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レヴァールの華  作者: 紫音
偽者編
6/52

魔族の国

本日2話目の投稿です。

短かったので連続して更新しました。まずは前話を読んでからこちらをお読みください。

 馬車を降りると、そこは建物の中のようだった。


「姫様、大丈夫ですか?」

「えぇ……ありがとうアンリ」


 アンリが差し出した手を取り、フィオナは地に足をつける。

 ここが魔族の国、シュバルツ。辺りを見回しても人間の国と大差はないように見える。いや、寧ろ文化レベルではこちらが上なのかもしれない。何より目を引いたのが、廊下の天井には光る玉のようなもの。それが埋め込まれているのだ。窓がない廊下にも関わらず明るいのは、ランプがなくてもそれが光っているからなのだろう。村にはもちろん、人間の国で最も華やかだと言われている王城でも見なかったものにフィオナは驚きを隠せない。


「すごい……」

「……いつまで呆けている。ついてこい」

「えっ、あっはい。申し訳ありません」


 男が颯爽と歩いていくのをフィオナは小走りで追った。見失えば迷子は確定であり、命の保証さえもない。

 目の前の男が示す道を行くことだけが、今できる最善のことだった。


 長い廊下を進む度に訝し気な視線が行きかう。何かを囁いているようにも見えるが、こちらまで声は届いてこないので何を言っているかはわからない。

 それでも良いことではないことは確かだろう。

 その視線が好ましいものでないことくらいはフィオナでもわかるのだ。


「ここだ。いくぞ」

「……わかりました。ありがとうございます」

「礼を言われることではない」


 冷たい言葉ではあるが、彼は会話をしてくれている。その分、フィオナは救われている。

 それほど交わした言葉はないが、歓迎してくれていなくとも無下することはなかった。周りの反応を見るに、この態度はかなり譲歩してくれているように思う。

 男が重たい扉を開ける。


「失礼いたします。皇王陛下、葉磨(ヨウマ)=カルビナン、交渉の場より戻りました」


 足を踏み出す前に、男は名を名乗って礼を取った。

 それを見て、フィオナは王女としての礼、スカートの裾を挙げ頭を垂れた。


「戻ったか。ご苦労だった、下がってよい……人間の姫、こちらへ」

「はい」


 そのまま葉磨と名乗った男はフィオナが前へ出たのをみると、自身は下がり扉を閉めた。フィオナは、まっすぐ前を見て皇王と呼ばれる人物をその眼に宿す。

 灰色の髪に黒目、見た目は40代の頃だろうか。フィオナの父よりも若いようにも見える。皇王の王座にほど近い場所まで歩みを進めると、フィオナは再び礼を取った。


「お初にお目にかかります、皇王陛下。エルウィン=グラコスと申します」

「魔族の国へようこそ、人間の姫。余は、(カイ)=レイン=シュバルツ。其方を待っていた」

「……光栄に存じます」

「面を上げよ」

「はい」


 顔を上げると、深い黒の瞳がフィオナを射る。その眼差しに射抜かれたように、フィオナは膝が震えるのを必死で抑えた。頭を支配するのは恐怖心。目の前の王と視線があっただけ。それだけでフィオナ自身は言い知れぬ恐怖を感じた。

 逆らってはいけないような威圧感があるわけではない。表情が怖いわけではない。温和な表情をしている。だが、その瞳を見ただけでフィオナはその先に死を覚悟した。


「怖がらせたか。すまないな」

「っ……い、いえ」

「人間とはいえ、魔力を持っているのは間違いないようだ。少し確かめたかっただけだ、其方に何かをするわけではない。安心せよ」

「……」


 確かめるというのが何を言っているのか、フィオナには理解できていなかった。だが、突如皇王の瞳から何かが和らぐのを感じる。と同時に、フィオナの中にあった恐怖心が薄れていった。


「あっ……」

「力を緩めた。もうそれほど恐怖は感じぬだろう?」

「はい。ありがとうございます」

「ところで、其方は父よりどのように言われてこの地へ出向いたのだ?」


 フィオナは一瞬何を言われたのかわからなかった。父から言われたこと。ここでいう父とは、フィオナの父ではない。人間国の王のことだ。冷静になるため、フィオナは息を吐き、言葉を紡ぐ。


「魔族の国へ嫁ぐようにと、そう言われております」

「誰、とは言われなかったのだな?」

「はい。それ以外は何も言われておりません」

「そうか……其方は16となったのだったな。ちょうど年の頃もよいだろうと、余の甥でありここにいるレヴィンドライ公爵の息子へ嫁いでもらう」


 王族との婚姻ではあるが、歓迎されていないということもあり、まさか皇王の身内の元へいけと言われるとはフィオナは思っていなかった。年の離れた男の元へ嫁がされることを覚悟してきたのだ。

 魔族が人間と同じ容姿であったのは幸いだったが、それでも家族を守るためならいくらでも我慢をするつもりだった。これを断る理由はフィオナにはない。


「承知致しました」

「……顔を見ずに決めてよいのか?」


 そういう約束です、とは言えなかった。まさか配慮するような言葉が魔族の王から出てくるとは予想外である。皇王は、人間が嫌いではないのだろうか。それとも、あの男が言うことが間違いなのだろうか。

 いずれにしても今のフィオナには判断できないことだ。フィオナは再び頭を下げる。


「私にはそのような権利はありません。ご配慮ありがとうございます」

「人間の姫は、思いの外強者のようだ。では、公爵。あとを頼む」


 後を公爵に任せるといって、皇王はそのまま王座と後にした。残されたフィオナは、レヴィンドライ公爵と言われた人物と向き合う。鳶色の髪に黒目。皇王よりは恐怖を感じないが、それでも底知れない威圧感を感じさせる人物だった。


「……改めて、ようこそシュバルツへ。私は煉琉=レヴィンドライ。この国では貴殿の保護者ということになる」

「ありがとうございます。エルウィン=グラコスと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

「あぁ、では我が家に向かおう。息子に引き合わせよう」

「……承知致しました」

「私の息子は、神琉(カンル)という。年は17になった。少々気難しいところもあるが、仲良くしてくれ」

「はい」


 神琉様。

 声にならないくらい小さく呟く。どのような人物か、知るのが怖い。だが、目の前の公爵はフィオナを軽視していない。好意的に話をしてくれているようにも見える。

 魔族は人間が嫌い。でも、この方々の国ならやっていけるかもしれない。このときフィオナはそう思った。だが、それはつかの間の優しさだったことに今のフィオナは気づく由もなかった。


 扉の外で待機していたアンリを連れ、フィオナはレヴィンドライ公爵家へと向かった。





そのうち登場人物をまとめるかもしれません。

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