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レヴァールの華  作者: 紫音
偽者編
7/52

初対面

 


 皇都内にある一際大きな屋敷。

 フィオナはその一室に連れてこられ、言われるがままソファーに座っていた。後ろにはアンリが控えている。それ以外には誰もいない。


「ねぇ、アンリ?」

「どうかされましたか、姫様?」

「……魔族って、どう思った?」

「そう、ですね……私如きが失礼かと思いますが、見た目は私共と変わりないことには驚いております。書物や噂ではその存在は人間を凌駕する力を持ち、殺戮を繰り返す残忍な性。理性を持った魔物と大差はありませんでした」


 人間の国では魔族の話は書物でしか知ることはできない。

 魔力を持っている化け物。戦力では魔族に人間は到底勝てない。だが知性を以って人間は魔族と長きに渡り戦いを繰り広げたと言われている。魔族と渡り合うことができたのは、人間の知識が魔族のそれを上回っていたから。それが人間たちの間では真実として受け止められている。

 言葉を話し、理性を持ってはいても、人間とは相いれない存在だと伝えられてきたのだ。

 嫁ぐとはいえ、それはあくまで便宜上のものだとフィオナもアンリも考えていた。簡単に言えば、人質。この地で隔離をされながら、形式上の妻として在るだけだと。だが、先ほどの皇王との会話からそうではないことがわかった。本当に魔族に嫁がせる気なのだ。人間を。しかも皇王の身内が相手だという。何か目的があるのかもしれないが、フィオナには人間と魔族の関係性すらわからない。交渉の場にいたにも関わらず、どんな交渉がされたのか知らされていないのだ。

 人質なのか。それとも別な理由があるのか。容姿は人間と同じだが、皇王から感じた恐怖。いずれ、フィオナに迎えられるのは死の恐怖かもしれない。そう思わせるだけの眼差しがあの時の皇王にはあった。レヴィンドライ公爵からは何も恐怖は感じなかったが。

 考えれば考えるほど、頭が混乱していく。そんな思考を遮るかのようにアンリが再度口を開く。


「姫様、お気を付けください。魔族は、人間を憎んでいる。それは事実な気が致します」

「それは、あの葉磨という人が言っていたから?」

「いいえ、それだけではございません。城内での周囲の視線、ここに至るまで感じた気配もすべてが悪意あるものでしたから」


 悪意。それはフィオナも感じていた。

 今まで好意的な視線を感じたことはない。即ち、歓迎されていないということは少なくとも事実であるということ。そこに憎しみが加われば、どういうことになるのか。


「……護身術、もうちょっと習っておけば良かったかな」

「姫様……及ばずながら、私は武術も嗜んでおります。万が一の場合は、命に代えても―――」

「アンリ!」


 アンリの言葉に声を荒げた。その続きは聞きたくないという意志表示だ。


「命は自分のために使って。私は……偽物、だから……」


 アンリ以外に聞こえないように小さく呟く。ここにいるのはエルウィン=グラコス。だが、フィオナはフィオナだ。決して王の娘ではない。誰に告げることはできなくとも、それは事実。そんな自分のために、命を、なんて言葉は使ってほしくない。フィオナとしての精一杯の言葉だった。

 だが、アンリは首を振る。


「ここにいる方をお守りするのは、私です。それは貴方様以外にはありえません。この地に共に来るときに、そう誓ったのです。これは譲れません」

「アンリ……」

「ですから、姫様は姫様が思うままに行動してください」


 小さく、エルウィンの性格など誰も知らないのだから、と付け足された。その通りだ。ここにいるのは名前が違うだけで、フィオナ自身。例えもう二度と名前を呼ばれなくとも、ここに在るのはエルウィンではない。アンリの心遣いが嬉しく、フィオナは魔族の国にきて初めて笑みを浮かべた。

 そこへ、扉のノックの音が届く。


「エルウィン嬢、失礼する」

「は、はい!」


 扉が開くと当時に入ってきたのは、レヴィンドライ公爵。そして。


「待たせた。これが息子だ……神琉(カンル)


 公爵に続いて来た人物をみて、フィオナは思わず目を見張った。人間ではまずお目にかかることのない見事な銀髪。そして瞳は藍色だった。


「……神琉=レヴィンフィーアだ」


 彼が公爵の息子。そしてフィオナの結婚相手。葉磨も美青年だったが、彼はそれ以上だった。少年と青年の境にあって、誰もが見惚れるだろう容姿に、フィオナは圧倒された。


「フィ……姫様っ!」

「えっ、あ……お、お初にお目にかかります。エルウィン=グラコス、と申します」


 アンリに声を掛けられ、我に返ったフィオナは慌てて礼を取った。これが、神琉との初対面だった。





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