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レヴァールの華  作者: 紫音
婚約期間編

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初めての舞台へ

 

 彩璃(サイリ)からの花嫁修業と称した扱きを受けてから、一ヶ月が経った。

 作法、振舞いも合格点をもらえるように成長したフィオナに、招待状が届く。正確には、神琉(カンル)への招待状だが、既婚者がいるもしくは婚約をしている場合はパートナーを同伴するのが通常だ。神琉と婚約を交わしたフィオナも例外ではない。更に言えば、今回は皇城で行われる公的なパーティーだった。毎年行われる創立祭なのだ。主催者は皇王である。断ることはできないものだった。


「パーティー……ですか」

「日時は一月後、準備する時間に余裕はある。拒否は出来ないから、既に決定事項だ。俺が婚約したことは知れ渡っているから、フィオナを紹介するという名目もあるのだろう……」

「あ……」


 紹介する。それはフィオナの顔見せを行うということだ。

 神琉は皇族の一人。次期皇王候補の一人でもある。貴族たちの注目は常に浴びていると、彩璃も言っていた。魔族たちの中で、その神琉の婚約は最重要事項の一つだったとも。高すぎる魔力のせいで尻込みしていた儀式も、相手が人間ならば生き残るはずがないということでいやいや許可した部分もあるという。結果として、フィオナは生き残ってしまった。神琉の血を受け入れた上で。これには貴族たちは大いに慌てたらしい。あきらめの悪い連中の中には、よからぬことを企んでいる者もおり、彩璃から警告を受けていた。皇王が定めた事項に異議を唱えることなどできないが、皇族に人間が嫁入りすることに対しては、未だに反対意見が多く、危険が及ぶ可能性は否定できない、と。

 フィオナに自衛の手段はない。戦うことは出来ず、魔法も使用できない。魔族からすれば、害することが容易にできる相手だ。護身術も習ってはいるものの、センスがないためか使い物にはならないと言われている。出来るのは逃げることだけだ。いずれにしても、不安しか感じることが出来ない状況だった。


「フィオナ……?」

「……行かなければ、ならないのですよね。どうしても……」

「あぁ。陛下の命令だ。いつまでも隠しておいても仕方ないしな」

「……」


 神琉のいうことならば、フィオナは従うほかない。肩を落としたフィオナに、神琉も何を考えているのか理解したようで、スッと立ち上がるとポンと頭に手を乗せてきた。


「か、神琉様?」

「不安になるのはわかる。悪い状況であることも否定しない。だが……今回は俺が常に傍にいる。君に手出しはさせない」

「っ……あ、ありがとう、ございます」

「堂々と俺の隣にいるだけでいい。それが今回のフィオナ、君の仕事だ」

「は、い」


 仕事、という響きに義務感を感じてしまうが、神琉なりにフィオナを気遣ってくれているのがわかる。ただ、傍にいるだけ。フィオナは、その言葉を胸に刻んだ。神琉の恥にならぬよう、作法だけはきっちりしようと決めて。



 当日に着ていくドレス、アクセサリーを彩璃と共に決め、少しずつ準備を始めていると、あっという間に当日が来てしまった。

 創立祭は、魔族たちの中では最大のお祭りとされているらしく、皇都も賑わいを見せるらしい。まだ不慣れなフィオナは、外を出歩くことは許されないので見に行くことはできない。尤も、パーティーのことで頭がいっぱいでそれどころじゃないというのが本音だ。


「大丈夫ですか、フィオナ様?」

「だ、いじょう、ぶ……じゃないかも」


 淡いブルーのドレスに身を包んだフィオナ。髪飾りは銀色。どれも神琉の色を取り入れたものだ。魔族の中にある風習で、恋人や伴侶がもつ色を取り入れるのはよくあることだそうだ。ある意味で独占欲を示すらしく、神琉の牽制にもなる。彩璃が積極的に入れることを望み、神琉も了承した。軽くメイクを施して、準備が万端となったフィオナはそわそわと落ち着かなかった。


「準備は出来たか?」

「神琉様」


 そこへ着替えを終えた神琉が迎えに来る。神琉の服装は、フィオナの色に合わせた礼服だった。おそろいの色ではあるが、神琉の方が少し濃い色で金糸が散りばめられている。どこか軍服をにおわせるような服は、貴族の当主らが着る正装ということだった。きっちりとした恰好をする神琉を見るのは婚約式以来だ。胸元に添えられた花は、紫色。フィオナの瞳の色に似せているのがわかる。


「……良く似合っているな」

「っ~……あり、がとうございます」


 少しだけ目を細めて告げられた言葉にフィオナは、顔を真っ赤に染める。褒められることは嬉しい。同じように目の前の神琉のことも褒めたいのだが、言葉にならなかった。


「では行くぞ」

「……は、いっ」


 フィオナの様子に苦笑しながら、神琉は手を差し出した。ゆっくりとその手に己の手を重ねると、神琉が優しく握りしめてくる。そして、惹かれるように足を踏み出した。用意してあった馬車に乗り、向かうのは皇都だ。



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