目覚めて
薄暗い洞窟の中、水滴の落ちる音とぱちぱちと小さく弾ける様な焚き木の音が周囲の岩に反響している。
人気のない洞窟、そんな中焚き木に照らされ伸びた影が二つ、天井まで伝うようにして壁に映る。
言うまでもなく影の正体はイリスとキリウの二人だが、二人の間にある雰囲気はいつものようなどこかおちゃらけた雰囲気のある楽しげなものではなく、重くしんみりとした雰囲気を纏っている。加えて俯いているキリウの表情はやや暗く、話の重さを物語っているようだ。
キリウが目を覚ましたのはイリスがアーノルドとの戦闘を終え、アリスと合流してからすぐのことだった。アーノルドの他にも伏兵がいたら面倒くさいということで、目を覚ましたばかりで自分の現状をよく把握できていないキリウをつれて、ひとまず運良く近場にあった洞窟へと身を隠した。幸いなことに洞窟は入口の見た目に反して広く奥に広がっており、隠れるにはもってこいの場所だった。
取り敢えず明かりを確保するために、風かなにかで入ってきたのであろうそこらに落ちていた木の枝を拾い集めそれに火を灯し、転がっていた大き目の石を座布団代わりに腰を下ろして一息ついた。
戸惑っていたキリウも流石に頭の整理がついてきていたのか、一息ついた頃には既に普段と変わらぬ様子をしていた。腰を下ろした段階でどう説明したものかと首を傾げていたイリスに対してキリウは突然頭を下げた。
「すいませんでした」
「おおう、突然どうした」
戸惑うイリス。今回のことに関しては完全に自分に非があったと考えていたため突然の謝罪にイリスも驚かざるを得ない。
話をしてみれば、キリウはキリウでイリスと反対のことを考えており、すべて自分に非があると思っていたことがわかった。イリスは軽率な判断をした自分を、キリウは慢心していた自分を、師弟二人揃って自分が悪いと考えていたのだ。
自分が悪い、自分が悪いと互いに譲らず水掛け論に発展しそうだったため、この件はお互いに謝る事で終わりにしよう、そんなイリスの提案に則り、お互いに頭を下げることでこの話は素早く終わりを迎えた。
だが、イリスにとってまだ肝心な部分の話が済んでいない。
「それでその……大丈夫、なのか?」
「ええ、もう体力は戻りましたし。これといってなにか異常が見えるわけでもないですし」
「そうじゃなくてだな……」
「……今回の体験は堪えましたよ」
苦笑したようにも見える、なんとも言えない複雑な表情を浮かべたキリウがイリスにそう言う。
この答えはイリスも想定内であったため、特に驚くことはなかった。ただキリウの浮かべる苦しげなその表情がイリスの胸をきゅっと締め付けた。罪悪感、それも感じてはいるがなにか別の思いがイリスの胸の中にはあった。
イリスも努めて冷静に振舞ってはいるが、その先の言葉をある程度予期できてしまっているためか、僅かながらも顔が俯く。
「ただ、僕は止めないですよ」
そんなイリスの反応を見てか知ってか、キリウはそう言葉を続けた。
キリウの言葉に、少し驚いた様子でイリスがぱっと顔を上げる。
その様子を見たキリウは、そんな根性なしだと思われていたのかと一人心の中で少し落ち込んでいるのだが、それをイリスには悟らせないよう気丈に振舞う。
「まだ、死霊術を完璧に出来てませんからね」
キリウは口の片端を上げニヤリと笑みを浮かべる。
それを見たイリスは先ほどまでの様子を一転させ、ぷっと吹き出したかと思うと大きな声で笑い始めた。
キリウなりの冗談がつぼに入ったのか単純に馬鹿らしくなったのかはわからないが、ようやくいつもの雰囲気に戻り始めたとキリウは安堵し、胸を撫で下ろす。
イリスはひとしきり笑った後はー、と音に出して大きく息を吐いた。
「あーあ、なんだか心配して損した気分だよ」
「僕はそんなにやわじゃないですよ。師匠もよく知ってるはずでしょう?」
「はっはっは、そうだったな」
イリスはまた笑って、キリウの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
いつもだったら照れているキリウも、今日は照れるとかそういう感情ではなく、ただ懐かしさ感じる暖かい気持ちだけが胸に宿っていた。




