした時と同じような構図である。
その転ぶ瞬間を一瞬も見逃していなかった後続二人の肩はプルプルと震え、今にも笑いが漏れだしそうになっている。
ただここで大笑いしてしまうと、後で何を言われるかわからないため必死で堪えているのである。
それでも時折吹き出してしまい、「ぷっ」、「くっ」といった声が小さいながらも聞こえてくる。
イリスも流石に恥ずかしいのか、顔面を地面に着けたまま起き上がろうとしない。
土下座のようなその体勢が一層笑いを誘うのだが、堪えるので精一杯の二人はそれを言葉に出来ない。
そんな空気を破ったのは、出口の方から聞こえてきたカランカラン、という木と木のぶつかり合う渇いた音だった。
その音はまるでイリスが以前設置鳴子と同じような音をしていた。
故にイリスが真っ先に音の意味に気づき、今まで突っ伏していた顔を上げてすぐさま体勢を直し、二人の前に立ちはだかるように構え、周囲を警戒した。
音が鳴って少したったが、イリスと同じように遠くから警戒するためのものだったのか特に周りに変化はなく、イリスの索敵にもこれといって気にするようなものは引っ掛からなかった。
しかし、ゆるゆかではあるが静かに着実に、キリウ達の背後の闇の中からなにかが近づいてきていた。




