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死霊使いの反教典  作者: すずのーと
第一章 少年期
13/15

里へ

少し空いてすいません

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「里、ですか?」

「ああ、そうだ」


 隠れていた洞窟から出て暫く、キリウとイリスは現在とある場所を目指して歩みを進めていた。

 至って健康な様子ではあるのだが、まだ目覚めたばかりのキリウをそのまま危険があるかもしれない場所へと連れて歩くのもイリスがいるとはいえ流石にはばかられる。そのため襲われる心配も無く、安全に休息が取れる場所ということで、イリスが言う『里』へ向かうことになった。

 『里』というものがどういうものかキリウは具体的に聞いていないが、昔イリスが世話をした人たちが隠れ家として作った小さな村のようなもの、という説明だけ聞かされていた。

 どうも説明が難しいとかそういう理由ではなく、その里と言うものを見てキリウに驚いて欲しいらしく、敢えて詳細を伏せているようだ。

 悪戯心というか、子供心の消えない師匠に内心やや呆れつつも、驚くような何かがあるということを密かに楽しみにしながらキリウはやれやれと肩を竦めた。


◇ ◇ ◇


 そろそろ一時間は歩いたといったところだろう。

 最初に修行した場所からは遠く離れ、暗く広大な森を抜け、今では長く険しい山道を歩き始めている。

 洞窟を出たときにはまだ低い位置にあった太陽も、今では上からキリウ達を照らし、早い時間とは言え直射日光は暑く、二人の額に汗を滲ませる。

 永遠にも感じる急な坂道をよたよたと登り続ける。キリウのために時々休みを挟んではいるが、視界がずっと変わらず坂道というのは精神的にもかなり苦しいものがあり、流石のイリスも疲労の色が見え始めている。


「師匠……こんな山に本当にあるんですか……?」

「ある……はず。この辺りだったと思うんだがな……」


 何故か自信無さ気になったイリスに軽い絶望を覚えるキリウ。


「二人ともだらしが無いぞー、もっと元気よく行こうよー」


 疲労感漂う二人の周りを涼しい顔をしたアリスが飛ぶ。

 登る途中暇だったからか「応援する!」といって飛び出してきたアリスだが、数十分と経たない内に飽きて辺りをちょろちょろと飛び回るだけになり、最終的には一人で山の麓まで飛んで行ってまた戻ってくるという謎行動をしていた。

 歩くしかない二人からすると、空を飛びまわる光景は精神的な毒にしかなりえなかったのだが本人に悪意がないこともわかっているため強く言うこともできず、疲労は溜まる一方だった。


「お前は空を飛べていいなあ、ちょっと私を掴んで浮いておくれよ」

「無理無理、重いし……ちょっと! 実体化リアライズしないで、落ちるから!」

「へっへっへ、よいではないかよいではないか」


 空を飛ぶアリスを実体化し、着ている白いワンピースに掴みかかるイリス。

 傍から見ればどう見ても変質者である。

 変質者、もといイリスはアリスの声に耳を貸さず、力を弛めることなく、むしろアリスの身体に本気でぶら下がろうとしているのか更に力を込めている。

 小さな子どもの身体に大きな大人がぶら下がろうとした、その結果としてなにが起きたのかは言うまでもなく単純なことだ。

 重量に耐え切れなくなったアリスの身体は、宙へと釣り上げていた糸がぶつっと切れたかのように急に落下し、引っ張る力に対し突然抵抗される力を失ったイリスは踏ん張る暇も無く前回転するように前方にあったとてつもなく堅そうな岩壁へと頭突きした。

 なんとも形容しがたい打撃音と共に「へぐおあ!」という謎の奇声が周囲に響き渡る。

 頭部に炸裂した激しい痛みに流石のイリスも頭を押さえ蹲る。

 頭突きする直前にちゃっかり実体化は解いていたらしく、アリスには何の怪我はなく、またいつものように飛び上がっていた。アリスはそのまま痛みに悶えるイリスの方へと視線を送るが、その目は細く、酷く呆れている様子が見て取れる。

 自業自得なのだから当たり前なのだが。


「あれ?」


 キリウもそんな師の様子に哀れな視線を送っていたが、正面の岩壁のイリスの頭突きをした箇所から小さくではあるが、亀裂が入っていることに気づく。

 確かに凄まじい頭突きではあったが、見た目からしていかにも堅そうなこの岩壁を砕くほどではなかっただろうと違和感を感じる。


「や、はり……ここだった、か」

 

 キリウの声に反応するように、イリスは呻くように言葉を発した。

 頭を押さえ、ふらふらとよろめきながらも立ち上がったイリス。

 あれだけの激突をしておきながら、血の一滴も流していないのは流石と言ったところなのだろうか。


「入口を隠していたのか……どうりで、見つからないわけだ」


 イリスは未だ頭を片手で押さえながらも、もう片方の手を壁へと翳した。

 いつも通り赤い光が迸ったかと思えば正面の岩壁は消失し、壁の後ろにあった穴が露出していた。念のため言っておくがイリスの魔法によって空けられたものではない。

 しかし、消失したはずの岩壁を補うようにして、道を塞ぐように周りの岩壁からガラガラと岩が転がり落ちてきている。

 転がり落ちた岩は魔法がかけられているのか、混ざり合うように繋ぎ目も無く融合し、下の方から次々と壁を修復し始めている。

 イリスはその光景を見て一言「ほう」と発したがそれ以上はなにも言わず、塞がりきる前に穴のほうへと進んでいった。キリウとアリスもそれを見て急いで追いかける。

穴はずっと真っ直ぐに続いておりかなり先のほうではあるが、光が微かに見える。


「それじゃあ行くぞ」

「はい」

「らじゃー」


 遠くに見える光を目指して、三人はまたゆっくりと歩き始めた。

 

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